RAVEN
- 11 -
ノックの音がして、流星は吃驚するあまり、手にしていた封筒を落としてしまった。
「流星さん、どうかしましたか?」
「あ、ああ」
慌てて写真をかき集めていると、入っても? とレイヴンの声がして余計に焦った。
「だめだ!」
鋭くいったが、彼はドアを開けて入ってきた。散らばった写真と、慌ててかき集めている流星を見て、厳しい表情をする。
よりにもよって、彼の足元に際どい写真が落ちているの見、流星は慌てて拾おうとした。が、それよりも早くレイヴンが拾いあげた。
「見るなッ!」
情事の最中に、無理矢理撮られた写真だ。両腕を拘束されて、尻だけ高くあげたあられもない恰好で、後ろから城嶋に突きあげられている。痛かったし怖かったが、感じている自分も確かにいて、シーツに押しつけた横顔は、だらしのない表情をしている。
「酷い……」
その一言は、流星の心に深く突き刺さった。酷い。酷い。酷い……こんなに酷い写真を、レイヴンに見られてしまった!
「流星さん、これを送ってきた相手に心当たりは?」
流星は目をぎゅっと瞑った。弁明しなければと思うが、何も思い浮かばない。写真を持つ手が緊張で汗ばみ、小刻みに震えてきた。
(見られた。レイヴンに見られた。もうおしまいだ……っ)
「流星さん」
両肩を掴まれて、流星は目を開いた。
「貴方の力になりたいんです」
真摯な眼差しに見つめられ、流星の胸に葛藤が渦巻いた。彼が興味本位で訊ねているわけではないということは、判っていた。
「……城嶋だ」
レイヴンはいぶかしげな表情を浮かべた。
「城嶋? 会社の上司で恋人の?」
流星は苦悶の表情に顔を歪めた。
「恋人だっていったけど、本当はそんなんじゃなくて、俺は……」
レイヴンは黙って流星の手を握りしめた。励まされながら、とうとう流星は口にした。
「虐待されていたんだ……っ」
恥辱の披瀝 は辛かったが、悄然と項垂れ、手を握ってもらいながら、思いつくままに話し始めた。
何ヶ月も支配されて、暴力的なセックスを強要されていたこと。恥ずかしい恰好をさせられ、写真や動画にも撮られたこと。やめてくれと頼んでも、聞いてくれなかったこと。
話している途中で、肩を抱くレイヴンの手に何度も力がこめられた。流星に同情し、城嶋への憤りを堪えているのだ。彼が共感してくれることに励まされ、流星はしまいには何もかもを打ち明けた。
ここ一年は軟禁状態で、誰かと話したくても、自由に外を歩けなかったこと。電話も監視され、ちょっとでも外部の人間と接触をもとうものなら、浮気を疑われた。殴られ、首をしめられたこと……
こんな惨めな話、誰にも知られたくなかった。打ち明けている自分が信じられないが、止まらなかった。本当は、心のどこかでは、誰かに聞いてほしいと思っていたのかもしれない。
すっかり話し終える頃には、声が掠れてまともに喋れないほどだった。
「……その男、許せない。気を失うほど首をしめるだなんて、殺人行為でしょう」
いつでも朗らかなレイヴンとは思えぬほど、低い声でいった。怒りを抑えこむように、膝に上に置いた拳を、硬く握りしめている。
「最初は優しかったのに、どうしてああなってしまったのか、判らないんだ。俺が、鬱陶しくなった……? 支えることを諦めて、別れたいなんて――」
「そんなの、首をしめていい理由になりませんよ! 流星さんは悪くない」
憤慨するレイヴンを見て、流星は苦しげに眉を寄せた。片手で両目を覆い隠す。
「判らないんだ、彼のことが……悪魔みたいに振る舞ったかと思えば、慰めてきたり……俺の境遇を判ってくれて……なのに、なんでっ」
「恋人だから、何をしても許されるわけじゃありません。その男は、貴方を支配して自分の欲望を満たす異常者だ。合意のないセックスはデートレイプですよ。こんなのはまるで脅迫だ――告訴しましょう」
「やめてくれッ……!」
流星は怯えたように叫んだ。驚きに目を瞠るレイヴンを見てしまったと思い、こういい直した。
「裁判にはしたくないんだ。情けないって自分でも思うけど、怖いんだ。ゲイだって、誰にも知られたくないんだ」
いいながら、涙が溢れた。慌てて目を擦るが、ぼろぼろと涙が溢れてきた。涙をぬぐいもせず、レイヴンの手にしている写真をとり返した。
「こんな写真……レイヴンに見られたくなかった。俺を、軽蔑しないでくれ……っ」
封筒を胸に抱えて、流星は蹲った。レイヴンは傍に屈みこんだ。
「軽蔑したりしません。怖いのは判ります。だけど、いいなりになってしまっては、城嶋の思うつぼですよ」
その瞬間、流星は眼裏 が燃えあがったように感じた。
「怖いんだよ! 俺は怖いんだ、本当に怖いんだよッ……! レイヴンの言い分は判るよ。でも俺は、向き合うばかりが正解ではないと思う。意見が違うのは認めるけど、押しつけようとしないでくれ」
その声は、決して大きくなかったが、悲痛な叫びのようだった。
「そんなつもりでは……でも、ごめんなさい」
沈黙を煮詰めたような空気が部屋を満たす。
流星の胸は引き絞られるような痛みを覚えた。こんなのは癇癪も同然だだ。十二も年下の青年に八つ当たりをしてどうする。自分は一変死んだ方がいいのかもしれない。
深い自己嫌悪に囚われながら、流星はレイヴンが映っている写真だけを選別し、さしだした。
「……城嶋は怖い男だ。この写真をもって、ストーカー行為を通報する分には構わない。むしろ、そうしてくれ」
「……判りました、告訴はしません。誰にもいわないから、安心してください」
流星は小さく頷いた。レイヴンは流星の髪を優しく撫でると、ちゅっとキスを落とした。
「公にはしません……でも、貴方をそんなにも苦しめている男に、相応の苦しみを与えてやりたい」
流星は烈しく首を振った。
「違う、報復がしたいわけじゃないんだ」
城嶋への想いは複雑すぎて、一言ではいいあらわせない。憎しみや恐怖もあるが、情もある。父親にしこたま殴られた時も、慰めてくれたのは彼だった。あの優しさが偽りだとは思わない。
「……彼はもう、十分苦しんできたんだよ」
流星が力なくつけ加えると、その先を視線で促された。
「城嶋は……」
子供の頃に父親から酷い虐待を受けていた。母親も暴力を振るわれていたが、彼女は家出し、一度は戻ったが、再び姿を消した。見捨てられた、と城嶋はいっていた。保護が必要な子供時代に、支えも援助も保護もなかった。彼は必死に歯を食いしばって、努力して、今の自分を築きあげたのだ。偏執的な面ばかりを責められない、彼は、深い心の傷を抱えているのだ。
聞き終えたあと、レイヴンは疲れたように息を吐きだし、しばらく黙りこんだ。
「病んでいますね……同情はします。だからといって、暴力が肯定されるわけじゃない。世のなかには、虐待にめげず、成長して、例えば人を助ける仕事に就いた人もいます。実際、僕の友人にもそういう人がいます」
今度は流星は黙りこんだ。
「流星さん、僕に任せてくれませんか? 威張れるようなことでもありませんが、僕は何度かストーカー被害を経験しているんです。対処法なら心得ています」
レイヴンは、なるべく柔らかな声を心がけて話しかけた。流星は虚を衝かれたように顔をあげた。
「……ストーカー被害があったの?」
「ありましたよ。酷い時には、車にGPS発信機をつけられたこともあります。あの時は本当に頭にきて、告訴しました。勝ちましたよ」
「怖っ……今は? もう大丈夫なの?」
「はい、大丈夫です。セキュリティも強化したし、信頼できる専門家を知っていますから」
流星は感心すると共に、顔を曇らせた。
「すごいな、レイヴンは……けど、城嶋に近づくのは、やめた方がいい。魅力的に見えるけど、普通じゃないんだ。怖い男だよ」
「僕だって、怖い男ですよ」
レイヴンは静かにほほえんだ。このうえなく美しい微笑なのに、怜悧な迫力があって、思わず流星はぞくっとした。
「心配しないで、流星さん。殴りあうわけじゃありませんから。ただ社会的に対応するだけです」
気圧されている流星を見て、レイヴンは無邪気に笑ってみせた。天使のほほえみだ。それなのに、流星の不安はいや増した。
「……レイヴン、本当にやめてくれ。俺はもう、そういってくれただけで十分だから……俺はさ、たぶん、ずっと誰かに聞いてほしかったんだ。大変だったねって、一言いってもらえるだけでも、俺は……っ」
声が潤みかけて、流星は慌てて唇を噛み締めた。レイヴンは流星の頭を胸のなかに抱きこんだ。頭のてっぺんにキスを落としながら、幾つもの優しい言葉を囁いた。
「ありがとう、流星さん。話してくれて……大丈夫、僕がついていますからね」
流星はかぶりを振った。
「この家をでていくよ。城嶋の狙いは俺だ。俺はレイヴンの傍にいない方がいい」
「だめですよ、そんなの!」
手を掴まれて、流星は視線を泳がせた。
「いく当てはあるんですか? 一人になる方が危険ですよ」
「……なんとかする」
「お願いします、でていくなんていわないで、ここにいて……こんな風に終わらせないで」
「終わらせるわけじゃない」
「脅迫されているって知っているのに、流星さんを一人にさせられません。落ち着くまで、絶対にこの家にいてください」
彼があまりに必死にいうので、流星の心は揺れた。
「……だけど、城嶋に居所を知られた以上、もうここにはいられないよ」
「大丈夫です。流星さんのことは明かさないから、先ずは通報させてください。それだけでも、警察は巡回を増やしてくれたり、何かと力になってくれますよ」
共感と思い遣りに満ちた声に、流星は聴きいった。理性は反論を唱えていたが、逡巡の末に、力なく頷いた。
「流星さん、どうかしましたか?」
「あ、ああ」
慌てて写真をかき集めていると、入っても? とレイヴンの声がして余計に焦った。
「だめだ!」
鋭くいったが、彼はドアを開けて入ってきた。散らばった写真と、慌ててかき集めている流星を見て、厳しい表情をする。
よりにもよって、彼の足元に際どい写真が落ちているの見、流星は慌てて拾おうとした。が、それよりも早くレイヴンが拾いあげた。
「見るなッ!」
情事の最中に、無理矢理撮られた写真だ。両腕を拘束されて、尻だけ高くあげたあられもない恰好で、後ろから城嶋に突きあげられている。痛かったし怖かったが、感じている自分も確かにいて、シーツに押しつけた横顔は、だらしのない表情をしている。
「酷い……」
その一言は、流星の心に深く突き刺さった。酷い。酷い。酷い……こんなに酷い写真を、レイヴンに見られてしまった!
「流星さん、これを送ってきた相手に心当たりは?」
流星は目をぎゅっと瞑った。弁明しなければと思うが、何も思い浮かばない。写真を持つ手が緊張で汗ばみ、小刻みに震えてきた。
(見られた。レイヴンに見られた。もうおしまいだ……っ)
「流星さん」
両肩を掴まれて、流星は目を開いた。
「貴方の力になりたいんです」
真摯な眼差しに見つめられ、流星の胸に葛藤が渦巻いた。彼が興味本位で訊ねているわけではないということは、判っていた。
「……城嶋だ」
レイヴンはいぶかしげな表情を浮かべた。
「城嶋? 会社の上司で恋人の?」
流星は苦悶の表情に顔を歪めた。
「恋人だっていったけど、本当はそんなんじゃなくて、俺は……」
レイヴンは黙って流星の手を握りしめた。励まされながら、とうとう流星は口にした。
「虐待されていたんだ……っ」
恥辱の
何ヶ月も支配されて、暴力的なセックスを強要されていたこと。恥ずかしい恰好をさせられ、写真や動画にも撮られたこと。やめてくれと頼んでも、聞いてくれなかったこと。
話している途中で、肩を抱くレイヴンの手に何度も力がこめられた。流星に同情し、城嶋への憤りを堪えているのだ。彼が共感してくれることに励まされ、流星はしまいには何もかもを打ち明けた。
ここ一年は軟禁状態で、誰かと話したくても、自由に外を歩けなかったこと。電話も監視され、ちょっとでも外部の人間と接触をもとうものなら、浮気を疑われた。殴られ、首をしめられたこと……
こんな惨めな話、誰にも知られたくなかった。打ち明けている自分が信じられないが、止まらなかった。本当は、心のどこかでは、誰かに聞いてほしいと思っていたのかもしれない。
すっかり話し終える頃には、声が掠れてまともに喋れないほどだった。
「……その男、許せない。気を失うほど首をしめるだなんて、殺人行為でしょう」
いつでも朗らかなレイヴンとは思えぬほど、低い声でいった。怒りを抑えこむように、膝に上に置いた拳を、硬く握りしめている。
「最初は優しかったのに、どうしてああなってしまったのか、判らないんだ。俺が、鬱陶しくなった……? 支えることを諦めて、別れたいなんて――」
「そんなの、首をしめていい理由になりませんよ! 流星さんは悪くない」
憤慨するレイヴンを見て、流星は苦しげに眉を寄せた。片手で両目を覆い隠す。
「判らないんだ、彼のことが……悪魔みたいに振る舞ったかと思えば、慰めてきたり……俺の境遇を判ってくれて……なのに、なんでっ」
「恋人だから、何をしても許されるわけじゃありません。その男は、貴方を支配して自分の欲望を満たす異常者だ。合意のないセックスはデートレイプですよ。こんなのはまるで脅迫だ――告訴しましょう」
「やめてくれッ……!」
流星は怯えたように叫んだ。驚きに目を瞠るレイヴンを見てしまったと思い、こういい直した。
「裁判にはしたくないんだ。情けないって自分でも思うけど、怖いんだ。ゲイだって、誰にも知られたくないんだ」
いいながら、涙が溢れた。慌てて目を擦るが、ぼろぼろと涙が溢れてきた。涙をぬぐいもせず、レイヴンの手にしている写真をとり返した。
「こんな写真……レイヴンに見られたくなかった。俺を、軽蔑しないでくれ……っ」
封筒を胸に抱えて、流星は蹲った。レイヴンは傍に屈みこんだ。
「軽蔑したりしません。怖いのは判ります。だけど、いいなりになってしまっては、城嶋の思うつぼですよ」
その瞬間、流星は
「怖いんだよ! 俺は怖いんだ、本当に怖いんだよッ……! レイヴンの言い分は判るよ。でも俺は、向き合うばかりが正解ではないと思う。意見が違うのは認めるけど、押しつけようとしないでくれ」
その声は、決して大きくなかったが、悲痛な叫びのようだった。
「そんなつもりでは……でも、ごめんなさい」
沈黙を煮詰めたような空気が部屋を満たす。
流星の胸は引き絞られるような痛みを覚えた。こんなのは癇癪も同然だだ。十二も年下の青年に八つ当たりをしてどうする。自分は一変死んだ方がいいのかもしれない。
深い自己嫌悪に囚われながら、流星はレイヴンが映っている写真だけを選別し、さしだした。
「……城嶋は怖い男だ。この写真をもって、ストーカー行為を通報する分には構わない。むしろ、そうしてくれ」
「……判りました、告訴はしません。誰にもいわないから、安心してください」
流星は小さく頷いた。レイヴンは流星の髪を優しく撫でると、ちゅっとキスを落とした。
「公にはしません……でも、貴方をそんなにも苦しめている男に、相応の苦しみを与えてやりたい」
流星は烈しく首を振った。
「違う、報復がしたいわけじゃないんだ」
城嶋への想いは複雑すぎて、一言ではいいあらわせない。憎しみや恐怖もあるが、情もある。父親にしこたま殴られた時も、慰めてくれたのは彼だった。あの優しさが偽りだとは思わない。
「……彼はもう、十分苦しんできたんだよ」
流星が力なくつけ加えると、その先を視線で促された。
「城嶋は……」
子供の頃に父親から酷い虐待を受けていた。母親も暴力を振るわれていたが、彼女は家出し、一度は戻ったが、再び姿を消した。見捨てられた、と城嶋はいっていた。保護が必要な子供時代に、支えも援助も保護もなかった。彼は必死に歯を食いしばって、努力して、今の自分を築きあげたのだ。偏執的な面ばかりを責められない、彼は、深い心の傷を抱えているのだ。
聞き終えたあと、レイヴンは疲れたように息を吐きだし、しばらく黙りこんだ。
「病んでいますね……同情はします。だからといって、暴力が肯定されるわけじゃない。世のなかには、虐待にめげず、成長して、例えば人を助ける仕事に就いた人もいます。実際、僕の友人にもそういう人がいます」
今度は流星は黙りこんだ。
「流星さん、僕に任せてくれませんか? 威張れるようなことでもありませんが、僕は何度かストーカー被害を経験しているんです。対処法なら心得ています」
レイヴンは、なるべく柔らかな声を心がけて話しかけた。流星は虚を衝かれたように顔をあげた。
「……ストーカー被害があったの?」
「ありましたよ。酷い時には、車にGPS発信機をつけられたこともあります。あの時は本当に頭にきて、告訴しました。勝ちましたよ」
「怖っ……今は? もう大丈夫なの?」
「はい、大丈夫です。セキュリティも強化したし、信頼できる専門家を知っていますから」
流星は感心すると共に、顔を曇らせた。
「すごいな、レイヴンは……けど、城嶋に近づくのは、やめた方がいい。魅力的に見えるけど、普通じゃないんだ。怖い男だよ」
「僕だって、怖い男ですよ」
レイヴンは静かにほほえんだ。このうえなく美しい微笑なのに、怜悧な迫力があって、思わず流星はぞくっとした。
「心配しないで、流星さん。殴りあうわけじゃありませんから。ただ社会的に対応するだけです」
気圧されている流星を見て、レイヴンは無邪気に笑ってみせた。天使のほほえみだ。それなのに、流星の不安はいや増した。
「……レイヴン、本当にやめてくれ。俺はもう、そういってくれただけで十分だから……俺はさ、たぶん、ずっと誰かに聞いてほしかったんだ。大変だったねって、一言いってもらえるだけでも、俺は……っ」
声が潤みかけて、流星は慌てて唇を噛み締めた。レイヴンは流星の頭を胸のなかに抱きこんだ。頭のてっぺんにキスを落としながら、幾つもの優しい言葉を囁いた。
「ありがとう、流星さん。話してくれて……大丈夫、僕がついていますからね」
流星はかぶりを振った。
「この家をでていくよ。城嶋の狙いは俺だ。俺はレイヴンの傍にいない方がいい」
「だめですよ、そんなの!」
手を掴まれて、流星は視線を泳がせた。
「いく当てはあるんですか? 一人になる方が危険ですよ」
「……なんとかする」
「お願いします、でていくなんていわないで、ここにいて……こんな風に終わらせないで」
「終わらせるわけじゃない」
「脅迫されているって知っているのに、流星さんを一人にさせられません。落ち着くまで、絶対にこの家にいてください」
彼があまりに必死にいうので、流星の心は揺れた。
「……だけど、城嶋に居所を知られた以上、もうここにはいられないよ」
「大丈夫です。流星さんのことは明かさないから、先ずは通報させてください。それだけでも、警察は巡回を増やしてくれたり、何かと力になってくれますよ」
共感と思い遣りに満ちた声に、流星は聴きいった。理性は反論を唱えていたが、逡巡の末に、力なく頷いた。