月狼聖杯記
11章:神の坐す山 - 3 -
ここ最近、不思議な現象が起きていた。
期待顔で近づいてくる傭兵を見て、またか。ラギスは思った。
「不死と強壮の酒を売ってくれ」
これである。
どういうわけか、ラギスから酒を買いたがる者が続出しているのだ。
俺は酒保じゃねーぞ……とラギスが断ろうとしたところで、ロキが割って入った。後で届ける、と傭兵に勝手に返事をし、眉をひそめるラギスを物陰に引っ張りこんだ。
「いいから、酒保で酒を買い占めてこい」
なんでだよ、とぼやくラギスに、ロキはこう説明した。
不死身の猛将 ならば、雪崩からも生還する。ラギスから酒を買うと、不死身になれるという、根も葉もない噂が広まっているらしい。
「ったく、この間は罵声を浴びせておいて、今度は酒をくれときたもんだ。調子いいもんだよな」
ラギスは鼻を鳴らしたが、ともかくロキにいわれるがまま、酒を大量に仕入れた。
「おらよ」
と、ラギスが先程の傭兵に酒瓶を渡すと、男は嬉しそうな様子で受け取った。また別の騎士がやってきて、ラギスは立て続けに三人に売ってやった。
「ひと儲けできるな」
横で見ていたロキが楽しそうにいった。ラギスは胡乱げに見て、
「俺が生還できたのは、頑健な躰と鋭敏な感覚のおかげだ。酒を飲んだら、そのどちらも鈍ると思うがな」
「わはは! だが心を落ち着けてもくれる。こういうのは、気持ちが大切なんだ」
とん、と胸を叩かれ、ラギスもそれ以上は反論しなかった。
酒は本当によく売れた。連隊仲間にとどまらず、傭兵や面識のない他所の隊の騎士まで、様々な者がやってきた。
「俺にも売ってくれ」
と、やってきたオルフェは屈託なく笑った。
「お前もかよ」
「神妙神妙、不死の加護と聞いては、買うしかあるまい」
拝み手を向ける男に、ラギスは呆れつつ、酒を渡してやった。すると今度は、アレクセイとヴィシャスが近づいてきた。
「こんにちは、ラギスさま」
「おう」
何用かと思えば、
「私にも一ついただけませんか?」
と、アレクセイの言葉にラギスは目を瞠った。
「あんたもか!」
はい、と高貴な青年は素直に頷いた。
「あんたはいいのか?」
と、ラギスがアレクセイの隣にいるヴィシャスにいうと、彼は興味なさそうな顔でこういった。
「ただの葡萄酒だろう」
全く正論である。
このあと、ラファエルが期待顔でやってきた時、ラギスはもはや驚かなかった。何もいわずに、一本渡してやった。
大王の幕舎に戻った際、ラギスはシェスラに蜜酒を渡した。
「やるよ」
シェスラは嬉しそうにほほえんだ。
「噂の不死と強壮の酒か、ありがたい」
「ただの蜜酒だけどな」
「言 を担ぐのも悪くない」
と、シェスラは機嫌良さそうに、高価な杯に蜜酒を注いで飲んだ。
やれやれ、とラギスは頸を揉みながら、
「全く、何が起きているのやら。俺を馬鹿にしていた連中まで、酒をもらいにきたんだぜ? なんだっていきなり掌を返したんだろうな」
シェスラは悪戯っぽい光を目に灯した。
「つまらぬ噂など、もっと面白い噂で上書きしてしまえば良いのだ」
ラギスはちょっとのあいだ思案に暮れ、はっと閃きを目に灯した。
「そうか、あんたが噂を流したのか!」
「ははは……信憑性はあったろう? 事実、そなたは奇跡の生還を果たしたのだから」
と、シェスラは楽しげに笑う。水晶の瞳に、犀利 な悪戯っぽい光が輝くのを見て、むむむ……とラギスは唸った。
「ったく、次から次へとよく頭が回るなァ……あんたにかかれば、ただの水にも値をつけられそうだな」
「実際、この酒はなかなか美味いぞ。もっとも、比類ない天上の美酒を私は知っているがな」
なんだ? と問いかけそうになったラギスは、はっとなって、シェスラを睨んだ。
「……その先はいうなよ」
「そなたに勝る美酒は、此の世に存在しない」
シェスラはラギスにしなだれかかった。のけぞるラギスに迫り、襟元を緩める。
「やめろよ」
不埒な手をラギスが掴んで阻むと、シェスラは蠱惑的な笑みを浮かべた。
「良いではないか」
囁きながら細い鼻梁を、ラギスの硬い胸にこすりつける。
「お行儀が悪いぞ、お嬢さん」
と、ラギスがシェスラの形の良い鼻をつまむと、シェスラは目を丸くし、くすっと笑った。
「お嬢さん?」
「お嬢さんだ」
ラギスはにやっとして繰り返した。
「私が?」
「そうだよ、綺麗なお嬢さん」
「私をお嬢さんなどと呼べるのは、そなたくらいのものだ」
「離れなさい、お嬢さん。はしたないぞ」
と、ラギスが引き剥がそうとすると、シェスラは妖しい瞳でラギスを押し倒し、組み敷いた。両腕を地面に押さえつけたまま、美貌をラギスの顔に寄せる。
「そうだな。年頃の娘だから、はしたないことに興味があるんだ」
銀糸の髪が頬に触れて、ラギスは喉をひきつらせた。不用意にからかったせいで、余計に火を点けてしまったようだ。
「ラギス……」
身を乗りだしてきたシェスラの手が、ラギスの胸に肌着の上から触れる。
「もう、具合はいいのだろう……?」
熱のこもった視線が、唇に落ちるのを感じて、ラギスの心臓は高鳴った。そういえば、ここしばらく肌を触れあわせていない……我慢していたのだろうか。それはラギスも同じだった。
行軍でのまぐわいには抵抗があるが、今夜は吹雪だ。間断なく降りしきる雪が、情事の音を隠してくれるだろう。
無言を了承と得て、シェスラはさらに身を寄せてきた。顔に影が射していても、蒼い瞳の虹彩はくっきり輝いている。
そっとラギスが瞳を閉じると、少しひんやりした唇がかぶせられた。
「ん……」
ついばむような優しい唇は、次第に激しさを帯びて、強く吸われた。柔らかな舌が入りこみ、絡め捕られる。舌鼓を打つような水音にまじって、鼻先から熱い息が漏れた。
濡れた唇を親指でぬぐい、シェスラは蠱惑的な微笑を浮かべた。満足げにラギスを眺めおろし、顔を伏せて喉頸に舌を這わせた。ついばむように肌を吸いながら、肌着をまくりあげる。
乳輪ごと揉みしだかれ、甘い疼痛がラギスの全身を疾 り抜けた。掌のなかで、乳首が堅くなっていく。乳暈 の割れ目から赤い芯が現れると、シェスラは、そっと指でつまんだ。
「んぁっ」
たまらず、ラギスは、女のような声を漏らした。
指の腹で、敏感な突起をくりくりと擦りあげられ、背を弓なりにしならせる。
胸を弄られて感じてしまうとは――羞恥を覚えるが、シェスラの与える巧みな愛撫に、そこがじんと疼くのを止められない。女のように、乳が張る。
「声を我慢するな……聞かせてくれ」
甘く囁いて、シェスラは突起に歯をたてた。うっすら滲む蜜を、そっと舌で舐めとる。
えもいわれぬ快感に貫かれ、腰が大きく跳ねた。逃げを打つ躰を押さえつけ、シェスラはいっそう強く、円 く赤黒い乳首を吸いあげる。
「んっ、あ、んぁ、あぁッ、ん!」
霊液 が、堰を切ったように躰のなかから、あとからあとから溢れできて、乱れるほどに、シェスラの舌遣いはいやらしく、激しさを増した。じゅうっと吸いあげられ、下肢がずしりと重たくなって腰が疼く。熱が滾る。
「う、ぐぅ……ッ」
じんじんと疼いて、陰茎が爆ぜた。
腰の震えが止まらない。悦楽のなか、乱暴に下履きを脱がされ、ラギスは息をのんだ。
下肢はあられもないありさまだった。霊液 に塗れて、下着から透明な糸を引いている。乳首を吸われただけで、達してしまったのだ。
「いい匂いだ……」
シェスラは、羞恥に燃えるラギスに見せつけるように、濡れた下着を舐めてみせた。
「ッ、やめんか」
カッとなって下着を取り返そうとするラギスを、シェスラは荒々しく組み敷き、陰茎にむしゃぶりついた。
「んぁっ」
鋭い感覚が身体に走り、ラギスの腰が跳ねる。
シェスラは卑猥な水音を大きくしながら、いっそう口淫を烈しくした。
どくどくと脈打つ性器を、熱い舌が執拗に舐る。身体中の血液が下肢に集まっていくように感じられた。
「っ、ぐ、でちまう……っ」
「もう?」
シェスラは口角をひねって笑った。意地の悪い口調に、ラギスは喉奥で唸った。
「いやらしい、感じやすい躰だ……」
シェスラはうっそりと笑み、さらに舌を這わせる。
淫靡な水音のまじった囁き声が、ラギスの鼓膜を震わせる。巧みな舌技に追い詰められ、爆発寸前。顔を真赤に燃えあがらせ、慄えている。シェスラは根本まで咥えこむと、仕上げとばかりに頬を窄めて扱きあげた。
「ぐっ、んぁッ! あ、あっ、あぁ――~……ッ」
視界が真っ白になるほどの快楽に襲われ、腰がうねるのをとめられない。ぐっと腰が浮きあがり、びくびくと震える陰茎から熱が迸った。
「ぁ、はぁ……っ……ラギス……っ」
欲望の証を、喉を鳴らして、シェスラが飲み干していく。飲まれている。すべてを飲まれていく。びくびくと跳ねるラギスの大腿をがっしり掴んで押し開き、最後のひとしずくまでをすすりあげる様は、餓えた獣だ。
「美味……」
顔をあげて、満足げに唇を舐めるシェスラの顔を、ラギスは霞がかった思考でぼんやりと仰いだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……っ」
荒い呼吸を繰り返すラギスを眺めおろし、シェスラは身につけているものを脱ぎ捨て始めた。白い肌が露わになっていく。
灯火に照らされた優美な躰。
肩からこぼれ落ちる艷やかな白銀の髪は、灯に照らされ、様々な色合いに燦めく。瑕瑾 すらない肌、美しい肩、引き締まった腰も、何もかもがラギスの眼前にさらされた。
これほど美しいものが此の世にあるのかと、何度目かわからぬ衝撃を覚える。
ラギスの胸に、シェスラは掌を滑らせた。そのまま腰をぐっと掴み、ひっくり返すようにして、四つん這いにさせた。
敏感なうなじを、熱い吐息がくすぐる。
戯れのように甘噛みされて、ラギスは腰をくねらせらた。シェスラは手を伸ばして乳首を摘み、股間へ忍ばせ……熱い性器をそっと握りこんだ。
「あ、ん……っ」
優しく淫らに陰茎をしごかれ、霊液 をこぼしながら硬くなっていく。びくびくと快感に震えるラギスを眺めおろし、シェスラは優艶に笑む。
「そのように慄えて……稚い子狼のようだな」
青に燃える熱い眼差しが、ラギスのしっとり汗ばんだ肌に注がれる。
うねる蕾に、熱い吐息がかかる。筋肉の盛りあがった、たくましい背を全身で押さえつけ、シェスラは高い鼻梁を尻のあわいにうずめた。舌を這わせ、匂いをかぎまくる。
「ァッ、よせッ!」
羞恥に叫ぶが、シェスラは舌を蕾にもぐりこませてきた。ぬめった、熱い肉に体内をぐっと抉られ、躰に電流が走った。
「んぁっ、んあぁッ」
熱い舌に、敏感な内側を舐めあげられ、ラギスは激しく腰をくねらせた。頭のなかが真っ白になる。
「はぁ、ラギス……ッ」
極める間際に舌が抜けていき、絶望に駆られた次の瞬間、猛々しい熱塊に貫かれた。
「あぁッ!!」
荒々しい突きあげが始まり、ラギスは頭を振り、尾を振り、圧倒的な征服に身悶えた。だが突きあげる力には敵わず、蕩けきった躰はなすがまま、屈服させられてしまう。
「うぁっあ、あ、んッ、んぁ……ひぅっ……ぁ……?」
果てる――視界が燃えあがった時、動きが止んだ。酷く焦らされた気持ちでラギスは唸った。だが、ゆったりとした抜き挿しにかわると、恍惚の表情を浮かべた。
「あ、あぁ……んっ」
貪る以上に、全身で愛されているような、甘く蕩かされているような感覚だった。緩急をつけた巧みな突きあげに心までもが濡れて、奥できゅうっと食 み締めた。
「ふ、ラギス……ッ」
シェスラも心地よさげにうなり、二度、三度、大きく腰をうちつけた。肉のぶつかる音に混じって、ぐぷ、じゅぷぷ、霊液が重吹 く淫靡な水音が聴こえる。
あらゆる五感を犯されながら、腹の奥で熱塊がどくんっと脈うち、熱い飛沫に体内を濡らされた。
「あぁッ、んぁ……っ」
ラギスの陰茎ももはや薄くなった蜜を噴きあげていた。
恍惚の表情を浮かべながら射精するラギスを、シェスラは凝 っと見つめた。
やがて筋骨たくましい巨躯が弛緩し、悦楽の余韻が落ち着くのを見て……緩やかな抽挿を再開した。
期待顔で近づいてくる傭兵を見て、またか。ラギスは思った。
「不死と強壮の酒を売ってくれ」
これである。
どういうわけか、ラギスから酒を買いたがる者が続出しているのだ。
俺は酒保じゃねーぞ……とラギスが断ろうとしたところで、ロキが割って入った。後で届ける、と傭兵に勝手に返事をし、眉をひそめるラギスを物陰に引っ張りこんだ。
「いいから、酒保で酒を買い占めてこい」
なんでだよ、とぼやくラギスに、ロキはこう説明した。
「ったく、この間は罵声を浴びせておいて、今度は酒をくれときたもんだ。調子いいもんだよな」
ラギスは鼻を鳴らしたが、ともかくロキにいわれるがまま、酒を大量に仕入れた。
「おらよ」
と、ラギスが先程の傭兵に酒瓶を渡すと、男は嬉しそうな様子で受け取った。また別の騎士がやってきて、ラギスは立て続けに三人に売ってやった。
「ひと儲けできるな」
横で見ていたロキが楽しそうにいった。ラギスは胡乱げに見て、
「俺が生還できたのは、頑健な躰と鋭敏な感覚のおかげだ。酒を飲んだら、そのどちらも鈍ると思うがな」
「わはは! だが心を落ち着けてもくれる。こういうのは、気持ちが大切なんだ」
とん、と胸を叩かれ、ラギスもそれ以上は反論しなかった。
酒は本当によく売れた。連隊仲間にとどまらず、傭兵や面識のない他所の隊の騎士まで、様々な者がやってきた。
「俺にも売ってくれ」
と、やってきたオルフェは屈託なく笑った。
「お前もかよ」
「神妙神妙、不死の加護と聞いては、買うしかあるまい」
拝み手を向ける男に、ラギスは呆れつつ、酒を渡してやった。すると今度は、アレクセイとヴィシャスが近づいてきた。
「こんにちは、ラギスさま」
「おう」
何用かと思えば、
「私にも一ついただけませんか?」
と、アレクセイの言葉にラギスは目を瞠った。
「あんたもか!」
はい、と高貴な青年は素直に頷いた。
「あんたはいいのか?」
と、ラギスがアレクセイの隣にいるヴィシャスにいうと、彼は興味なさそうな顔でこういった。
「ただの葡萄酒だろう」
全く正論である。
このあと、ラファエルが期待顔でやってきた時、ラギスはもはや驚かなかった。何もいわずに、一本渡してやった。
大王の幕舎に戻った際、ラギスはシェスラに蜜酒を渡した。
「やるよ」
シェスラは嬉しそうにほほえんだ。
「噂の不死と強壮の酒か、ありがたい」
「ただの蜜酒だけどな」
「
と、シェスラは機嫌良さそうに、高価な杯に蜜酒を注いで飲んだ。
やれやれ、とラギスは頸を揉みながら、
「全く、何が起きているのやら。俺を馬鹿にしていた連中まで、酒をもらいにきたんだぜ? なんだっていきなり掌を返したんだろうな」
シェスラは悪戯っぽい光を目に灯した。
「つまらぬ噂など、もっと面白い噂で上書きしてしまえば良いのだ」
ラギスはちょっとのあいだ思案に暮れ、はっと閃きを目に灯した。
「そうか、あんたが噂を流したのか!」
「ははは……信憑性はあったろう? 事実、そなたは奇跡の生還を果たしたのだから」
と、シェスラは楽しげに笑う。水晶の瞳に、
「ったく、次から次へとよく頭が回るなァ……あんたにかかれば、ただの水にも値をつけられそうだな」
「実際、この酒はなかなか美味いぞ。もっとも、比類ない天上の美酒を私は知っているがな」
なんだ? と問いかけそうになったラギスは、はっとなって、シェスラを睨んだ。
「……その先はいうなよ」
「そなたに勝る美酒は、此の世に存在しない」
シェスラはラギスにしなだれかかった。のけぞるラギスに迫り、襟元を緩める。
「やめろよ」
不埒な手をラギスが掴んで阻むと、シェスラは蠱惑的な笑みを浮かべた。
「良いではないか」
囁きながら細い鼻梁を、ラギスの硬い胸にこすりつける。
「お行儀が悪いぞ、お嬢さん」
と、ラギスがシェスラの形の良い鼻をつまむと、シェスラは目を丸くし、くすっと笑った。
「お嬢さん?」
「お嬢さんだ」
ラギスはにやっとして繰り返した。
「私が?」
「そうだよ、綺麗なお嬢さん」
「私をお嬢さんなどと呼べるのは、そなたくらいのものだ」
「離れなさい、お嬢さん。はしたないぞ」
と、ラギスが引き剥がそうとすると、シェスラは妖しい瞳でラギスを押し倒し、組み敷いた。両腕を地面に押さえつけたまま、美貌をラギスの顔に寄せる。
「そうだな。年頃の娘だから、はしたないことに興味があるんだ」
銀糸の髪が頬に触れて、ラギスは喉をひきつらせた。不用意にからかったせいで、余計に火を点けてしまったようだ。
「ラギス……」
身を乗りだしてきたシェスラの手が、ラギスの胸に肌着の上から触れる。
「もう、具合はいいのだろう……?」
熱のこもった視線が、唇に落ちるのを感じて、ラギスの心臓は高鳴った。そういえば、ここしばらく肌を触れあわせていない……我慢していたのだろうか。それはラギスも同じだった。
行軍でのまぐわいには抵抗があるが、今夜は吹雪だ。間断なく降りしきる雪が、情事の音を隠してくれるだろう。
無言を了承と得て、シェスラはさらに身を寄せてきた。顔に影が射していても、蒼い瞳の虹彩はくっきり輝いている。
そっとラギスが瞳を閉じると、少しひんやりした唇がかぶせられた。
「ん……」
ついばむような優しい唇は、次第に激しさを帯びて、強く吸われた。柔らかな舌が入りこみ、絡め捕られる。舌鼓を打つような水音にまじって、鼻先から熱い息が漏れた。
濡れた唇を親指でぬぐい、シェスラは蠱惑的な微笑を浮かべた。満足げにラギスを眺めおろし、顔を伏せて喉頸に舌を這わせた。ついばむように肌を吸いながら、肌着をまくりあげる。
乳輪ごと揉みしだかれ、甘い疼痛がラギスの全身を
「んぁっ」
たまらず、ラギスは、女のような声を漏らした。
指の腹で、敏感な突起をくりくりと擦りあげられ、背を弓なりにしならせる。
胸を弄られて感じてしまうとは――羞恥を覚えるが、シェスラの与える巧みな愛撫に、そこがじんと疼くのを止められない。女のように、乳が張る。
「声を我慢するな……聞かせてくれ」
甘く囁いて、シェスラは突起に歯をたてた。うっすら滲む蜜を、そっと舌で舐めとる。
えもいわれぬ快感に貫かれ、腰が大きく跳ねた。逃げを打つ躰を押さえつけ、シェスラはいっそう強く、
「んっ、あ、んぁ、あぁッ、ん!」
「う、ぐぅ……ッ」
じんじんと疼いて、陰茎が爆ぜた。
腰の震えが止まらない。悦楽のなか、乱暴に下履きを脱がされ、ラギスは息をのんだ。
下肢はあられもないありさまだった。
「いい匂いだ……」
シェスラは、羞恥に燃えるラギスに見せつけるように、濡れた下着を舐めてみせた。
「ッ、やめんか」
カッとなって下着を取り返そうとするラギスを、シェスラは荒々しく組み敷き、陰茎にむしゃぶりついた。
「んぁっ」
鋭い感覚が身体に走り、ラギスの腰が跳ねる。
シェスラは卑猥な水音を大きくしながら、いっそう口淫を烈しくした。
どくどくと脈打つ性器を、熱い舌が執拗に舐る。身体中の血液が下肢に集まっていくように感じられた。
「っ、ぐ、でちまう……っ」
「もう?」
シェスラは口角をひねって笑った。意地の悪い口調に、ラギスは喉奥で唸った。
「いやらしい、感じやすい躰だ……」
シェスラはうっそりと笑み、さらに舌を這わせる。
淫靡な水音のまじった囁き声が、ラギスの鼓膜を震わせる。巧みな舌技に追い詰められ、爆発寸前。顔を真赤に燃えあがらせ、慄えている。シェスラは根本まで咥えこむと、仕上げとばかりに頬を窄めて扱きあげた。
「ぐっ、んぁッ! あ、あっ、あぁ――~……ッ」
視界が真っ白になるほどの快楽に襲われ、腰がうねるのをとめられない。ぐっと腰が浮きあがり、びくびくと震える陰茎から熱が迸った。
「ぁ、はぁ……っ……ラギス……っ」
欲望の証を、喉を鳴らして、シェスラが飲み干していく。飲まれている。すべてを飲まれていく。びくびくと跳ねるラギスの大腿をがっしり掴んで押し開き、最後のひとしずくまでをすすりあげる様は、餓えた獣だ。
「美味……」
顔をあげて、満足げに唇を舐めるシェスラの顔を、ラギスは霞がかった思考でぼんやりと仰いだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……っ」
荒い呼吸を繰り返すラギスを眺めおろし、シェスラは身につけているものを脱ぎ捨て始めた。白い肌が露わになっていく。
灯火に照らされた優美な躰。
肩からこぼれ落ちる艷やかな白銀の髪は、灯に照らされ、様々な色合いに燦めく。
これほど美しいものが此の世にあるのかと、何度目かわからぬ衝撃を覚える。
ラギスの胸に、シェスラは掌を滑らせた。そのまま腰をぐっと掴み、ひっくり返すようにして、四つん這いにさせた。
敏感なうなじを、熱い吐息がくすぐる。
戯れのように甘噛みされて、ラギスは腰をくねらせらた。シェスラは手を伸ばして乳首を摘み、股間へ忍ばせ……熱い性器をそっと握りこんだ。
「あ、ん……っ」
優しく淫らに陰茎をしごかれ、
「そのように慄えて……稚い子狼のようだな」
青に燃える熱い眼差しが、ラギスのしっとり汗ばんだ肌に注がれる。
うねる蕾に、熱い吐息がかかる。筋肉の盛りあがった、たくましい背を全身で押さえつけ、シェスラは高い鼻梁を尻のあわいにうずめた。舌を這わせ、匂いをかぎまくる。
「ァッ、よせッ!」
羞恥に叫ぶが、シェスラは舌を蕾にもぐりこませてきた。ぬめった、熱い肉に体内をぐっと抉られ、躰に電流が走った。
「んぁっ、んあぁッ」
熱い舌に、敏感な内側を舐めあげられ、ラギスは激しく腰をくねらせた。頭のなかが真っ白になる。
「はぁ、ラギス……ッ」
極める間際に舌が抜けていき、絶望に駆られた次の瞬間、猛々しい熱塊に貫かれた。
「あぁッ!!」
荒々しい突きあげが始まり、ラギスは頭を振り、尾を振り、圧倒的な征服に身悶えた。だが突きあげる力には敵わず、蕩けきった躰はなすがまま、屈服させられてしまう。
「うぁっあ、あ、んッ、んぁ……ひぅっ……ぁ……?」
果てる――視界が燃えあがった時、動きが止んだ。酷く焦らされた気持ちでラギスは唸った。だが、ゆったりとした抜き挿しにかわると、恍惚の表情を浮かべた。
「あ、あぁ……んっ」
貪る以上に、全身で愛されているような、甘く蕩かされているような感覚だった。緩急をつけた巧みな突きあげに心までもが濡れて、奥できゅうっと
「ふ、ラギス……ッ」
シェスラも心地よさげにうなり、二度、三度、大きく腰をうちつけた。肉のぶつかる音に混じって、ぐぷ、じゅぷぷ、霊液が
あらゆる五感を犯されながら、腹の奥で熱塊がどくんっと脈うち、熱い飛沫に体内を濡らされた。
「あぁッ、んぁ……っ」
ラギスの陰茎ももはや薄くなった蜜を噴きあげていた。
恍惚の表情を浮かべながら射精するラギスを、シェスラは
やがて筋骨たくましい巨躯が弛緩し、悦楽の余韻が落ち着くのを見て……緩やかな抽挿を再開した。