月狼聖杯記

1章:王と剣闘士 - 8 -

 拷問のような快楽は続く。
 熱い舌は陰嚢いんのうの筋を辿り、会陰えいんへとおりていき……後蕾こうらいに到達した。
「おい! 何……ぐ……ッ」
 つん、と舌が蕾を突いた。両の親指で尻肉を割拡げられ、張型を埋められた孔に息を吹きかけられる。
「……こちらは初めてのようだな」
「触るんじゃねェッ」
 暴れるラギスを、シェスラは解放した王気で縛りつける。血走った目で睨みつける巨躯を見下ろし、艶冶えんやに笑む。ゆっくり、焦れったいほど慎重に、張型を引き抜いていく。
「ぐッ……あ、ぁッ」
 敏感な肉胴を刺激されて、ラギスは腰を揺らした。ぐぽっと淫靡な音を立てて、張型は抜けた。
「……奥まで見えるぞ。具合はよさそうだな」
 シェスラは親指をそっと孔に潜らせた。
 絹のような髪が尻にかかり、ラギスは慌てた。端正な顔が、尻のあわいにうずまろうとしている。尾で払おうとすると、シェスラは小さく笑った。つけ根を舐められて、ラギスは呼吸が止まりかけた。
「――ッ!?」
 硬直している間にも、両の親指で尻孔を拡げられる。吐息が触れた。濡れた舌が、挿入はいってくる。
(舐められて――?)
 信じられない思いでラギスは絶句した。
 戦慄わななく肉襞は、奥を探る舌を悦び、もっと、もっと奥へと誘いこむ。
 嗚呼、淫らな躰が疎ましい。
 四肢に力をこめて快感に抗うラギスを、シェスラは容赦なく篭絡しようとする。
「ぬかるんできた……硬く閉じているかと思ったが、問題なさそうだな」
「い、嫌だ……俺は、お前にだけはッ」
 屹立をあやすようにしゃぶられて、ラギスは呻いた。快楽の海に攫われて、身も心も蕩けそうになる。奥が疼く……あらぬ言葉を吐いてしまいそうで、きつく唇を噛みしめた。
「ふ、私に触れられて、顔を苦悶に歪めたのはそなたが初めてだ」
 シェスラは躰を起こすと、優しいとすら思える手つきでラギスの頬を撫でながら、開いた後孔こうこうを指で突いた。
「よせッ!」
「断る」
 シェスラは即答し、そっと指を潜らせた。
「この野郎ッ、触るんじゃえねェ!」
 悪態をつくラギスを、シェスラは鼻で嗤った。
「このように蕩けているのに?」
 尻孔を探る指が、くっとなかで折り曲げられた。
 強烈な快感が走り、喉から迸りそうになる悲鳴を、ラギスはどうにか堪えた。
「離しやがれ――」
 両脚を高く持ちあげられ、ラギスはひゅっと息を呑んだ。尻のあわいに熱塊をあてがわれる。
「暴れると怪我をするぞ。痛い思いをしたくなければ、大人しくしていろ」
 挿入から逃れようと身を捩るが、鋼の鎖に阻まれる。硬質な音が煩く泣き喚くなか、シェスラは強引に腰を進めてきた。
「あ、ぁッ」
 初めての挿入でも、蕩けきった尻は難なく呑みこんでいく。
 対の鞘に剣を収めるように、なかへ、なかへと――充溢じゅいつで満たされて、ラギスは恍惚の表情を浮かべた。
「ラギス……気持ちいいか?」
「は、あぅ……ンっ」
 腰を揺すられて、視界に星が散った。
 躰が燃えるように熱い。理性をたぐり寄せようとしても、ずぷっ、ぬぷ……淫靡な水音が弾ける度に快楽に呑まれる。
「う、くそッ……ぐっ……ぅッ」
 絶妙な角度で奥を突かれて、ラギスの背は弓なりにしなった。力強い腕が、腰をしっかりと支えている。
「いい、締まるッ……ラギス、そなたの躰はたまらない……」
 極限まで抜いた楔を、剣を突き刺すように、打ちつけられる。重たい衝撃と、引き抜かれる瞬間に内壁のいいところをくすぐられる快感の連続に、ラギスの思考は軟体生物のように溶けていった。
「く、くそッ」
 どんな悪夢だ。信じられない――憎んでいる相手に、雌のように組み敷かれ、身体を貫かれるとは――!
「腰が揺れているぞ、ラギスッ」
「あぁ……ッ」
「このまま、一晩中でもこうしていたい……深く繋がって、は、ラギス……」
 腰が尻にぶつかる音がする。ラギスの感じやすい、内壁の浅いところを断続的に突かれながら、乳首をこねるように摘まれた。
「んッ!!」
 ラギスが腰を振っても、シェスラの鋼のような身体からは逃げられない。
「あァッ」
 腹に反り返るほど勃ちあがった屹立から、飛沫が散った。なかを突かれて、乳首を弄られて、痙攣するように達した。
ったな?」
 笑いを含んだ問いに、ラギスはきつく目を瞑った。
 引き締まったラギスの腹や胸に散った琥珀色の飛沫を、シェスラは艶めかしく舌で舐めとっていく。
 執拗といってもいい舌遣いに、ラギスは戦慄した。
 全て舐め終えると、シェスラはラギスを獣のように四つん這いにし、荒々しく腰を遣い始めた。長大なものが、子宮に届くまで、深く、深く突き刺さる。
「は、そなたなら、壊す心配がないから、思い切り抱けるッ!」
 シェスラの水晶の瞳は欲情に濡れていた。快楽を永く貪ろうと、幾度も絶頂を堪えて、ラギスを深く穿うがつ。破城槌で突かれているみたいに、ラギスの巨躯は前後に揺さぶられた。
 いまだかつてない快楽の荒波に翻弄されて、ラギスは何度も失神しかけた。
「あ、あッ、ぐぁッ!」
 身体が燃えているように熱い。灼熱に焼かれて、このままどうにかなってしまいそうだ。
「あぁ――ッ」
 絶頂を叫ぶラギスに覆い被さり、シェスラは汗ばんだうなじを噛んだ。強烈な悦楽に沈むラギスの上で、シェスラも腰を小刻みに揺すって、艶めいた吐息と共に達した。
 最奥を熱い飛沫で濡らされてゆく――眼裏まなうらが赤く燃えあがった。
「は、はぁ、はっ……」
 聖杯として満たされながら、屈辱と怒りを感じていた。尻の奥に精を放たれた。この身が聖杯なら、孕む危険があるというのに。
 復讐を誓った相手に。殺したいほど、憎い相手に。
 心が、二つに裂けてしまいそうだ。
 褥に突っ伏し、心臓を押さえて喘ぐラギスの頬を、シェスラは労わりに満ちた仕草で撫でた。
「ラギス……」
 ラギスの横向けた顔に、シェスラは美しい顔を寄せて、柔らかく唇を塞いだ。
 怒り狂っていたのに、舌を搦め捕られて陶然となってしまう。たえなる味わいの酒を、口移しで与えられているかのように……
 抗い難い眠気に襲われる。疲労困憊の次元を通り越して、瞼が勝手におりてくる――ラギスは意識を手放した。