DAWN FANTASY
3章:囁きと庇護者 - 8 -
「あ、あのっ?」
ランティスの二の腕を掴んで、じっと見つめる。彼は動きを止めて無言で見つめ返してきたが、優しく、だが有無をうわせぬ動作で七海の前をはだけさせた。肌が空気に触れて、七海は知らず息を呑んだ。
青い視線が、肌に注がれている――何か理由があるのかもしれないが、脂肪質な躰を見られたくなかった。背を丸めて両手で胸を隠そうとすると、容赦なく腕を開かされた。
「見ないでっ!」
頬を優しく撫でられて、七海は恐る恐る目をあわせた。彼の目に、欠片でも失望や嘲笑が浮かんでいたらと耐えられないと思ったが、彼は鋭い刃のような、真剣な眼差しをしていた。
「******……」
ランティスは上着を脱ぐと複雑な装飾類もはずし、上は光沢のあるシャツ一枚になった。さらに釦をはずしていく指を見つめてしまい、七海は紅くなると同時に、胸にかつて味わったことのない危惧が湧き起こるのを感じた。
「待って、どうして脱ぐの? 私ならもう大丈夫ですから、こんなことしなくても……っ」
七海は彼のしたから這いでようとした。羞恥が恐怖を凌駕したのか、今はもう、身の裡 に暴れる死霊の存在も感じられなかった。
「あっ」
だが、ランティスに肩を抑えられて、寝台の中央に引き戻された。強い眼差しに射抜かれて、瞬きすらできない。
色欲とは無縁な清廉 な男 だと思っていたが、今は滴 るような色香を纏って、美しくも危険な魔性を思わせる。
己の魅力を知り尽くしているのだろう。視線一つで七海の身動きを封じて、一糸まとわぬ姿になり、七海の胴をまたぐように膝立ちになる。
「ランティスさん……?」
七海は怯えたように囁いた。躰の両端に膝をつかれているから、逃げようにも逃げられない。眼前に迫る肉体に圧倒されてしまう。
彫刻のように均整がとれており、無毛の肌は雪花石膏 のように白く、なめらかで、瑕瑾 一つない。長い腕、がっしりした肩、割れた腹筋、細く引き締まった腰……萌 している股間は長くて、太い。性器の長大さと無毛のアンバランスが、かえって淫靡に見える。
「七海……エイヒ ラナ テミア****……」
局部を凝視していた七海は、弾かれたように視線をあげた。熱のこもった眼差しに射抜かれて、喉の奥がからからに乾いていく気がした。
「どうして……?」
十代の生娘みたいに躰が震えてしまう。
彼は何を考えているのだろう? これも儀式の一環なのだろうか? これから何をされるのだろう? ……まさか、いや、そんなまさか――導きだされる答えは一つしかないように思うが、現実味がまるで感じられない。
この先の展開を、どこか他人事のように感じていたある種の余裕は、彼が覆いかぶさってきたことで砕け散った。
「ぁ……」
七海はびくりと頸をすくめた。艷やかな銀糸の長い髪が顔の周囲に揺れて、視界を遮られる。
世界は、七海とランティスのふたりきり。碧氷の瞳は影になって昏く、青のなかの青を思わせる瑠璃のよう。
深く息を吸いこむと、彼の肌から漂う魅惑的な香りが鼻孔に流れてきて、脳がくらくらした。
「ココ セラーナ」
耳慣れぬ響きは、低く柔らかく蜜を含んで甘い。痛みにも似た熱が躰を駆け巡った。
「ぁ……」
この期に及んでまだ、七海は両腕で躰を隠そうとした。ランティスはその腕を掴んでシーツに縫いとめた。乱れた胸元からのぞく乳房に、熱い視線が這わされる。剥きだしの肌が敏感になって、全身を焔に炙られるていく錯覚がした。
(見られている――厭、恥ずかしい……っ)
頬が真っ赤に染まっていくのが判る。羞恥の極みに耐えながら、彼の表情を喜んでいる自分もいた。こんな躰でも愛でられている喜びを、無視することができなかった。
大きな掌が顎の線をたどり、首筋をおりていく。七海は思わず目を閉じて、彼のもたらすえもいわれぬ感覚に浸った。
「あぁ……」
唇からこぼれたため息は、驚くほど官能的に聞こえた。
自分よりずっと大きな手が、鎖骨を撫でて、胸へおりてきた。乳房が大きく喘いで、乳首はつんと尖っていく。触れてほしい、愛撫してほしい。
ランティスは七海の顎を手で包み、顔を上に向けた。黙ったままじっと七海の目を見つめる。七海も視線に力をこめて、その顔を見つめ返した。
「***、ナナミ」
形の良い唇が首筋に押しつけられた時、七海は声を抑えきれなかった。困惑と衝動がこみあげて、手で彼の胸を押しやろうとしたが、全く力は入らなかった。硬い筋肉と肌の熱さに圧倒されて、指先が震える。
彼の唇が首筋をたどり、ついばむようなキスをするたびに、七海はあえいで、頸をのけぞらせた。押しつけられた唇から漏れる吐息が、火のように熱い。
「ん、ふぅっ……ぁっ」
唇からこぼれる甘い嬌声が、自分のものだなんて信じられない。幽 かに乱れた息遣いに煽られて、七海の呼吸もどんどん荒くなっていく。
骨ばった指に下着をずらされ、まろやかな乳房を柔らかく揉みしだかれて――躰の芯が濡れていく。
「んぅっ!」
荒々しく唇を重ねられた瞬間、七海の理性は砕け散った。心の望むままに、深くしっとりと唇を重ねあわせて、異国の甘美な果物を味わうように舌を搦めた。
どんな映像も流れてこなかった。
ただ、七海を大切にし、敬い、愛撫する熱情と、深い思い遣りを惜しみなく与えられた。崇拝されているとすら思えて、なぜだか目の端に涙が滲んだ。
(この人になら、何をされても私……)
心と躰が開いていき、甘い熱を帯びていく。心臓を戒める茨が、ほころんでいくように感じられた。
ランティスの二の腕を掴んで、じっと見つめる。彼は動きを止めて無言で見つめ返してきたが、優しく、だが有無をうわせぬ動作で七海の前をはだけさせた。肌が空気に触れて、七海は知らず息を呑んだ。
青い視線が、肌に注がれている――何か理由があるのかもしれないが、脂肪質な躰を見られたくなかった。背を丸めて両手で胸を隠そうとすると、容赦なく腕を開かされた。
「見ないでっ!」
頬を優しく撫でられて、七海は恐る恐る目をあわせた。彼の目に、欠片でも失望や嘲笑が浮かんでいたらと耐えられないと思ったが、彼は鋭い刃のような、真剣な眼差しをしていた。
「******……」
ランティスは上着を脱ぐと複雑な装飾類もはずし、上は光沢のあるシャツ一枚になった。さらに釦をはずしていく指を見つめてしまい、七海は紅くなると同時に、胸にかつて味わったことのない危惧が湧き起こるのを感じた。
「待って、どうして脱ぐの? 私ならもう大丈夫ですから、こんなことしなくても……っ」
七海は彼のしたから這いでようとした。羞恥が恐怖を凌駕したのか、今はもう、身の
「あっ」
だが、ランティスに肩を抑えられて、寝台の中央に引き戻された。強い眼差しに射抜かれて、瞬きすらできない。
色欲とは無縁な
己の魅力を知り尽くしているのだろう。視線一つで七海の身動きを封じて、一糸まとわぬ姿になり、七海の胴をまたぐように膝立ちになる。
「ランティスさん……?」
七海は怯えたように囁いた。躰の両端に膝をつかれているから、逃げようにも逃げられない。眼前に迫る肉体に圧倒されてしまう。
彫刻のように均整がとれており、無毛の肌は
「七海……エイヒ ラナ テミア****……」
局部を凝視していた七海は、弾かれたように視線をあげた。熱のこもった眼差しに射抜かれて、喉の奥がからからに乾いていく気がした。
「どうして……?」
十代の生娘みたいに躰が震えてしまう。
彼は何を考えているのだろう? これも儀式の一環なのだろうか? これから何をされるのだろう? ……まさか、いや、そんなまさか――導きだされる答えは一つしかないように思うが、現実味がまるで感じられない。
この先の展開を、どこか他人事のように感じていたある種の余裕は、彼が覆いかぶさってきたことで砕け散った。
「ぁ……」
七海はびくりと頸をすくめた。艷やかな銀糸の長い髪が顔の周囲に揺れて、視界を遮られる。
世界は、七海とランティスのふたりきり。碧氷の瞳は影になって昏く、青のなかの青を思わせる瑠璃のよう。
深く息を吸いこむと、彼の肌から漂う魅惑的な香りが鼻孔に流れてきて、脳がくらくらした。
「ココ セラーナ」
耳慣れぬ響きは、低く柔らかく蜜を含んで甘い。痛みにも似た熱が躰を駆け巡った。
「ぁ……」
この期に及んでまだ、七海は両腕で躰を隠そうとした。ランティスはその腕を掴んでシーツに縫いとめた。乱れた胸元からのぞく乳房に、熱い視線が這わされる。剥きだしの肌が敏感になって、全身を焔に炙られるていく錯覚がした。
(見られている――厭、恥ずかしい……っ)
頬が真っ赤に染まっていくのが判る。羞恥の極みに耐えながら、彼の表情を喜んでいる自分もいた。こんな躰でも愛でられている喜びを、無視することができなかった。
大きな掌が顎の線をたどり、首筋をおりていく。七海は思わず目を閉じて、彼のもたらすえもいわれぬ感覚に浸った。
「あぁ……」
唇からこぼれたため息は、驚くほど官能的に聞こえた。
自分よりずっと大きな手が、鎖骨を撫でて、胸へおりてきた。乳房が大きく喘いで、乳首はつんと尖っていく。触れてほしい、愛撫してほしい。
ランティスは七海の顎を手で包み、顔を上に向けた。黙ったままじっと七海の目を見つめる。七海も視線に力をこめて、その顔を見つめ返した。
「***、ナナミ」
形の良い唇が首筋に押しつけられた時、七海は声を抑えきれなかった。困惑と衝動がこみあげて、手で彼の胸を押しやろうとしたが、全く力は入らなかった。硬い筋肉と肌の熱さに圧倒されて、指先が震える。
彼の唇が首筋をたどり、ついばむようなキスをするたびに、七海はあえいで、頸をのけぞらせた。押しつけられた唇から漏れる吐息が、火のように熱い。
「ん、ふぅっ……ぁっ」
唇からこぼれる甘い嬌声が、自分のものだなんて信じられない。
骨ばった指に下着をずらされ、まろやかな乳房を柔らかく揉みしだかれて――躰の芯が濡れていく。
「んぅっ!」
荒々しく唇を重ねられた瞬間、七海の理性は砕け散った。心の望むままに、深くしっとりと唇を重ねあわせて、異国の甘美な果物を味わうように舌を搦めた。
どんな映像も流れてこなかった。
ただ、七海を大切にし、敬い、愛撫する熱情と、深い思い遣りを惜しみなく与えられた。崇拝されているとすら思えて、なぜだか目の端に涙が滲んだ。
(この人になら、何をされても私……)
心と躰が開いていき、甘い熱を帯びていく。心臓を戒める茨が、ほころんでいくように感じられた。