月狼聖杯記
6章:眠れぬ夜に - 9 -
獣化の影響で、お互いに気が昂っていた。
目があっただけで、体温が熱くなっていく。ラギスはうなじの毛が逆立つのを感じた。唇が重なった途端に、身体の内側から燃えあがるような感覚に襲われた。
シェスラはラギスの下唇に歯を立てた。唇を奪いあい、舌を挿し入れ、烈しく絡ませた。音を立てて唾液を啜り、啜られ、お互いを征服しようとする。
「ん、ふっ……」
くぐもった声をあげながら、ラギスはシェスラの顎に指を這わせ、更に奥に手を伸ばしてうなじに触れ、髪に指を搦めた。なめらかな銀髪は、指の合間を絹のように流れる。
唇を離し、ラギスがシェスラの肩を甘噛みすると、彼は艶めいた声をあげて、仕返しとばかりにラギスの肩に歯をたてた。
「んぁ」
体内を熱い欲求が駆けめぐっていく。喘ぐラギスの巨躯をシェスラはしなやかな二本の腕で抱きしめ、ぴったりと抱き寄せた。掌が背をすべりおりていき、更に強く身体を押しつける。
幾度も唇を貪りながら、シェスラは罪深いほど硬い熱塊を、ラギスの腰に押しつけた。原始的な動きで腰を前後させながら、首筋に舌を這わせる。
「ああ……」
「この匂い……たまらないな」
シェスラが吐息まじりに呟いた。片手がラギスの尻へとおりていき、掌で鷲掴み、もちあげた。
「はぅっ」
その瞬間、ラギスを烈しい欲望が貫き、燃えあがった。重なりあうシェスラの唇、しなやかな腕、肌かた立ち昇る芳香――身体の感触以外には、何も考えられなかった。
「はぁ、はぁ、はぁ」
荒い息をつくラギスの頬を、シェスラは狂おしそうに包みこんだ。月明かりを浴びて、シェスラの銀髪は星のように煌き、輪郭は銀色に縁取られている。
幻想的な姿に見惚れて、ラギスは言葉を失った。見つめ合ったまま、シェスラはラギスの腿を膝で割り、草むらの上に押し倒した。
長い髪が肩から滑り落ち、月光を受けて銀色に輝いた。神々しくも艶めいた姿に、ラギスは抗う術をもたなかった。
繊細な麗貌をしているが、シェスラの本質は獰猛な月狼だ。でなければ、戦士であるラギスをこんな風に組み敷くことなど許されない。
シェスラは、親指と人差し指の間で乳首を転がしながら、尖った先端をそっと摘まんだ。
「ん、あ……っ」
感じ入った声に誘われるように、シェスラは美貌をあげて、紅潮したラギスの顔を食い入るように見つめた。
「こんな風に、そたなに触れたいと思っていた」
シェスラは荒々しく囁き、ラギスの髪から首、肩を撫でた。ラギスの肌に指をくいこませ、乱暴な手つきで身体中を撫でまわした。
「は……そなたは、私を惑わせる媚薬のようだ」
シェスラは陶然といった。それは俺の台詞だ、ラギスは心の中で呟いた。
シェスラの唇は、口づけの名残で濡れて、朱く色づいている。その唇に、乳首を愛撫され、舌先で舐められ、屹立を指で扱かれると、あっという間に爆発寸前まで追いやられた。
「あぁッ」
乳首から
「あッ! あ、あ、ンッ、あぁッ」
身悶えるラギスを鋼のような腕でおさえこみ、両の乳首を、代わる代わる吸いあげた。
下は昂ったままだが、ラギスは軽い絶頂を迎えて、腕や足を物憂いけだるさに襲われた。
弛緩するラギスの両足を、シェスラはぐっともちあげ、割り開いた。
目と目があう。シェスラは、欲情した雄の顔をしていた。ラギスの全身を期待と戦慄が襲う。
シェスラは美貌をさげて、霊液をこぼしている屹立に根本から舌を這わせた。ぞくぞくした快感がラギスの身体を駆け抜けた。
「はぁ、でちまう」
「我慢するな」
シェスラは雫の浮かんだ亀頭の割れ目を、舌で突いた。それが決め手になり、霊液の奔流が迸った。
「あぁッ」
シェスラは喉を鳴らして呑みほしていく。びくびく震える腰を押さえつけ、屹立を啜りあげる。えもいわれぬ快感に、ラギスは身悶え、呻き声をあげた。手と指による愛撫は執拗なほど長く、淫らだった。
シェスラはぐったりした足を肩にかつぎあげ、亀頭を蕾に当てて、少し押しこんだ。
「んっ、うぅ……」
なかは濡れそぼっているがきつく、シェスラを甘く食い締めてくる。更に押し進めると、ラギスの体は強張った。
「力を抜け」
きつさに歯をくいしばり、シェスラは優しく宥めた。引き締まった腹部を震わせ、ラギスは濡れた瞳でシェスラを見つめた。
シェスラは低く唸りながら、さらに押し進める。えもいわれぬ快感に、背を仰け反らせた。気が昂っているせいだろうか? まだ半分も挿れていないのに、絶頂のうねりを感じる。思わず、腰をぐっと動かし、意図したよりも深く沈めた。
「んぁっ、ああぁ……っ」
ラギスはシェスラの腕をきつく掴み、少し腰を引かせた。
「大丈夫だ……」
シェスラはラギスの耳を撫でながら囁いた。ゆったり腰を動かし、なじんでくると、一度深く引き抜いた。張り詰めた昂りが、霊液に塗れて煌くのを見て欲望を煽られる――衝動のままに腰を打ちつけた。
「あ、あ、あッ……く……ッ、あン……んぅ」
烈しい突きあげにラギスは喘いだ。シェスラは熱い汗の滲んだ身体を押さえつけ、唇を塞いだ。
「んっ、ふぅ」
口の中を愛撫され、突きあげられながら、ラギスは再び達した。乳首から残滓のような雫が滲み、横腹に垂れていく。そのあとすぐに、シェスラも強く腰を打ちつけ極めた。
情事の荒い呼気が、清涼な草原に溶けこんでいく。
シェスラは額をさげてラギスの額におしあて、言葉にならない想いを伝えようとした。
奪うだけではない、快感以上のものを与えたいのだと知ってほしかった。この筋骨たくましい、雄々しい月狼を大切にすることを、気高い魂を守るつもりでいることを――この腕のなかにいる限り、安らぎをえられるのだということを。