DAWN FANTASY

1章:心臓に茨、手に角燈 - 0 -






















 とある星の旧歴史。
 地下世界に疫癘えきれいの妖魔は、境界の門を開き、現世うつしよを支配しようと目論んだ。
 しかし、妖精王ユトが命を懸けて封じこめた。
 最悪のわざわいが噴きあがらぬよう、その土地に遙かなる塔を築き、魔をはらう黄金、宇宙樹ユグドラシル、原始の妖精王の聖遺物により、厳重に結界を敷いた。

 時は流れ――
 いつしか塔は、黄金塔ジルガヴェと呼ばれるようになった。
 そこには、目も眩むような旧世界の金銀財宝が眠っているという噂が、波濤万里はとうばんりを越えて、広く人口に膾炙かいしゃしたのである。
 塔には、世にも高価な黄金、極めて貴重な動植物、妖精王の聖遺物、智者の石アルタ、秘密の呪文を記した魔法書キラ・ルカン、世界の■■といった、数々の伝説の秘宝が眠っているのだと……
 噂を耳にした、大勢の冒険者、聖物泥棒、魔術師、啓明・秘密結社が黄金塔ジルガヴェに挑んだ。
 だが、生還した者は一人もいない。
 侵入は誰でも可能だが、入ったが最期、二度とでられない。
 無数の罠、暗黒怪異、魑魅魍魎ちみもうりょうが彼等の行く手を阻むのだ。
 そして、時間・・
 黄金塔ジルガヴェで正気を保つことは難しい。彷徨うほどに精神を蝕まれ、やがて永劫に囚われてしまう。
 闖入者たちの欲望、恐怖、絶望、魂の喘鳴ぜんめいかてに、黄金塔ジルガヴェは妖気を孕み続けた。
 悪しき力は日増しに強まり、既に黄金塔ジルガヴェの周囲に影響を及ぼし始めている。
 青とした樹々は枯れ、生き物は死に絶え、腐敗し、川は淀んでいく……
 憂慮した妖精の長たちは、黄金塔ジルガヴェの外から結界を敷いて、これ以上の侵入と侵食を拒んだが、もはや手遅れだった。
 このままでは、黄金塔ジルガヴェの封印は破られてしまう。そうなれば、最悪のわざわい現世うつしよに噴きだすだろう。
 誰かが、黄金塔ジルガヴェに入り、囚われた魂を解放しない限り――