超B(L)級 ゾンBL - 君が美味しそう…これって○○? -
2章:エナジー・ドリンク - 2 -
無人の高層ビルディング群の合間を、バイクで走り抜けていく。
渋谷の歓楽街は無人で、渋滞もなく、十五分とかからずに、再び道玄坂に戻ってきた。
分岐路の手前でレオはブレーキをかけて、アイドリングさせながら肩越しに振り向いた。
「ここら辺で探すか」
レオの言葉に、広海は力なく頷いた。任せきりで忍びないと思いつつ、索然 たる気分に支配されていた。
もう家族はいないのだ。自分だけ生き残って、この先どうやって生きていけばいいのだろう……
悄然 と項垂 れる肩を、レオは励ますように叩いた。
「とにかく休める場所を探そうぜ」
さりげない思い遣りの仕草だが、暗鬱 に沈む広海は、力を分け与えられたように感じられた。少しばかり気力を取り戻し、顔をあげて、辺りを見回した。
「……どこにいきましょうか」
「ロフトかハンズの傍が便利でいいかもな」
レオの言葉に、広海は困った顔をした。
「今さらだけど、渋谷は危険じゃありませんか? 感染者だらけだし、いつ誰に襲われるか判らないし」
「まぁ、普通に考えれば、人のいない場所の方が安全だよな」
「はい」
「でも、俺達が警戒すべきなのは、ゾンビじゃない。生き残って徒党 を組んでる人間だ」
「都心から離れた方が安全ですかね?」
レオはかぶりを振った。
「俺達には武器がある?」
彼はなぜか疑問口調でいった。
「武器?」
「他の人と違って、感染者に襲われない。だから、どこにだっていける。むしろ感染者に囲まれていた方が安全だ。いいカモフラージュになる」
「……」
それは広海も考えた。けれども、絶対に襲われないと信じていいものだろうか? 不可解な点はまだまだ多い。
「俺はともかく、ロミには免疫がある」
レオは断言した。肩越しに、広海を凝 と見つめてきた。
「ロミにキスすれば、感染者に襲われないんだ」
唖然 とする広海を見て、レオはさらに言葉を続けた。
「さっきといい、一時的かもしれないけど、マジで襲われなくなる」
「そんなわけないじゃん! ……気のせいですよ」
思わずタメ口をきいてしまい、後半は声を抑えてしおらしく言った。
「いや、本当。ロミにキスしたくなるのも、無意識の生存本能が働いているんじゃないかと俺は思う」
広海は唇を歪めた。いくらなんでも荒唐無稽 だ。
「まさかぁ……免疫じゃなくて、俺に欠陥 があるせいかも。ゾンビも興味をなくすほど、深刻な病気を抱えているとか……」
不安がもたげて、広海の声は昏 くなる。レオは広海の肩を力強く掴み、
「悪い方に考えるな。俺もロミも感染してねーよ。病気の兆候 もない。理屈はともかく、襲われないんだぜ? ラッキーだと思おうぜ」
「でも……」
考えこむ広海の頭を、レオはメット越しに軽く叩いた。
「こう考えろよ。俺たちは感染したんじゃなくて、進化 したんだ。生きるために必要な状態に、躰が順応したんだよ」
彼のように楽観的に考えられなかったが、広海は反駁 せずに黙りこんだ。
「こっち行ってみるか」
と、レオは再びエンジンを吹かし、文化村通りに入った。
幾人か感染者の横を走り抜けたが、誰も二人に意識を向けようとしない……
やはり自分達は空気とみなされているのだろうか?
或いは、不死感染者に何らかの異変が起きて、喰欲が失せたのだろうか?
疑問に思った傍から、往来 で腐肉 を喰 らう感染者を目撃し、後者に関してはその考えを捨てた。
「感染者に襲われないという武器があると、渋谷は心強いな。隠れるところはいっぱいあるし、店も多いから、捕るものも多い」
「確かに……」
レオの言葉に頷きながら、それでも気味が悪い、と広海は恐々と周囲を窺 った。
一見すると静かだが、よく見ると路端 や瓦礫 の下には屍体があり、見つけるたびにぞっとする。おまけに血まみれの不死感染者共が、喰い千切られた四肢 や、臓物 をぶよぶよ揺らしながら、虚 ろな目で徘徊 しているのだ。
できることなら、人も死者も不死感染者もいない、どこか静かで安全な所に避難したい。
幾つか信号を越えて、硝子張りの高層ビルの前でレオはバイクを停めた。
地下四階から六十五階まである、去年オープンしたばかりの商業ビルだ。
地下に大きな喰品売り場があり、地上には生活雑貨店や衣料店、レストラン、ジム、ホテル、プラネタリウムや展望台がある。
正面入口の広々としたブックカフェは、棚が倒れて本が散乱しているが、それでも洗練された内装が見てとれた。
「ここは?」
レオが肩越しに振り向いて訊ねた。
棚に並んだ膨大な量の雑誌や漫画に、広海の目は釘付けになっていた。レオはにやりと笑って、
「決まりだな」
「あは、天国だなぁ……」
広海も笑み返したが、その声はどこか痛々しかった。
理不尽に人生の要 を奪われた直後で、次の住処 など本当はどうでも良かった。
何を見ても聞いても、今は取り返し難 い後悔に囚われている。
感染者に襲われないと判っていれば、もっと早く実家に戻れたのに――両親を救えたかもしれないのに。
(俺はなんて間が悪いんだ。せめて、あと一日早く帰っていれば……)
バイクをおりて、広海は安全第一ヘルメットをかぶり直した。その表情は暗い。底なしの疲労感と絶望感に襲われていた。
のろのろと顎の下でベルトを留めていると、レオがこちらを向く気配がした。
「さっきは根性見せたな。マジで尊敬する」
力強く肩を抱き寄せられ、広海は目を瞠 った。
「俺は自分の両親嫌いだし、安否とか正直どうでもいいんだけど……ビビリなのに、躰張って助けにいこうとするロミを見て、格好いいなって思ったよ」
「……」
「ロミがいてくれて、すげぇ助かってる。一緒にいて楽しいし、心強いし。家族じゃねーけど、俺も力になるし……これからもよろしく頼むぜ、相棒」
「……っ」
相棒。その言葉を聞いた途端に、涙が溢れそうになった。
万感こもごも胸に迫って、言葉にできない。戦慄 く唇を噛み締めて、何度も頷いた。
世界のどん詰まりに堕ちたと思っても、隣にレオがいてくれる。
彼は生きているし、生きようとしている。助けられているのは広海の方だ強靭 な精神力と誠実な思い遣りに、ずっと支えられている。
傍にいて広海に返せるものがあるか不明だが、必要だと言ってくれるのなら、その気持ちに応えたい。
そう思うと、ほんの少しだけ、活力が湧きあがるのを感じた。
渋谷の歓楽街は無人で、渋滞もなく、十五分とかからずに、再び道玄坂に戻ってきた。
分岐路の手前でレオはブレーキをかけて、アイドリングさせながら肩越しに振り向いた。
「ここら辺で探すか」
レオの言葉に、広海は力なく頷いた。任せきりで忍びないと思いつつ、
もう家族はいないのだ。自分だけ生き残って、この先どうやって生きていけばいいのだろう……
「とにかく休める場所を探そうぜ」
さりげない思い遣りの仕草だが、
「……どこにいきましょうか」
「ロフトかハンズの傍が便利でいいかもな」
レオの言葉に、広海は困った顔をした。
「今さらだけど、渋谷は危険じゃありませんか? 感染者だらけだし、いつ誰に襲われるか判らないし」
「まぁ、普通に考えれば、人のいない場所の方が安全だよな」
「はい」
「でも、俺達が警戒すべきなのは、ゾンビじゃない。生き残って
「都心から離れた方が安全ですかね?」
レオはかぶりを振った。
「俺達には武器がある?」
彼はなぜか疑問口調でいった。
「武器?」
「他の人と違って、感染者に襲われない。だから、どこにだっていける。むしろ感染者に囲まれていた方が安全だ。いいカモフラージュになる」
「……」
それは広海も考えた。けれども、絶対に襲われないと信じていいものだろうか? 不可解な点はまだまだ多い。
「俺はともかく、ロミには免疫がある」
レオは断言した。肩越しに、広海を
「ロミにキスすれば、感染者に襲われないんだ」
「さっきといい、一時的かもしれないけど、マジで襲われなくなる」
「そんなわけないじゃん! ……気のせいですよ」
思わずタメ口をきいてしまい、後半は声を抑えてしおらしく言った。
「いや、本当。ロミにキスしたくなるのも、無意識の生存本能が働いているんじゃないかと俺は思う」
広海は唇を歪めた。いくらなんでも
「まさかぁ……免疫じゃなくて、俺に
不安がもたげて、広海の声は
「悪い方に考えるな。俺もロミも感染してねーよ。病気の
「でも……」
考えこむ広海の頭を、レオはメット越しに軽く叩いた。
「こう考えろよ。俺たちは感染したんじゃなくて、
彼のように楽観的に考えられなかったが、広海は
「こっち行ってみるか」
と、レオは再びエンジンを吹かし、文化村通りに入った。
幾人か感染者の横を走り抜けたが、誰も二人に意識を向けようとしない……
やはり自分達は空気とみなされているのだろうか?
或いは、不死感染者に何らかの異変が起きて、喰欲が失せたのだろうか?
疑問に思った傍から、
「感染者に襲われないという武器があると、渋谷は心強いな。隠れるところはいっぱいあるし、店も多いから、捕るものも多い」
「確かに……」
レオの言葉に頷きながら、それでも気味が悪い、と広海は恐々と周囲を
一見すると静かだが、よく見ると
できることなら、人も死者も不死感染者もいない、どこか静かで安全な所に避難したい。
幾つか信号を越えて、硝子張りの高層ビルの前でレオはバイクを停めた。
地下四階から六十五階まである、去年オープンしたばかりの商業ビルだ。
地下に大きな喰品売り場があり、地上には生活雑貨店や衣料店、レストラン、ジム、ホテル、プラネタリウムや展望台がある。
正面入口の広々としたブックカフェは、棚が倒れて本が散乱しているが、それでも洗練された内装が見てとれた。
「ここは?」
レオが肩越しに振り向いて訊ねた。
棚に並んだ膨大な量の雑誌や漫画に、広海の目は釘付けになっていた。レオはにやりと笑って、
「決まりだな」
「あは、天国だなぁ……」
広海も笑み返したが、その声はどこか痛々しかった。
理不尽に人生の
何を見ても聞いても、今は取り返し
感染者に襲われないと判っていれば、もっと早く実家に戻れたのに――両親を救えたかもしれないのに。
(俺はなんて間が悪いんだ。せめて、あと一日早く帰っていれば……)
バイクをおりて、広海は安全第一ヘルメットをかぶり直した。その表情は暗い。底なしの疲労感と絶望感に襲われていた。
のろのろと顎の下でベルトを留めていると、レオがこちらを向く気配がした。
「さっきは根性見せたな。マジで尊敬する」
力強く肩を抱き寄せられ、広海は目を
「俺は自分の両親嫌いだし、安否とか正直どうでもいいんだけど……ビビリなのに、躰張って助けにいこうとするロミを見て、格好いいなって思ったよ」
「……」
「ロミがいてくれて、すげぇ助かってる。一緒にいて楽しいし、心強いし。家族じゃねーけど、俺も力になるし……これからもよろしく頼むぜ、相棒」
「……っ」
相棒。その言葉を聞いた途端に、涙が溢れそうになった。
万感こもごも胸に迫って、言葉にできない。
世界のどん詰まりに堕ちたと思っても、隣にレオがいてくれる。
彼は生きているし、生きようとしている。助けられているのは広海の方だ
傍にいて広海に返せるものがあるか不明だが、必要だと言ってくれるのなら、その気持ちに応えたい。
そう思うと、ほんの少しだけ、活力が湧きあがるのを感じた。