FAの世界
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或る年の十月。
三十ニ歳の
実家は群馬県前橋市のはずれにあり、
久しぶりに実家に帰ると、
猫二匹を構いながら上げ膳据え膳で、夜は秋虫の鳴き声に耳を傾けながら
実家を拠点にして、二日目は両親と一緒に
両親には悪いと思うが、この先も恋人はできそうにない。
中肉中背で顔立ちは至って普通、不快な容姿ではないと思うが、百万回は見過ごされそうだし、実際にその通りだった。
性格は真面目で温厚なものの、明るい
今回も
仕事は都内勤務のバックエンドエンジニアで、今の職場に勤めて八年目。稼ぎはごく平均的で、そろそろ不動産を持とうか迷いつつ、気楽な賃貸アパート暮らしを続けている。
それに、虹は同性愛者だ。
十代の頃に一度だけ彼女はいたが、長続きしなかった。
両親も、虹が結婚に消極的なことは判っているのだろう。兄夫婦の間に子供がふたりいることもあり、虹に対する圧力は殆どない。たまに、恋人の有無を訊かれるくらいだ。
確かにパートナーがいたら楽しいのだろう。でもまぁ、独身生活もそう悪くない。自由気儘で、自分の時間をもてるのはありがたいと思う。こんな風にひとり旅もできるし……と満足している。
四日目の朝に実家をでて、最終目的地である草津温泉に向かった。
二泊三日の贅沢な温泉旅行である。
足を運んだのは七十年続く老舗旅館で、
露天風呂で汗を流し、個室で創作料理を振舞われる。紅葉に色づく中庭を拝めながらの
二日目の晩は、中居に教えてもらった山裏の露店風呂にいってみた。
地元民しか知らないとっておきの場所らしい。
入り口は
価格札に書かれてある通り、四百円を投じて脱衣所に入ると、虹以外に人はいなかった。建物は古いが手入れはされているようで、なかは掃き清められていた。
硝子戸をあけて外にでると、素晴らしい景観に胸を打たれた。
月が驚くほど明るく、紅葉を優しく照らしている。
たちのぼる湯気は月明りに照らされて、仄青く、幽明の境に脚を踏み入れた心地がした。
貸切とはなんとも贅沢。熱い湯に浸かりながら、汗ばんだ額を心地よい涼風が撫でるのに任せる。
(はぁ~……極楽、極楽……)
遠くから聴こえるせせらぎ、梢の葉擦れの音に耳を傾けながら星空を眺めていると、彗星が視界を横切った。
「あ! 流れ星……」
思わず呟きながら、遠い記憶、子供時代が懐かしく思いだされた。
実家の二階に広々としたベランダがあり、夏の夜は兄と布団を並べて眠ったものだ。
“ホラ! また流れ星!”
はしゃいだ声をあげて、空を指さす。右から左へ、左から右へ、驚くほどたくさんの流れ星を見ることができた。朝になると、布団が露ですっかり濡れて
上京してから日々は
愛おしくて
“ファルル・アルカーン……”
虹はおののき目を開けた。
月に似ていて異なる
躰と魂が離れていく、奇妙な
夜の森の
原始の森に、心を昂らせる太鼓の音が鳴り始め、漆黒の夜空に
彼らを――福楽たる水晶の照らす国を治めるは、金髪
豪奢にして蒼古な国は、広漠たる円周と巨大な深さをもった水晶の連環に守られている。大水晶
怖ろしきかな、夜嵐の咆哮!
朱金に燃えあがる飛天大焔軍を引き連れて、
悠久のときは
彼の心臓――水晶核は、
遺されし者たちの、長い夜夜の
さまざまな景が
やがて大勢の裸身が見えた。祭壇前に集まり、互いに触れあい、くちびるからあえかな吐息をもらしている。
何かの儀式だろうか?
淫靡な宗教画を見ているようだが、彼らの容姿があまりに麗しいせいか、嫌悪感はない。その異様な快楽の場の中央にいる若き王が顔をあげた。
きらめく翡翠の眼差しに捕らえられて、心臓がどきりと撥ねる。形のよいくちびるが開いて、
「次は君の番だ」
その声は、耳元で聞こえた。
意味を考えるよりも先に、
心は
背中の感触が違う。あたたかな岩肌から、もっと弾力のある何か……疑問を覚えたとき、二本の腕が胴のまわりに忍び寄ってくるのを感じた。
虹は、驚愕のあまり言葉を失った。吐息がこめかみに触れたと思ったら、柔らかな感触が続いた。
(何!? 誰?)
息がはずみ、心臓がどきどきし、喉が詰まった。
硬直している間にも、耳殻をくちびるが撫で、濡れた首筋に、小さなキスが繰り返される。これまでに経験のない優しい愛撫を受けて、虹はそのたびにはっと目を見開き、本能的に頭を反対側に傾けて逃げようとした。
「んっ……」
柔らかい抱擁なのに逃げられない。濡れた肌が触れあい、魅惑的な香りがただよう。恐る恐る振り向いたとき、碧い瞳と遭った。
鮮烈な碧。
宇宙の神秘を燃料としているみたいに、烈しい
不思議なほど陶酔をもたらし、痛みを覚えそうなほど心を打った。
まるで遠い昔から知っているような、ふたりの魂が溶けあうことを信じている目で、貪るように虹を見つめている。
どうしたことか、一糸まとわぬ白