メル・アン・エディール - 無限海の海賊 -
6章:告げる想い、秘する想い - 3 -
腕を振り払って逃げ出そうとしたら、すかさず抱きしめられた。
「離して」
「なぜ?」
「どうして笑うの?」
「ティカ」
「何が可笑しいの?」
笑われたことで、心は深く傷ついていた。ヴィヴィアンは宥めるように額に口づけた。
「船室 に戻ります。は、離して」
「行かないで。ごめんね、泣かせて」
優しいキスが、ティカの顔に雨のように降る。ヴィヴィアンはティカの身体を持ち上げて、向かい合わせで抱っこするように膝上に乗せた。
大きな手が背中を優しく撫でる。子供にする慰めそのものだが、ティカのささくれ立った心は潤った。
もがくのを止めると、額やこめかみに口づけが落ちる。
「かわいいな、ティカは……」
喜びが胸に込み上げた。唇で触れられる度にドキドキする。でも、それでは駄目なのだ。この人の心を引き留められない。
彼は“かわいい”ティカにないものを求めて、他の誰かの元へ行くのだと思うから。
「もう……」
「ん?」
この上なく優しい声が、鼓膜に甘く届いた。“もう、どこにも行かないで”そんなこと言っていいのだろうか……
判らない。
次から次へと涙が零れる。涙腺は決壊してしまった。心が乱れて、おかしなことを口走ってしまいそうだ。
「僕、船室に戻ります……」
「そんなに泣いているのに?」
しゃくり上げなら、膝から降りようと身じろぐと、余計に抱きしめられた。
「誰に慰めてもらうの?」
慰めが欲しいわけではない。訳もなく、またしても涙が溢れた。嗚咽を堪えて瞳をこすると、その手を取られた。
瞼に、眦に、頬にキスが降る。やがて唇の端にも吸い突かれた。
「ん……」
唇を舐められて、鼓動が跳ねた。慌てて口元を真一文字に引き結ぶ。それなのに、尖らせた舌が閉じた唇のあわいをなぞる。
ぎゅうっと抱きしめられた瞬間、うっすら唇を開いてしまった。途端にぴたりと唇を塞がれて、隙間から熱い舌を挿し入れられた。
「んぅ……っ」
強い酒精の味が広がる。こんなキスは知らない……!
心臓がありえないほど早鐘を打っている。激しく流れる血脈を感じる。ティカが怯えたように身じろいでも、放してくれない。むしろ締めつける腕の力は増した。
薄いシャツの下に、ヴィヴィアンの手が潜り込んだ。
「あっ」
肌を撫でる掌が、ティカの腹から胸を撫で上げる。麻のシャツをたくしあげられ、肌は外気に触れた。
何が起きているのか理解できないまま、胸の先端を親指で倒される。
「……っ」
じんと痺れて、身体は雷に打たれたように撥ねた。逃げようと顔を背けても、ヴィヴィアンの唇はどこまでも追いかけてくる。逃がしてくれない。
怖い――
いつもは優しく抱擁してくれる腕や掌を、凶器のように感じる。ティカの知らない熱を、身体中に強引に灯されていく。
「やだっ!」
喉の奥から悲鳴が漏れた。ヴィヴィアンは唇を離すと、涙に濡れたティカの顔を見つめた。
「……怖い?」
「あ、アイ」
「俺を嫌いになった?」
思わず目を瞠った。すぐに首を左右に振る。ヴィヴィアンを嫌いになるなんて、ありえない。
「俺が好き?」
「アイ」
即答すると、ヴィヴィアンは淡く微笑んだ。
「俺も好きだよ、かわいいティカ。癒されるだけじゃなくて、今はもっと……」
ティカを映す青い瞳の奥に、迷いと、仄かな熱が灯っているように見える。
「俺は、ティカを猫可愛がりするだけじゃなくて……愛したいんだ」
密やかな声で告げられた。
彼の言わんとすることは、なんとなく判る。ほてる肌を意識しながら、ティカは恐る恐る頷いた。
「離して」
「なぜ?」
「どうして笑うの?」
「ティカ」
「何が可笑しいの?」
笑われたことで、心は深く傷ついていた。ヴィヴィアンは宥めるように額に口づけた。
「
「行かないで。ごめんね、泣かせて」
優しいキスが、ティカの顔に雨のように降る。ヴィヴィアンはティカの身体を持ち上げて、向かい合わせで抱っこするように膝上に乗せた。
大きな手が背中を優しく撫でる。子供にする慰めそのものだが、ティカのささくれ立った心は潤った。
もがくのを止めると、額やこめかみに口づけが落ちる。
「かわいいな、ティカは……」
喜びが胸に込み上げた。唇で触れられる度にドキドキする。でも、それでは駄目なのだ。この人の心を引き留められない。
彼は“かわいい”ティカにないものを求めて、他の誰かの元へ行くのだと思うから。
「もう……」
「ん?」
この上なく優しい声が、鼓膜に甘く届いた。“もう、どこにも行かないで”そんなこと言っていいのだろうか……
判らない。
次から次へと涙が零れる。涙腺は決壊してしまった。心が乱れて、おかしなことを口走ってしまいそうだ。
「僕、船室に戻ります……」
「そんなに泣いているのに?」
しゃくり上げなら、膝から降りようと身じろぐと、余計に抱きしめられた。
「誰に慰めてもらうの?」
慰めが欲しいわけではない。訳もなく、またしても涙が溢れた。嗚咽を堪えて瞳をこすると、その手を取られた。
瞼に、眦に、頬にキスが降る。やがて唇の端にも吸い突かれた。
「ん……」
唇を舐められて、鼓動が跳ねた。慌てて口元を真一文字に引き結ぶ。それなのに、尖らせた舌が閉じた唇のあわいをなぞる。
ぎゅうっと抱きしめられた瞬間、うっすら唇を開いてしまった。途端にぴたりと唇を塞がれて、隙間から熱い舌を挿し入れられた。
「んぅ……っ」
強い酒精の味が広がる。こんなキスは知らない……!
心臓がありえないほど早鐘を打っている。激しく流れる血脈を感じる。ティカが怯えたように身じろいでも、放してくれない。むしろ締めつける腕の力は増した。
薄いシャツの下に、ヴィヴィアンの手が潜り込んだ。
「あっ」
肌を撫でる掌が、ティカの腹から胸を撫で上げる。麻のシャツをたくしあげられ、肌は外気に触れた。
何が起きているのか理解できないまま、胸の先端を親指で倒される。
「……っ」
じんと痺れて、身体は雷に打たれたように撥ねた。逃げようと顔を背けても、ヴィヴィアンの唇はどこまでも追いかけてくる。逃がしてくれない。
怖い――
いつもは優しく抱擁してくれる腕や掌を、凶器のように感じる。ティカの知らない熱を、身体中に強引に灯されていく。
「やだっ!」
喉の奥から悲鳴が漏れた。ヴィヴィアンは唇を離すと、涙に濡れたティカの顔を見つめた。
「……怖い?」
「あ、アイ」
「俺を嫌いになった?」
思わず目を瞠った。すぐに首を左右に振る。ヴィヴィアンを嫌いになるなんて、ありえない。
「俺が好き?」
「アイ」
即答すると、ヴィヴィアンは淡く微笑んだ。
「俺も好きだよ、かわいいティカ。癒されるだけじゃなくて、今はもっと……」
ティカを映す青い瞳の奥に、迷いと、仄かな熱が灯っているように見える。
「俺は、ティカを猫可愛がりするだけじゃなくて……愛したいんだ」
密やかな声で告げられた。
彼の言わんとすることは、なんとなく判る。ほてる肌を意識しながら、ティカは恐る恐る頷いた。