HALEGAIA
8章:俺たちの日常 - 3 -
「嘘、だろ……あの子知ってる」
上擦った声で陽一は呟いた。頸を傾げるミラの腕を掴むと、焦った表情で訴えた。
「ニュースで見たんだよ! ミラがうちでご飯食ったときも流れてた。あの子、少女失踪事件の被害者かもしれない」
冷ややかな驚愕に襲われて、全身から血の気が引いた。暖炉のある部屋にいるのに、恐怖で肌が粟立つ。
「とにかく、家に戻りましょうか」
その通りだ。家に帰って、調べたいことが山ほどある。
アドリア海の別荘からミラの自宅に戻り、玄関をでると師走 の寒風に吹かれた。思わず頸をすくめた陽一は、仄かな視線に気がついた。
あの子がいる。
突然立ち止まった陽一の視線の先を、ミラも追いかけた。すると魔性の存在に驚いたのか、或いは怯えたのか、少女は蝋燭の火を消すみたいに、ふっ……と消えてしまった。
「俺に憑いているのかな」
陽一はぽつりと呟いた。
二度も顕れたのだ。よほど、いいたいことがあるに違いない。恨みを晴らしてほしいとか……遺体を見つけてほしいとか……?
「というよりは……」
珍しくミラは言葉を躊躇った。陽一が視線で促すと、ミラは逡巡し、全く別のことを訊ねた。
「理沙ちゃんは今、どこにいますか?」
「理沙?」
一瞬、あぜんとして、陽一は訊き返した。
「修学旅行だけど……なんで?」
妹は今、群馬県の自然学習施設に宿泊している。一泊二日なので、明日の夕方には戻ってくる予定だ。
「あの浮遊霊が、気をつけた方がいいと警告していましたよ」
「えっ?」
「少女失踪事件の犯人、まだ捕まっていませんよね?」
ミラの言葉に、陽一は茫然となった。頭がずきずき脈打ち、恐怖の匂いが漂ってくる気がした。
「……まさか、理沙が狙われているの?」
ミラは陽一を見つめたまま、徐 にスマホを取りだすと、三桁の番号を押した。
「匿名の通報です……いえ、違います。はい……“黙って聞きなさい”」
声が冷たい魔性を帯びたので、陽一はドキッとした。菫色の瞳が冷たく輝いている。
「……よろしい。今からいう住所に少女失踪事件の犯人がいるので、至急捕まえてください。そうです、江戸川区の事件です。早くしないと次の犠牲者がでますからね、いいですか? 名前は田中成美、世田谷区の――」
ミラが告げた名前に、陽一は聞き覚えがあった。その正体が鋭い矢のように脳に突き刺さったとき、地面の底が抜け落ちるような感覚に襲われた。
通話を切ったミラは、凍りついている陽一を見て、悪戯めいた微笑を浮かべた。
「というわけで、元 隣人は殺人犯でした。驚きました?」
「え……本当に? 田中さんなの?」
「そうですよ。ほらぁ、僕が引っ越してきて良かったでしょう?」
無邪気な微笑に、悪魔の本性が滲んだ。
陽一は、返す言葉が見つからなかった。田中成美は、ついこの間まで隣に住んでいた男性の名前だ。
十年来の元隣人の、穏やかな顔が脳裏に浮かぶ……
釣りが趣味で、さばいた刺身をもらったこともある。こちらも、田舎から送られてきた果物やお米をおすそ分けしたり、平穏にご近所づきあいをしていた。彼が、少女失踪事件の犯人だといわれても、全くピンとこない。
(――信じられない)
訳が分からな過ぎて、うまく考えられない。テスト問題が全く分からなくて思考停止した時に似ている。
呆けたように動かない陽一を、ミラは凝 と観察していた。
(鈍いですよねぇ……十年も近くにいて気づかないなんて。僕が引っ越してこなければ、一家惨殺もありえましたよ。でも、うっかりしている陽一もかわいい♡)
嘲弄 めいた慈愛を覚えながら、ミラは、優しくほほえんだ。
「大丈夫、僕がいますから。陽一の家族は特別に、命を助けてあげる」
天使の囁きなのか悪魔の囁きなのか、陽一には判別がつきかねた。ただ眩しいものを見るように、ミラを見つめた。彼が人間に酷いことをする悪魔だと知っていても、正直なところ、ほっとした思いだった。
「妹に連絡してみる」
電話しようとして、陽一は躊躇った。恐らく、集団行動中はスマホの使用は禁止のはずだ。電話すると迷惑になると思い、LINEでメッセージを送ってみると、幸いすぐに返事がきた。予定通り、明日の夕方には東京に戻ってくるようだ。
「良かった、ひとまず無事だ」
陽一は安堵のため息をついた。
「さぁ、安心したところで晩餐に招かれましょう。人助けをした対価に、僕は鍋を食べますよ」
ミラは明るくいった。
「人助けしようがしまいが、お前は食べるだろ」
陽一は半ば呆れたようにいったが、決して返せないほどの恩をミラに感じていた。敵にまわしたら恐ろしいが、味方であればこれほど心強い相手はいない。
恐ろしい事件だけれど、真相を知っているのだ。冷静に対処すれば、きっと大丈夫だ。犯人についてはミラが通報してくれた。妹の身の安全だけ考えればいい。
夕飯の席で陽一は、母に、衝撃の事実を伝えるかわりに、しばらく理沙の登下校につきそおうと相談をもちかけた。母は二つ返事で賛同し、明日は学校まで車で迎えにいくといった。
家族の会話を、ミラは黙って聞いていた。美味そうに白菜と豆腐と真鯛の鍋をつつき、愛想をたっぷりこめた笑顔で母を喜ばせていた。温かい食卓にすっかり満足した様子で、食後にほうじ茶を飲んでから帰っていった。
自分の部屋に戻ると、陽一は、事件のことを調べてみた。
少女の名前は、小林彩音 。
江戸川区に住む十歳の女の子で、十月十二日の学校の帰り道で行方不明になったらしい。少女誘拐事件と関連づけて捜査はまだ続いているが、彼女はもう……
(……とはいえ、俺が目撃情報を喋るわけにはいかないよな……彼女の霊 を視たなんて、いえるわけないし……)
少女の帰りを待っている彼女の家族を想うと、胸が痛んだ。きっと眠れない夜を過ごしているに違いない。必死に探し続けている姿を想像すると、遣る瀬無い気持ちになる。もし理沙が同じ目にあったら、陽一も正気ではいられなかった。眠れない夜を過ごして、必死に探して回ったに違いない。
少しでも協力したい一心で、適切な情報提供フォームを探してみたが、間もなく断念した。
元隣人があやしい等と訴えれば、家族に迷惑がかかるかもしれない。陽一だって晴天の霹靂 だったのに、詳細を訊かれたら困る。真相を知っているのにもどかしい気持ちだが、伝え方が非常に難しい。
(……犯人が捕まれば、あの子のことも明らかになる……)
既にミラが具体的な情報を通報してくれた。陽一が行動を起こすより、よっぽど確実だ。あとは警察が動いてくれることを信じるしかない。
それにしても、ミラはどうやって隣人の正体を知ったのだろう?
わざわざ隣に引っ越してきたのは、単純に陽一の家の隣に住みたいからだと思っていたが、隣人が殺人犯だと知っていたから、高額で売却取引したのだろうか。
(……そういえば、目障りな男だから排除しておこう、とか転校初日にいってたような……)
つまり、殺人犯が住んでいたと承知の上で、ミラはあの家に住んでいるのだ。リビングとアドリア海の別荘を繋げているのは、そういう事情もあったりして……
一瞬、悪夢に見た八畳の洋間が脳裏をよぎり、ぞくっと背筋に悪寒が走った。
……やめよう。これ以上は考えたくない。
恐ろしい思考を振り払うように陽一は軽く頭をふり、モニターの電源を落とした。
翌日の午後。
これから帰ると妹から家族のグループLINEに連絡があった。そこまでは予定通りだったが、母が家をでるのに少し遅れるらしく、理沙から“歩いて帰る”と連絡が入った。陽一はすぐにやめろと打ったが、いつまで経っても既読にならない。
空はどんよりと重く、遠雷が聴こえている。
いてもたってもいられず、部活を休んで走って家に帰ると、不安げな表情をした母が小走りでやってきて、
「お帰り。理沙から連絡あった?」
「いや、ないよ。友達と一緒じゃないの?」
「仲のいい子のお家にはかけてみたんだけど、知らないって。学校にも連絡して、今探してもらっているのよ。私もこれから近くを探してみようと思って」
「俺も探してみる」
「お願い」
母の言葉に頷いた陽一は、制服姿のまま家をとびだし、すぐ隣の家のインターホンを鳴らした。ミラはすぐに玄関先に顕れた。
「いらっしゃい、」
「理沙が帰ってこない! 一緒に探してくれる?」
にこやかな挨拶を遮り、陽一はミラに縋りついた。
「お安い御用ですよ」
ミラは即答すると、陽一の腕を掴んで、玄関のなかにひっぱりこんだ。
「見つけましたよ」
いとも簡単にミラがいったので、えっ? と陽一は目を瞬いた。
「残念ながら、誘拐犯の家にいます」
ひゅっ、と陽一は息を飲んだ。
「監禁されていますが、無事ですよ。今のところは」
悪魔の千里眼なのか、まるで見てきたかのように答えるミラは、それにしても、と感心したように続けた。
「五億円は渡し過ぎましたかね? 狡猾な殺人者が金を手にすると、自宅を監禁施設のように作り変えてしまうのですね」
ひとりで喋っていたミラは、血の気が引いている陽一に気がつくと、肩を抱き寄せて優しく笑みかけた。
「大丈夫ですよ、迎えにいってきますから」
「俺もいく」
「いえ、ここにいてください。すぐに戻りますから」
「俺もいく! 妹なんだよ、頼む」
陽一はミラの胸に手をついて、訴えた。
真摯な眼差しが陽一を射る。ミラは少しばかり逡巡したが、陽一の目を見て頷いた。
「わかりました」
上擦った声で陽一は呟いた。頸を傾げるミラの腕を掴むと、焦った表情で訴えた。
「ニュースで見たんだよ! ミラがうちでご飯食ったときも流れてた。あの子、少女失踪事件の被害者かもしれない」
冷ややかな驚愕に襲われて、全身から血の気が引いた。暖炉のある部屋にいるのに、恐怖で肌が粟立つ。
「とにかく、家に戻りましょうか」
その通りだ。家に帰って、調べたいことが山ほどある。
アドリア海の別荘からミラの自宅に戻り、玄関をでると
あの子がいる。
突然立ち止まった陽一の視線の先を、ミラも追いかけた。すると魔性の存在に驚いたのか、或いは怯えたのか、少女は蝋燭の火を消すみたいに、ふっ……と消えてしまった。
「俺に憑いているのかな」
陽一はぽつりと呟いた。
二度も顕れたのだ。よほど、いいたいことがあるに違いない。恨みを晴らしてほしいとか……遺体を見つけてほしいとか……?
「というよりは……」
珍しくミラは言葉を躊躇った。陽一が視線で促すと、ミラは逡巡し、全く別のことを訊ねた。
「理沙ちゃんは今、どこにいますか?」
「理沙?」
一瞬、あぜんとして、陽一は訊き返した。
「修学旅行だけど……なんで?」
妹は今、群馬県の自然学習施設に宿泊している。一泊二日なので、明日の夕方には戻ってくる予定だ。
「あの浮遊霊が、気をつけた方がいいと警告していましたよ」
「えっ?」
「少女失踪事件の犯人、まだ捕まっていませんよね?」
ミラの言葉に、陽一は茫然となった。頭がずきずき脈打ち、恐怖の匂いが漂ってくる気がした。
「……まさか、理沙が狙われているの?」
ミラは陽一を見つめたまま、
「匿名の通報です……いえ、違います。はい……“黙って聞きなさい”」
声が冷たい魔性を帯びたので、陽一はドキッとした。菫色の瞳が冷たく輝いている。
「……よろしい。今からいう住所に少女失踪事件の犯人がいるので、至急捕まえてください。そうです、江戸川区の事件です。早くしないと次の犠牲者がでますからね、いいですか? 名前は田中成美、世田谷区の――」
ミラが告げた名前に、陽一は聞き覚えがあった。その正体が鋭い矢のように脳に突き刺さったとき、地面の底が抜け落ちるような感覚に襲われた。
通話を切ったミラは、凍りついている陽一を見て、悪戯めいた微笑を浮かべた。
「というわけで、
「え……本当に? 田中さんなの?」
「そうですよ。ほらぁ、僕が引っ越してきて良かったでしょう?」
無邪気な微笑に、悪魔の本性が滲んだ。
陽一は、返す言葉が見つからなかった。田中成美は、ついこの間まで隣に住んでいた男性の名前だ。
十年来の元隣人の、穏やかな顔が脳裏に浮かぶ……
釣りが趣味で、さばいた刺身をもらったこともある。こちらも、田舎から送られてきた果物やお米をおすそ分けしたり、平穏にご近所づきあいをしていた。彼が、少女失踪事件の犯人だといわれても、全くピンとこない。
(――信じられない)
訳が分からな過ぎて、うまく考えられない。テスト問題が全く分からなくて思考停止した時に似ている。
呆けたように動かない陽一を、ミラは
(鈍いですよねぇ……十年も近くにいて気づかないなんて。僕が引っ越してこなければ、一家惨殺もありえましたよ。でも、うっかりしている陽一もかわいい♡)
「大丈夫、僕がいますから。陽一の家族は特別に、命を助けてあげる」
天使の囁きなのか悪魔の囁きなのか、陽一には判別がつきかねた。ただ眩しいものを見るように、ミラを見つめた。彼が人間に酷いことをする悪魔だと知っていても、正直なところ、ほっとした思いだった。
「妹に連絡してみる」
電話しようとして、陽一は躊躇った。恐らく、集団行動中はスマホの使用は禁止のはずだ。電話すると迷惑になると思い、LINEでメッセージを送ってみると、幸いすぐに返事がきた。予定通り、明日の夕方には東京に戻ってくるようだ。
「良かった、ひとまず無事だ」
陽一は安堵のため息をついた。
「さぁ、安心したところで晩餐に招かれましょう。人助けをした対価に、僕は鍋を食べますよ」
ミラは明るくいった。
「人助けしようがしまいが、お前は食べるだろ」
陽一は半ば呆れたようにいったが、決して返せないほどの恩をミラに感じていた。敵にまわしたら恐ろしいが、味方であればこれほど心強い相手はいない。
恐ろしい事件だけれど、真相を知っているのだ。冷静に対処すれば、きっと大丈夫だ。犯人についてはミラが通報してくれた。妹の身の安全だけ考えればいい。
夕飯の席で陽一は、母に、衝撃の事実を伝えるかわりに、しばらく理沙の登下校につきそおうと相談をもちかけた。母は二つ返事で賛同し、明日は学校まで車で迎えにいくといった。
家族の会話を、ミラは黙って聞いていた。美味そうに白菜と豆腐と真鯛の鍋をつつき、愛想をたっぷりこめた笑顔で母を喜ばせていた。温かい食卓にすっかり満足した様子で、食後にほうじ茶を飲んでから帰っていった。
自分の部屋に戻ると、陽一は、事件のことを調べてみた。
少女の名前は、小林
江戸川区に住む十歳の女の子で、十月十二日の学校の帰り道で行方不明になったらしい。少女誘拐事件と関連づけて捜査はまだ続いているが、彼女はもう……
(……とはいえ、俺が目撃情報を喋るわけにはいかないよな……彼女の
少女の帰りを待っている彼女の家族を想うと、胸が痛んだ。きっと眠れない夜を過ごしているに違いない。必死に探し続けている姿を想像すると、遣る瀬無い気持ちになる。もし理沙が同じ目にあったら、陽一も正気ではいられなかった。眠れない夜を過ごして、必死に探して回ったに違いない。
少しでも協力したい一心で、適切な情報提供フォームを探してみたが、間もなく断念した。
元隣人があやしい等と訴えれば、家族に迷惑がかかるかもしれない。陽一だって晴天の
(……犯人が捕まれば、あの子のことも明らかになる……)
既にミラが具体的な情報を通報してくれた。陽一が行動を起こすより、よっぽど確実だ。あとは警察が動いてくれることを信じるしかない。
それにしても、ミラはどうやって隣人の正体を知ったのだろう?
わざわざ隣に引っ越してきたのは、単純に陽一の家の隣に住みたいからだと思っていたが、隣人が殺人犯だと知っていたから、高額で売却取引したのだろうか。
(……そういえば、目障りな男だから排除しておこう、とか転校初日にいってたような……)
つまり、殺人犯が住んでいたと承知の上で、ミラはあの家に住んでいるのだ。リビングとアドリア海の別荘を繋げているのは、そういう事情もあったりして……
一瞬、悪夢に見た八畳の洋間が脳裏をよぎり、ぞくっと背筋に悪寒が走った。
……やめよう。これ以上は考えたくない。
恐ろしい思考を振り払うように陽一は軽く頭をふり、モニターの電源を落とした。
翌日の午後。
これから帰ると妹から家族のグループLINEに連絡があった。そこまでは予定通りだったが、母が家をでるのに少し遅れるらしく、理沙から“歩いて帰る”と連絡が入った。陽一はすぐにやめろと打ったが、いつまで経っても既読にならない。
空はどんよりと重く、遠雷が聴こえている。
いてもたってもいられず、部活を休んで走って家に帰ると、不安げな表情をした母が小走りでやってきて、
「お帰り。理沙から連絡あった?」
「いや、ないよ。友達と一緒じゃないの?」
「仲のいい子のお家にはかけてみたんだけど、知らないって。学校にも連絡して、今探してもらっているのよ。私もこれから近くを探してみようと思って」
「俺も探してみる」
「お願い」
母の言葉に頷いた陽一は、制服姿のまま家をとびだし、すぐ隣の家のインターホンを鳴らした。ミラはすぐに玄関先に顕れた。
「いらっしゃい、」
「理沙が帰ってこない! 一緒に探してくれる?」
にこやかな挨拶を遮り、陽一はミラに縋りついた。
「お安い御用ですよ」
ミラは即答すると、陽一の腕を掴んで、玄関のなかにひっぱりこんだ。
「見つけましたよ」
いとも簡単にミラがいったので、えっ? と陽一は目を瞬いた。
「残念ながら、誘拐犯の家にいます」
ひゅっ、と陽一は息を飲んだ。
「監禁されていますが、無事ですよ。今のところは」
悪魔の千里眼なのか、まるで見てきたかのように答えるミラは、それにしても、と感心したように続けた。
「五億円は渡し過ぎましたかね? 狡猾な殺人者が金を手にすると、自宅を監禁施設のように作り変えてしまうのですね」
ひとりで喋っていたミラは、血の気が引いている陽一に気がつくと、肩を抱き寄せて優しく笑みかけた。
「大丈夫ですよ、迎えにいってきますから」
「俺もいく」
「いえ、ここにいてください。すぐに戻りますから」
「俺もいく! 妹なんだよ、頼む」
陽一はミラの胸に手をついて、訴えた。
真摯な眼差しが陽一を射る。ミラは少しばかり逡巡したが、陽一の目を見て頷いた。
「わかりました」