FAの世界

2章:慶びごと - 4 -

「嗚呼、なんて……百合の茎のように、甘い香りがいたします」
 股間に顔を寄せた男は、陶然と囁いた。かおりをふくむ蜜房みつぼうを優しく揉みながら、屹立に高い鼻をこすりつける。すると、蜜口が切なげに喘ぎ、一滴ひとしずくの蜜をしたたらせた。
うまし蜜が……」
 恍惚の表情で囁いたしもべは、赤い舌を伸ばし、雫を舐めとった。そのまま性器に短いくちづけを繰り返し、根本までおりると、くぼみに強く吸いついた。
「ぁんっ」
 烈しい悦楽の目眩が虹を襲った。
 こぽり……震える性器から、透明な雫が溢れでる。しもべはそこを凝視したまま、ほっそりした大腿を押さえつけて、くちを大きくひらいた。
「ぅあッ」
 熱い粘膜に包まれて、虹の意識は一瞬で溶けそうになった。無意識に足の指先がきゅうっと丸くなる。
「ん、ふ……だめっ」
 虹は躰を横に倒そうとするが、緩慢な動作にすぎず、たやすく阻まれてしまう。
「甘い……ン、もっともっと、味わせてくださいませ、ぁ……うまし蜜に感謝を……っ」
 甘く貪り喰われて、深い酩酊の波濤はとうに揺られていると、ひくつく後孔に指が触れた。びくりと虹が震えると、指の動きは一瞬止まったが、
「こちらも……朝露に濡れた薔薇の蕾のようでございます。なんて魅惑的なかぐわしい香気なのでしょう……っ」
 昂りをしゃぶられながら、長い指がつぷりと蕾にもぐりこんでくる。
「ぁ……あ、あぁっ」
 敏感な肉壁をなぞられると、総身が切なげに震えた。長い指を抜き差しされるほどに、じゅぷじゅぷぷっと水音は激しさを増して、大腿にまで垂れた。
「嗚呼、こんなに蜜をこぼしてっ」
「や……っ」
 身を起こそうとする虹の肩を、アーシェルが後ろから押さえこんだ。
「さぁ、種蒔きを始めましょう」
 祈りを促す信徒のように、優しく告げた。
 神聖といっても過言ではない口調だったが、虹は壮絶な予感に襲われた。
「……種蒔きって、まさか……僕のなかに?」
「ええ、虹様。貴方様は多産と豊穣の象徴。種を蒔けば、必ず実を結ぶのです」
 嗚呼――己の躰の変容と、恐ろしいなりゆきに身震いする。しかし眩暈を覚えると同時に、肉の疼きを禁じえなかった。
 アーシェルは戸惑う虹を仰向かせると、ぴったりと唇を塞いだ。
「んっ」
 既視感を覚える液体を口移しで飲まされ、虹はもがく。しかし、両腕を頭上でひとつに束ねられ、頬を固定されるともう、嚥下するしかなかった。
「ごほっ……何を?」
 涙目でにらむと、アーシェルは済まなそうな表情を浮かべた。
「ごく薄めた、子宮狂を誘発する媚薬でございます」
「媚薬っ?」
「どうか御無礼をお赦しください。虹様の負担を少しでも軽くするためでございます」
「そ……人を、なんと……」
 虹は怒鳴ろうとしたが、呂律はあやしかった。飲んだ傍から血潮が熱くなり、全身が火照っている。思考に靄がかり、もがく四肢の動きはさらに緩慢になった。
「我が水晶の君に、神の祝福を賜りますように……聖なる胎に、豊穣の実りを授け給え」
 天から遣わされた使途のように、涼やかな声で祝禱しゅくとうを捧げる。
 神秘的な姿でありながら、碧い双眸には、深く痼疾こしつとなった狂信者の恍惚が顕れているように見えた。
「実りを願い、種を蒔きましょう」
「ぃや……」
 虹は抵抗しようとしたが、小鳥のように、ささやかな動きでしかなかった。逃げ道を探して視線をめぐらせれば、焦がれるような幾つもの熱視線に搦め捕られた。
 ちりちりとけそうに強い視線が、しっとり火照った素肌を撫でる。
 一種異様な興奮に感染したように、或いは薬の効き目が表れたのか、虹の心臓は速く脈打った。
 美しい水晶族たちは、熱烈な恋をしているように、賛嘆と敬愛の眼差しで虹をじっと見つめている。
「水晶の君……」
 薄桃色の長髪の男が、虹の手をとり、恭しく甲に唇を押し当てた。その行為を、虹は無感動で見つめていた。
 男たちに促されるまま、四つん這いになり、足を開く。もはや羞恥心はなかった。
 しかし、腰を覆う薄絹がめくりあげられ、尻が外気に触れると、かつて味わったことのない不安がきざした。傍にアーシェルがいることを無意識に確認してしまう。
「どうか恐れないで、虹様……」
 彼は宥めるように虹に声をかけると、尻に手を伸ばした。
「んぅッ」
 虹はどうにか声を抑えようとしたが、そこに刺激を与えられると、こらえきれぬ嬌声が迸った。
「清らかな原初の水晶で、道を拓きます。幾千のたねが宿りますよう、祈りをこめて」
 叙情詩的な言葉を囁きながら、美しくも淫靡な円柱型の水晶を、ずずっと孔に埋めていく。
「く、ふぅ……ん……っ」
 少しずつ、少しずつ奥へと。絶妙な力加減で、虹の奥に入ってくる。
「少し、動かします」
 円柱をゆっくり抜き差しされると、虹の腰は勝手に揺らめいた。
「お上手ですよ、虹様……」
 アーシェルはうっとり囁きながら、円柱を押して、引いて、また押して……身をくねらせる虹の痴態を眺めながら、ゆっくりと丹念に繰り返した。水晶柱は水飴をからめたみたいに濡れて光り、くち、ぬちと粘着な音を帯び始めた。
 透明水晶は、押し広げられた媚肉の内側を明らかにする。そこに熱い視線が注ぎこまれるのを、虹はぼんやりと感じていた。
 美しくも淫靡な水晶が引き抜かれていく。水晶族たちの欲望の目が、熟れた秘孔に集中する。
「ぁっ……ふぅ……んっ……あぁんっ!」
 ぐぽっと抜け落ちた瞬間、虹は背を弓なりにして喘いだ。溢れでた蜜が腿を塗らしていく。
 美しい男たちが腿を掴んで足を割り広げ、そのうちのひとりが孔に顔をうずめた。
「ぁッ!?」
 舌を突きいれられ、拒む間もなく、激しく前後し始めた。
「待っ、はげし……ッ! うぁ……んぅっ」
 強烈な悦楽に襲われ、虹は全身を戦慄わななかせた。どうにか逃れようとするが、腰は固定され、身動きを許されない。秘めた孔を舌に暴かれ、じゅっじゅっじゅるる! 奥から溢れる蜜を、至醇しじゅんの葡萄酒、或いは生涯最後の御馳走とでもいうように、貪欲にすすられてしまう。
「ひっぃ、ぁ゛っ、んっ……やぁ! ぁあん……っ」
 全身が燃えるように熱い。汗を滴らせて、屹立から蜜が噴きあがり、乳首からも迸る。
 水晶族のしもべは欲望に眸をぎらつかせ、蜜に塗れた虹に手を伸ばした。
「ひぃ、離してぇ……っ」
 虹は哀願するが、彼らはやめたりしなかった。双つの乳首は、絶えず誰かの舌がからみつき、摘まれ、転がされ、びゅくびゅくと蜜を噴きあげた。
「あぁ、水晶の君! 愛しています……うまし蜜に感謝をっ……」
 普段は氷のように冷静な水晶族たちが、頬を紅潮させ、虹に夢中になっている。
 恍惚の表情で性器を口に含み、舌をからめてしゃぶりたてる。唇も、指も、汗も。虹の躰の全てが、彼らにとっては天上の美酒だった。
「あぁっ! んっ、ふぅ! あぁんッ」
 虹は混乱の極致で泣き喚いた。
 切羽詰まった声で窮状を訴えるが、淫蕩な饗宴は始まったばかり。疼く孔には、まだ舌しか挿れられていない。
 数えきれぬほどの絶頂を迎え、性器から何もでなくなると、群がっていた水晶族たちはいったん退いた。
「……?」
 虹は、うつぶせのまま、のろのろと顔をあげた。朦朧としており、瞳は潤み、頬は紅潮し、唇は朱く腫れている。もはや筋道をたてて考えることはできなかった。
「虹様……」
 目があったアーシェルは、驚いたように眸を瞠ると、急に渇きを覚えたように喉を上下させた。
 彼は、涙に濡れた虹の頬を労わるように撫でた。何度かそうした後、ゆっくりと虹に覆いかぶさる。月白げっぱくの髪が一筋、はらりと流れて虹の背に落ちた。その刺激だけで、虹の身体は木の葉のように震えた。
「虹様……お慕いしております、虹様……」
 アーシェルは少し冷たい掌を虹の背中において、ゆっくり撫でおろしていき……大胆に尻を揉みしだいた。
「ふぁ……んっ」
 あえかな声があがる。アーシェルは一瞬動きをとめ、次に虹の尻を親指で割り開いた。愛撫で潤みきったそこに、ひたと自身の熱い昂りを押し当てる。
「ひとつになりましょう」
「ぁ……」
 先端の肌のなめらかさ。熱さに、躰が陶酔を覚える。
 ――ようやく、与えられるのだ。
 思い知らされた気がした。ずっとこうしてほしかった。アーシェルが欲しかった。
「ぁ、アーシェ……っ」
 潤んだ声で虹が呼んだ瞬間、彼は一気に挿入はいってきた。
「ああぁぁッ!」
 初めての挿入。奥まで刺さる一突きに、虹は絶頂を極めた。脳がはじけ飛び、星屑になったように感じられた。
「嗚呼、虹様。とても……」
 アーシェルは虹の震えが治まるのを待ち、腰を遣いだした。緩急をつけた巧みな律動で子宮を突きあげる感触に、虹はうしおさながら、ふたたび欲望をたぎらせた。
「ぁ、あっ、はぁっ、はげしッ……あっ! あ、あっ、ン、ぁんッ」
 短く喘ぐ虹の背中を慈しむように撫でながら、浅く、深く、なかを抉る。
「は……」
 艶めいた吐息をもらし、アーシェルの楔がふくれあがった。熱い精液をどっと迸らせ、蠕動ぜんどうする媚肉を孕ませる。
 濃厚な精気がみちみちて、虹は恍惚の表情を浮かべた。悪魔的な愉悦だ。滾りに滾っていたものが放たれ、自らも放ち、熱く白く濡れていく……
 しかし、他の男が乗りあげてくるのを見て、官能の熱がわずかに引いた。振り向いてアーシェルを確認すると、
「虹様、うまし蜜をお与えくださりありがとうございます。次は、どうか兄弟はらからにお与えください」
 美貌のしもべは、虹の頬を優しく撫で、くちびるにキスをした。
「我らの飢えは、くちづけや抱擁だけでは癒されないのです。まぐわいこそが良薬……虹様は我らを養い、我らは虹様を養うのです」
「待って、あーしぇる……」
「恐れることは、なにひとつありません。これが水晶族の生きる流儀なのでございます」
 アーシェルが体を横にずらすと、別のしもべが虹の後ろに膝をついた。腰を両手でつかみ、躰を倒して背中にキスを浴びせる。
「水晶の君……愛しております」
 見知らぬ麗しい青年が囁く。
 初めて会ったはずなのに、そのたった一言に、深い思いがこめられていた。激しい恋情と欲情、畏敬の念と敬愛、そういったものが渾然一体になった声だった。
「待って……」
 力なく囁いたが、ぐっと腰がせりだされて、熱塊がもぐりこんできた。
「あ、あぁ……っ」
 喘ぐ虹の腰を撫でながら、男は横溢おういつする昂りを虹にしずめていく。震えながら泣いている屹立にも手を伸ばし、優しく擦りながら、根本まで埋めこんだ。
「くふぅ、ンっ」
「お慕いしております、水晶の君……心から愛しております」
 耳元で囁いてから、ゆったりとした抽挿ちゅうそうを開始した。虹を怯えさせないよう、配慮が伺えた。波間をたゆたうような律動に、虹の躰から次第に力が抜けていく。そっと背後をうかがうと、美しい菫色の眸と遭った。
「あぅっ!」
 不意打ちで奥を突かれ、虹はのけぞる。灼熱のくさびが力強い律動を刻み、やがてうねる媚肉の最奥に熱い飛沫を解き放つと、生命力が全身を循環するのが感じられた。
「なんて甘美なのでしょう。どこもかしこも……貴方様はっ」
 吐精の余韻を味わうような、感嘆めいた声だった。
 あまりにも非道徳的で、常識外れだと思っていたが、アーシェルのいう通りだった。虹はからからに渇いていて、瑞々しい精気を必要としていた。理屈を超えて間違いなく感じとれる。
 嗚呼――己は淫魔の眷属になってしまったのだろうか?
 次の男が虹の後ろに立ち、腰を掴んだ。やめて、虹は小さく懇願したが、いくつもの腕が伸ばされ、虹の躰を支え起こした。
「ああぁぁんッ」
 ぐんっといきりたつ屹立に突きあげられ、虹は胸をさしだすようにして喘いだ。正面にたつアーシェルの、燃ゆるがごとき眸と遭う。海よりも碧い瞳は、ぎらぎらと肉食獣めいた欲望に翳っている。
「んっ、ふぅっ!」
 唇を奪われ、強引に舌が割って入ってくる。激しく貪られながら、突きあげられる。
 艶めかしい腰の動きで、横溢おういつしたつるぎに貫かれ、虹は髪をふりみだした。暴れようにも、四肢を搦め捕られて逃げられない。
「ひぁッ! そこぉ……っ……ああぁッ!」
 情け容赦なく揺さぶられて、心臓は壊れそうなほど動悸している。まるで全世界が胎動しているようだ。
 遍満へんまんする荒い呼吸と熱気に包まれて、ぱっちゅん、ぱっちゅん、穿たれる媚肉は海嘯かいしょうに嚙みつかれたように白く泡だちおどる。
「くぁッ……ひ、ぁんっ、あ、あぁ……っ」
 虹は抗し難いほどに敏感になって、淫らに濡らされた躰で、代わる代わる肉棒に貫かれた。
 強烈な炎に烈しく攻めたてられ、はらに熱い精をぶちまかれる。自らも薄くなった白蜜を噴きあげると、いなご唐黍とうきびに群がるみたいに、幾人もの男たちに舐めしゃぶられた。
「ひぃ、やめて、舐めないで、はっ……やぁっ、ン……だめってぇ……っ」
 恥も外聞もなく涙まじりに懇願したが、容赦のない愛撫は続いた。うまし蜜に感謝を――淫らな文句を囁きながら、乳首も陰茎も指の合間にいたるまで、躰のあらゆる場所に舌とくちびるが這わされた。
 そして繰り返される突きあげ――結合部は、己の蜜と吐精された白濁がまざりあい、氾濫する湖、或いは熔解ようかいした欲望の坩堝るつぼさながらだった。
 淫靡な水音に鼓膜までも犯されながら、躰の一番やわらかいところを突かれて、突かれて、突かれて、硬く尖った乳首を指に挟まれ、蜜を噴きあげて、噴きあげて、噴きあげて……
 帳をおろした寝室には、乳と愛液の香にみちみちた。
 狂気を孕んだ豊穣の宴は一晩中続き、星の煌めきが薄れ始めたころにようやく終わりを告げた。
 最後のくさびがぬけたあとの秘孔からは、こぽこぽと白い精液が河のように流れていた。