メル・アン・エディール - 無限海の海賊 -
1章:出会いと出航 - 15 -
主甲板より更に上段の甲板にあがったサディールが、ピィーッと威勢よく笛を鳴らした。
船員は一斉に顔をあげると、名残惜しそうにしながらも、タラップを登り始めた。
ヴィヴィアンも船上に戻ってくると、何かを探すように視線を彷徨わせ、ティカを見つけるとほほえんだ。
「ティカ!」
名前を呼ばれて傍に駆け寄ると、肩を抱き寄せられた。船員の視線が集中する。ヴィヴィアンは彼等に笑いかけた。
「諸君。既に知っている者もいると思うが、我が船に幸運を運んできてくれた、ティカだ。ティカのおかげで、宝の在り処が見えた。嵐も過ぎ去った。さぁ、寄り道せず最速で目指そう! 見事辿り着いたら、全員に特別報酬をだすと約束する!」
「オォッ!!」
「さすがキャプテン!」
「楽しみだぜ」
報酬と聞いて、全員が色めきたった。
「他の連中も、無限幻海の噂を聞いて集まってきている。だが、“鍵”を握っているのは俺たちだ。ジョー・スパーナやブラッデイー・ナイツにだし抜かれるなよ!」
「オォーッ!!」
全員が雄たけびをあげた。
「国王陛下万歳! アンフルラージュよ、我等の航海に祝福と加護を!」
船乗りたちは、天に向かって一斉に、粗っぽい祈りを喚いた。
「嵐のせいでエーテルが枯渇している。今日は何もかも人力でやるぞ! 野郎共ぉ! 錨を上げろぉッ!!」
サディールは大声を張りあげた。
「「アイアイ、サーッ!」」
八人の男が、キャプスタン――錨鎖 を巻きあげる装置――に駆け寄った。四方に張りだした巻きあげ棒に掴みかかると、エィッ、オォッ! とかけ声をあわせて全体重を乗せる。
ギギ……と重たい音が響いた。
水夫たちの二の腕に盛りあがる力こぶが、いかに力を要するのかを物語っている。
機械義足をつけた船乗りが二人やってきて、それぞれ胸にさげたバスドラムとスネアドラムを軽快に叩き始めた。
ダムダム、タタタタタ!
ノリのいい軽快なリズムにあわせて、かけ声と共にキャプスタンを撒きあげていく。
「しっかり、押せぇーっ!」
サディールが怒鳴ると船員は、オォッ! と殆ど咆哮で応えた。
「帆を張れェッ!!」
ヴィヴィアンが出航命令を叫んだ。
「「アイアイ、キャプテンッ!」」
たった一言のシンプルな命令を、それぞれの水夫は、瞬時に自分の仕事に即して解釈した。
腕や背中に刺青をいれた上半身裸の男たちが、甲板から聳 える四つの帆柱――前部帆柱 、主帆柱 、後部帆柱 、最後尾帆柱 ――の索具に向かって一斉に走り、勢いよく帆柱 に登る。
足に安全ロープを巻いている未熟者 もいるが、熟練した水夫の殆どは、身一つで地上遥か四〇メーテルの帆桁 ――帆を張るための水平の棒――の上を走り、その下の足場綱 に飛び移った。
「両翼からだ!」
遥か頭上で水夫が叫ぶと、即時に周囲の水夫たちがロープを操る。何百本と張り巡らされたロープを巧みに操る様は、まるで複雑な機械を動かしているようだ。
「ストッパーを取れ!」
出航命令から僅か数分で、ヘルジャッジ号の漆黒の帆は、風をはらんで膨らんでいく。ティカは見ているだけで、ドキドキしてきた。
「前部 、主 、後部 ! 帆を風にあわせろ!」
ヴィヴィアンがシルヴィーとサディールに伝えると、彼等は声を張りあげると共に、旗をあげて遥か頭上の水夫に合図を送った。シルヴィーは舵輪を操作する助手にも、声と手で合図している。
全長一一〇メートルを越える巨体が、ゆっくりと沖合に向けて旋回を始めた。喫水線が揺れ動いて、ザザッと船腹に波が打ちつける。
跳ねあがった飛沫が船縁まで飛んできて、ティカの全身に降りかかった。
「うっわぁ――っ!」
ティカは橙 の瞳をキラキラと輝かせて、大歓声をあげた。
「出航!」
ヴィヴィアンが晴れやかに告げると、青空の彼方まで汽笛が鳴り響いた。手を振って見送ってくれる王都の皆に向かって、ティカは夢中で手を振った。
(いよいよ、出航するんだ! サーシャ、いってきますっ!!)
心地よい風が吹いている。いってらっしゃい――大好きな少女の声を聴いた気がした。
船員は一斉に顔をあげると、名残惜しそうにしながらも、タラップを登り始めた。
ヴィヴィアンも船上に戻ってくると、何かを探すように視線を彷徨わせ、ティカを見つけるとほほえんだ。
「ティカ!」
名前を呼ばれて傍に駆け寄ると、肩を抱き寄せられた。船員の視線が集中する。ヴィヴィアンは彼等に笑いかけた。
「諸君。既に知っている者もいると思うが、我が船に幸運を運んできてくれた、ティカだ。ティカのおかげで、宝の在り処が見えた。嵐も過ぎ去った。さぁ、寄り道せず最速で目指そう! 見事辿り着いたら、全員に特別報酬をだすと約束する!」
「オォッ!!」
「さすがキャプテン!」
「楽しみだぜ」
報酬と聞いて、全員が色めきたった。
「他の連中も、無限幻海の噂を聞いて集まってきている。だが、“鍵”を握っているのは俺たちだ。ジョー・スパーナやブラッデイー・ナイツにだし抜かれるなよ!」
「オォーッ!!」
全員が雄たけびをあげた。
「国王陛下万歳! アンフルラージュよ、我等の航海に祝福と加護を!」
船乗りたちは、天に向かって一斉に、粗っぽい祈りを喚いた。
「嵐のせいでエーテルが枯渇している。今日は何もかも人力でやるぞ! 野郎共ぉ! 錨を上げろぉッ!!」
サディールは大声を張りあげた。
「「アイアイ、サーッ!」」
八人の男が、キャプスタン――
ギギ……と重たい音が響いた。
水夫たちの二の腕に盛りあがる力こぶが、いかに力を要するのかを物語っている。
機械義足をつけた船乗りが二人やってきて、それぞれ胸にさげたバスドラムとスネアドラムを軽快に叩き始めた。
ダムダム、タタタタタ!
ノリのいい軽快なリズムにあわせて、かけ声と共にキャプスタンを撒きあげていく。
「しっかり、押せぇーっ!」
サディールが怒鳴ると船員は、オォッ! と殆ど咆哮で応えた。
「帆を張れェッ!!」
ヴィヴィアンが出航命令を叫んだ。
「「アイアイ、キャプテンッ!」」
たった一言のシンプルな命令を、それぞれの水夫は、瞬時に自分の仕事に即して解釈した。
腕や背中に刺青をいれた上半身裸の男たちが、甲板から
足に安全ロープを巻いている
「両翼からだ!」
遥か頭上で水夫が叫ぶと、即時に周囲の水夫たちがロープを操る。何百本と張り巡らされたロープを巧みに操る様は、まるで複雑な機械を動かしているようだ。
「ストッパーを取れ!」
出航命令から僅か数分で、ヘルジャッジ号の漆黒の帆は、風をはらんで膨らんでいく。ティカは見ているだけで、ドキドキしてきた。
「
ヴィヴィアンがシルヴィーとサディールに伝えると、彼等は声を張りあげると共に、旗をあげて遥か頭上の水夫に合図を送った。シルヴィーは舵輪を操作する助手にも、声と手で合図している。
全長一一〇メートルを越える巨体が、ゆっくりと沖合に向けて旋回を始めた。喫水線が揺れ動いて、ザザッと船腹に波が打ちつける。
跳ねあがった飛沫が船縁まで飛んできて、ティカの全身に降りかかった。
「うっわぁ――っ!」
ティカは
「出航!」
ヴィヴィアンが晴れやかに告げると、青空の彼方まで汽笛が鳴り響いた。手を振って見送ってくれる王都の皆に向かって、ティカは夢中で手を振った。
(いよいよ、出航するんだ! サーシャ、いってきますっ!!)
心地よい風が吹いている。いってらっしゃい――大好きな少女の声を聴いた気がした。