HALEGAIA
5章:
とある年の十一月一日。東京都江戸川区。晴天。
都立
彼はブグローの絵画から飛びだしてきたような絶世の美少年で、暖かな真珠を思わせる白磁の肌、天使の輪の浮かぶ艶やかな黒髪、澄み透った菫色の瞳、どんな女性でもうらやましがるほどの長く黒いまつげの持ち主だった。
ありふれた灰と紺の制服も、ミラが着ると
ありとあらゆる所作、立ち姿すら美しく、
そんな彼の正体は、宇宙
この荒唐無稽な真実を知っているのは、現在この地球上で遠藤陽一ただひとりである。
この日ミラは、都立
自由奔放な魔王が、一生徒として真面目に授業を受けられるのか
しかし、やはりというか周囲への影響は甚大だった。
ミラは悪魔の魅了を抑えるために幻惑を纏っているのだが、それでもなお此の世ならぬ美しさ、まばゆさに、生徒も教師も、男も女も一瞬で
もしミラが幻惑を解いてしまったら、
かくいう陽一も、
どうしたって人間は悪魔に抗えないのだ。それは理解しているが、休み時間のたびに教室を覗く生徒が増えていくのは勘弁してほしかった。
よそのクラスの生徒はおろか、上級生も、女子に限らず男子までもが、ミラを一目見ようとやってくるのだ。そのミラが、陽一にばかり構うものだから、陽一は堪ったものじゃない。ミラは陽一への好意を一切隠そうとせず、皆が見ている前で平気で距離を詰めてくる。陽一が止めなければ、人前でキスされているところだ。まだ半日も経っていないのに、羞恥による満身創痍である。
無論、ミラの傀儡をもってすればいかようにも人を操れるが、人心を歪めるのは忍びなくて、陽一が止めた。できれば自然な流れで、皆のミラへの関心が薄れてほしいところだ。
四限目が終わる間近、クラス担任でもある山中先生が何やら事務員に呼ばれて教室をでていった。途端に、教室は少し騒がしくなる。陽一は、隣の席のミラの方に躰を寄せて囁いた。
「もうすぐ昼休みだけど、ミラ、ちゃんと抑えろよ?」
「何をですか?」
ミラは不思議そうに訊き返した。
「ダダ漏れの悪魔パワーだよ。この調子だと昼休みになったら、雪崩みたいに人が押し寄せてくるぞ」
いまもクラスメイトたちが、ミラに話しかける機会をそわつきながら窺っている。なのにミラは周囲をちらっとも見ない。普通はまず確かめるところだろう。
「僕は何もしていませんよ。人間が勝手に寄ってくるのです」
顔を寄せて、ミラも小声で返してきた。
陽一はイラっとしたが、否定はできなかった。なにせミラが言葉を発するたびに、彼の躰の
「ハァ……明日にはミラのファンクラブとかできてそう」
「人間が悪魔に惹かれてしまうのは、仕方がありません。目障りなら少し減らしましょうか?」
開いた
「やめろッ!」
クラス中の視線が集中した。
「どしたー、遠藤?」
教室に戻ってきた山中先生の言葉に、陽一は紅くなる。ミラを見れば、もう焔は消していた。クラスメイトたちの忍び笑いを聞きながら、陽一はすごすごと着席した。