月狼聖杯記

12章:ラピニシア - 7 -

 先に宴席を抜けたラギスは、寝室の見事さに目を瞠った。
 床一面に、絹と金糸の豪奢な毛織絨毯が敷きつめられ、壁から半球型の天井まで、蒼と金の装飾陶板で覆われている。
 一段高い一郭に配置された寝台は、胡桃材の木枠に、精緻な彫刻が施された天蓋つきだ。深緑の錦織に金糸で刺繍した緞帳が巻きあげられ、贅を凝らした緞子のクッションが積まれている。
 見あげる天井の中央には、銀製の垂れ飾りのついた水晶の円環照明が煌き、綴織の絨毯を黄金に照らしてなんとも贅沢。
 豪壮華麗な、まさしく王のための寝室だ。
 シェスラが戻ってくる前に、ラギスは手際よく湯浴みを済ませた。薄絹一枚羽織った姿だが、暖炉に火が灯されており、部屋は心地よく温まっていた。
 手持ち無沙汰で酒を飲み始めると、心地よい酩酊感に浸った。そのまま眠ってしまいそうだったが、絹地の擦れる音に目を醒ました。
 寝室に入ってきたシェスラは、暖炉の傍で寛ぐラギスを見て、ほほえんだ。湯浴みを済ませてきたらしく、白銀の髪はしっとり濡れている。
「待たせたか?」
 巴旦杏はたんきょうの形の蒼い瞳が、濡れたように輝いている。微笑の優しさも、甘い眼差しも、今夜彼は誰にも向けなかった。ラギスのためだけに見せてくれている。
「少し休んでた」
 ラギスは身を起こし、シェスラの動きを視線でおった。
 彼は手燭しゅしょくを傍机に置き、四柱にとめられた金襴と天鵞絨びろうどの緞帳を片方垂らした。
 美しい手を伸ばされ、ラギスは誘蛾灯に誘われるように、ふらふらと傍へ寄った。腕をとられ、背中から寝台に押し倒された。
「痛むか?」
 白い掌が絹布けんぷを巻かれた肩に這わされ、ゆったりと、隆起する筋肉を慰撫するように動く。
「いや……」
 美貌に魅入られながら、ラギスは答えた。シェスラは顔をさげると、ラギスの唇にくちづけた。しっとりと塞いで、啄むようにむ。舌が触れあった途端に、踊るように絡みだした。
「ん……」
 柔らかいシェスラの吐息に、ラギスの血は燃えあがった。白い細腰を抱きしめ、強く舌を吸いあげる。シェスラもラギスの頬を両手に手挟み、貪るように口づけを深めた。
 ずっとこうしたかったといわんばかりに、お互いの唇に夢中になった。柔らかな粘膜をみ、舐り、甘く歯をたてる。息継ぎを挟んでは角度を変えて、何度も繰り返す。
 長いキスが終る頃には、お互いに息があがっていた。おきを灯された躰は燃えるように熱くて、衣装のなかで乳首が硬く尖るのを感じていた。
 唸りながら身を起こし、ラギスは雑に薄絹を脱ぎ捨てると、シェスラの服に指をかけた。彼の目を見つめながら、豪奢な装いを一枚ずつ脱がしていった。
 濃紺の胴着と薄青のズボン。白い絹のシャツ、金装飾のベルト。寝椅子に、凝った衣類が重ねられていく。
 ラギスは女が服を脱ぐ光景に容易に心を動かされたりしないが、シェスラに対してはまるで違った。
 羽織を脱がせるだけで鼓動が速くなる。
 最後に絹の下着も足首から抜いた。薄い布を指から離すと、優美にはらりと床に落ちて、完璧で官能的な肢体が露わになる。
 眺めているだけで下腹部が疼きだし、呼吸が荒くなっていく。
 裸身のシェスラが手を伸ばすと、ラギスは膝立ちで後ろへさがり、彼を眺めた。艶やかな髪を肩からひとすじこぼし、雪花石膏のようになめらかな肌が眩しい。
 賞賛の眼差しを受けとめて、シェスラは蠱惑的にほほえんだ。
「ほら……触れないのか?」
 さしのべられる手をとって、ラギスは細腰を引き寄せた。白い肌はしっとり汗ばみ、掌に吸いつくようだ。
「私も触れたい」
 シェスラは囁くと、ラギスを再び褥に組み敷いて、首筋に顔を近づけた。甘やかな匂いが立ち昇り、唇を笑みに和らげる。
「そなたの肌は暖かい蜂蜜のようだな」
 囁きながら、小鳥が花の蜜を啜るように肌を啄む。ゆっくり顔をさげていき……湿った乳首を口に含んだ。
「ぁ、んっ」
 やわらかな唇の内側を乳輪に押しつけ、じゅっと乳輪ごと吸いあげられた。熱くて柔らかい唇のなかで、膨らんだ乳首を転がされ、霊液サクリアが溢れてくる。
「は、ラギス……っ」
 シェスラは芳醇な酒を貪るように、目を閉じていて、絹糸のようなまつ毛が、神秘的な陰影を頬に落としている。彼の興奮が、触れあう肌の熱さからも伝わってきた。
「んっ……あぁっ」
 じゅっじゅっと絶妙な緩急で吸われ、股間が震える。躰の芯からも霊液サクリアが滲んで、ラギスは恥じ入るように腰をくねらせた。
「やはり勝利の美酒は格別だな……類稀たぐいまれな味わい、こちらも飲ませてもらおう」
 陶然と囁いて、シェスラはラギスの脚を強引に割り開いた。濡れた性器と、ひくつく後孔が露わになる。そっと親指を後孔へもぐらせ、
「んぁッ!」
 ラギスが筋肉をひきしめると、シェスラも艶めいた吐息を漏らした。涼しげな双眸は欲に塗れて、獣性のきざしがうかがえた。
「どのような味か……」
 雄々しくちあがった屹立に舌をはわせ、頬張った。睾丸をそっと掌で転がしながら、霊液サクリアを飲みこみ、恍惚に浸る。
「ぅぐっ、んん……っ」
 ぬかるむ肉壁をこねられ、ラギスは身悶えた。シェスラは痴態を目で愉しみながら、孔にもぐらせた指で悪戯に刺激を繰り返す。弱いところを擦られて、ラギスの腰はびくびくっと跳ねた。
「嗚呼、いい締めつけだ。熱くぬかるんで……我慢できぬっ」
 シェスラは荒々しくラギスの大腿を持ちあげると、のしかかるようにして身を乗りだした。
 額に汗をにじませ、唇を快感に開かせているラギスの蕩けきった顔をじっっと眺めおろしながら、情欲の坩堝るつぼに、昂りを押しこんだ。
「あぁっ、んぁッ!!」
 低い、官能の喘ぎが天蓋に反響した。
 シェスラは荒々しく、悦楽に美貌を歪め、生涯最後のまじわりであるかのように腰を振り、突きあげた。暴れるラギスを征服するように組み敷いて、霊液サクリアを迸らせ、自らも煌めく汗をしたたらせた。
「ひぁっ……は、はァッ……ん、あァッ!」
 敏感な粘膜を、硬い肉棒に擦りあげられ、ラギスは喘いだ。穿たれるたびに乳首から、陰茎から、後孔から霊液サクリア重吹しぶいて、筋をひく。
「はぁ……も少し、ゆっくり……っ」
 本能的に身を引こうとシェスラの腕を掴むが、彼は構わずに突きあげながら、震えるラギスの陰茎を手で扱いた。前も後ろも悦び慰められ、ラギスは壮絶な絶頂を極めた。
「あ、あぁッ!!」
 凄まじい悦楽に浸され、おびただしい量の霊液サクリアが性器から噴きあがった。
 シェスラも追いかけるようにして奥に放つと、ラギスに覆いかぶさり、肌に散った霊液サクリアに舌をのばした。
「んぅ……っ」
 艶めかしい愛撫に、絶頂したばかりの下腹部が震える。たまらずラギスは身をひねってうつぶせになり、肩で息を整えようと試みた。だが、シェスラに両手で腰を掴まれ、たちまち強張った。
「おい、少し休ませろ」
 文句を口にするが、シェスラは無言のままに、ラギスを四つん這いにさせて尻を高くあげさせた。有無をいわせず、ぬかるんだ蕾に怒張をねじこんできた。
「あぁッ!」
 ラギスの喉から悲鳴が迸る。突きあげの衝撃で、先端から霊液サクリアが飛び散った。
「ぁッ、ぁ゛!」
 絹をきつく掴んで、揺さぶりに耐える。躰が燃えるように熱くて、乳首も性器からも霊液サクリアが溢れている。ラギスは、まるで自分が絶倫になったように感じられた。
「いいぞ、ラギスッ……」
 シェスラが叫び、泡立つ結合部に突進する。弾力のある尻は飛沫をあげて揉み返し、淫らな水音を撥ねあげた。
 灼熱のくさびに穿たれ、冷めやらぬ熱は奔騰ほんとうし、沸きかえり、原始的な営みに、じゅぷぬぷっと結合部は石鹸を溶いてぶちまけたように泡立ち狂う。
「あぅっ! あぁッん、あぁ、ぁっ……はァッん」
「ラギス……ッ」
 シェスラは、汗のしたたる太い首に噛み痕を残し、舐めあげ、ずんっと汪溢おういつする力で突きあげた。
「あぁッん!!」
 ラギスは低いあえぎの声をあげた。
 三度目の吐精――精魂尽き果てつっぷすラギスのうなじに、繊細な指が触れた。ぞくりと肌が粟立つのを感じた。
「こちらを向け」
 振り向くと、膨らんだ唇に噛みつかれた。両足を高くもちあげられ、ラギスは火照った顔をしかめた。
「おい、まだやる気か」
 シェスラは蠱惑的に微笑した。
「まだ終わらぬ……私は見事な働きをしただろう? 褒美をくれてもよかろう」
「俺だって見事だった。そろそろ休ませてくれても……ンッ」
 文句は唇に飲みこまれた。
「足りぬ。そなたは勝利の美酒ぞ……たまには寛容な心で、私を慰めよ」
 美しい手が股間に絡みつき、ラギスは呻いた。じゅぷじゅぷっと上下に扱かれ、強引に熱を灯されていく。
「んぁ」
 息を喘がせ、しっとり汗ばみ、悦楽に歪む煽情的なラギスの顔を、シェスラは食い入るように見つめた。
 官能の波に呑み込まれ、シェスラは激しく突き、ラギスを自分のものと主張し、しるしをつけ、満たし、支配し、隷属し、奪い、愛し、与えた。つがいとして、魂の伴侶として。