COCA・GANG・STAR

3章:C9H - 8 -


 布越しに、遊貴の昂りを押しつけられて、優輝は目を瞠った。

「え……」

「逃げないで」

「遊貴っ」

 手際よくファスナーを下ろされ、下着に手が滑り込んだ。遠慮容赦ない腕を、必死に掴んで止めようとするが敵わない。

「よせッ……んぅ」

 煽るように中心を扱かれ、冷や汗が吹き出した。自分で触るのとはまるで違う――強烈過ぎる。

「あ……っ、く」

 思考が焼き切れそうだ。急速に腰に熱が溜まる。堪えようとしても、意志とは関係なく中心が頭をもたげていく。

「気持ちいい?」

「あぅ」

 耳朶を甘噛みされた瞬間、こらえきれずに吐精した。
 えもいわれぬ快感――無心でいられたのは一瞬で、すぐに気持ちは沈んだ。
 肩で息を整えながら、視界が涙で滲んでいく。あっという間に、遊貴の手で達かされてしまったことが、ショックだった。

「優輝ちゃんのイき顔、エロくてかわいかった」

「……」

 口も利けない優輝の顔を覗き込み、遊貴は愛でるようにほほえんだ。ちゅっと頬にかわいらしいキスを贈る。

「恥ずかしがらなくていいんだよ。気持ちよくなってくれて、嬉しいよ」

「……」

「日本人ってセックスに消極的だよね。少子化なんだし、性衝動リビドーを抑えるなんて、不毛だと思うんだけど」

「う……っ」

 ついに泣き出した優輝を抱きしめて、遊貴は慰めるうように頭を撫でた。

「ほらほら、綺麗にしよう」

 されるがまま浴室に運ばれた優輝だが、服に手をかけられると、さすがに抵抗した。

「一緒に入ろう」

「え、なん……」

 最後までいい終えぬうちに、唇を奪われた。
 抵抗を許さない、奪い尽くすようなキス。角度を変えて、何度も唇を合わせて……口腔を舌でまさぐられて、唾液を啜られる。

(頭が、おかしくなりそう……)

 抵抗しないといけないのに、遊貴のことしか考えられない。
 ちゅうと上唇をまれて、ようやく顔が離れた。つぅと垂れる銀糸を赤い舌でからめとり、遊貴は嫣然えんぜんと笑んだ。

「脱がしてほしい?」

 紫の瞳に甘くほほえまれて、頭がぼうっとなった。催眠にかけられたように、首を縦に振ると、大人しく服を脱ぐ。
 遊貴も服を脱ぐと、優輝の手を引いて浴室へ入った。広い浴室は、二人で入っても全く問題ない。
 服を着ていると細身に見えがちな遊貴だが、決してひ弱ではない。贅肉は一切無く、しなやかな筋肉のついた理想的な身体だ。
 同性でも綺麗だと思う。
 見惚れていると、ふと腰に眼が留まった。思わず眼を瞠った。腰骨の少し上にある黒い“C”の刺青――

「優輝ちゃん」

 頬を挟まれて、強制的に視線を合わせられた。そのまま、タイルの壁に追い詰められて、情熱的なキスを仕掛けられる。
 熱いシャワーが降りしきる中、遊貴の手は悪戯に優輝の身体を滑り落ちた。
 親指の腹で乳首を捏ねられると、堪らずに腰が揺らめいた。くぐもった声を漏らす度に、遊貴は楽しそうに喉を鳴らす。
 痺れるほど吸われた唇が解放されたと思ったら、遊貴は顔をゆっくり下げた。

「んぁッ」

 湯が滑り落ちる胸に、遊貴は何度も口づける。やがて小さな乳首に辿り着くと、焦らすように舌で突いた。

「んんッ!」

 繰り返されるうちに、そこは色づいて勃ち上がっていく。生まれて初めての刺激に、優輝は我を忘れるほど翻弄された。
 腕の中で震える優輝に満足しながら、遊貴も行為に夢中になっていく。甘いとすら感じる乳首を、小刻みに吸い上げ、甘噛みを与えた。

「あ……ッ、ン」

 感じ入った嬌声を耳にした途端、触れてもいない身体の中心がどくりと疼いた。純情なくせに、劣情を刺激してくれる。

「身体がピンク色……」

 感動したように遊貴は呟いた。何のことかと、優輝が己を見下ろすと、首のあたりから胸まで、ピンク色に染まっていた。

「うわ、キモッ」

「感じてる証拠だよ。もっと良くしてあげる……」

 蕩けるようなほほえみを浮かべると、遊貴はその場で膝をついた。上目遣いに優輝を仰ぐ。

「何……?」

 何をされるのか、恐い。綺麗な顔のすぐ傍に、誤魔化しようのないほど角度を持った、優輝の中心がある。
 急所を手で隠そうとすると、案の定、遊貴は手を伸ばしてきた。むき出しの性器に、息を吹きかけられる。たったそれだけの刺激で、性器が膨らんでしまう。

「だめ――あぁッ」

 中心を熱く潤んだ咥内に、含まれた。
 眼の奥で火花が散る。
 靄がかる浴室に、自分とは思えぬ喘ぎ声が反響する。熱が急加速してゆく。
 心臓が煩いくらいに鳴っている。走ったわけでもないのに、全力疾走した直後のように、息苦しくて堪らない。

「やだッ」

 このままでは――焦る優輝を上目遣いに仰ぐと、遊貴は見せつけるように屹立に舌を這わせた。

「うそ、出ちゃ……ッ」

 頬を窄めて吸引された途端に、堪え切れずに吐き出した。
 吐精を促すように、鈴口を吸い上げられる。精管を伝う残滓までも、丁寧に舐めとっていく。
 あまりの淫猥さに、優輝の心は引き攣ったような痛みを覚えた。

「ごめ……」

 涙でぐちゃぐちゃになった顔を見て、遊貴は身体を起こすと、愛おしそうに頬を撫でた。

「謝らないで。俺がしたかったんだから……」

 優しくあやしながら、遊貴は加速する欲を抑えつけた。
 本当は、後ろも舌で解したいところが、いたいけな愛らしさを見て思い止まったのだ。初めてのセックスで後ろを舐めるのは、優輝の限界容量を越えてしまいそうだ。
 代わりに右脚の膝裏に腕を入れると、大きく開脚させた。
 慄く優輝の頬に、瞼に、唇に口づけながら、ソープで濡らした指で、後孔を撫でる。

「遊貴……待って」

「大丈夫だから」

 必死にしがみついてくる優輝の背中を撫でながら、慎重に後孔に潜らせた。

「き、汚いから」

「綺麗にしてあげる」

 不安そうな顔をしているが、腸はすっきりしているようだし……排泄の準備はいらなそうだ。中を洗い流せば、挿入できるだろう。

「恐いことなんて、全部忘れさせてあげる」

「んん……ッ」

 反応している屹立を撫でられ、茂みまで泡立てられる。堪らずに優輝は喘いだ。
 蕾の縁を解すようにマッサージした指は、ぬめりを帯びたまま、本格的に潜り込んできた。

「大丈夫だから。力を抜いて」

 このまま受け入れてしまっていいのか。冷静な判断ができないまま、遊貴の肩にしがみついた。
 一瞬だけ、下肢に触れている猛った屹立に視線を落とし、優輝は身体を震わせた。
 恐い――腹につくほど、反りかえっていた。形も色も、自分のよりずっと凶悪だ。

「……恐い」

 消え入りそうな声で優輝が呟くと、遊貴は動きを止めて、腕の中の優輝を包み込むように抱きしめた。
 恐い思いをさせたいわけではない。初めてのセックスで、それも受け入れる立場に、優輝が緊張する気持ちはよく判る。
 自分勝手に抱いて、セックスに嫌悪を持ってほしくない。優輝は、これまでに抱いてきた一夜限りの相手とは違うのだ。
 これで終わりにしたくない。
 大切に抱きたい――
 乱暴な欲望を抑え込み、遊貴はできるだけ優しく微笑んだ。緊張を解すように、頬や肩、背中、あらゆるところに唇を落とす。
 思い遣りに満ちた愛撫は、優輝の緊張を溶かしていった。
 後ろを入念に洗いながら、同時に解していく。
 固い蕾は、指で解されるうちに綻んできた。三本の指がバラバラと中で動き回り、肉襞を柔らかく刺激すると、優輝も甘い声を漏らした。

「挿れるよ」

「……ッ!」

 ガチガチに緊張する優輝の頬に、遊貴は後ろから口づけた。尻のあわいに剛直を滑らせる度に、支えている腰がビクビクと撥ねる。
 壁に手をつく優輝の手に、上から遊貴は手を重ねた。そのまま、動きを止める。
 束の間、シャワーの流れ落ちる音だけが、濃密な空間を満たした。

「ふ……」

 切っ先が後孔に宛がわれた。いくらか心の準備を整えた優輝は、眼を瞑って、ゆっくり息を吐いた。

「う、あ、あ」

 圧倒的な質量が、押し入ってくる。視界が弾けた。たっぷり指で解された後でも、挿入は痛みを伴った。
 苦痛を堪える優輝の肌のあちこちに、遊貴はキスを落とす。身体は痛みから逃げたいと叫んでも、心は彼の傍に留まりたいと叫ぶ。
 心と体がバラバラに動くようだ。
 後ろで、遊貴の荒い息遣いが聞こえる。彼も相当キツイのだろう。焦らずに、じっくり挿入する。

「全部入ったよ」

「嘘……」

 呆然とする優輝の手を掴んで、遊貴は結合部に触れさせた。優輝は壁を見つめたまま、目を見開いた。
 剛直をまされ、そこは限界まで開いていた。あんなに大きなものが、本当に優輝の中に入ってしまった。

「あっ」

 緩く腰を揺すられて、優輝は慌てて壁に手をついた。優しく突き上げられる度に、喉の奥から、聞いたこともない己の甘い声が迸った。
 煙る浴室に、嬌声が響き渡る。
 シャワーの音に混じって、淫靡な水音、腰のぶつかり合う音が響いた。喘がされて、涙を零す優輝の頬を、遊貴が舐め上げる。獲物をいたぶるように、愛するように。
 動きを止めた遊貴を不思議に思い、そっと振り向くと、欲情しきった紫の瞳に射抜かれた。

「もう、離せないよ。優輝ちゃんは、俺のものだね」

 心臓が壊れてしまいそう――甘い呪縛の言葉を耳朶に吹き込むと、遊貴は強く突き上げた。

「うあ!」

 痛みは既に、快楽に変化している。僅かな時間で、身体をつくり変えられてしまったみたいだ。

「だめぇ、も……ッ、離して!!」

 爪先が浮くほど激しく貪られ、優輝は泣きながら喘いだ。
 瞳の奥がスパークする。快楽を昇り詰めていく。放出の瞬間、乳首を後ろから弄られた。
 身体に電流が走ったように、大きく跳ねた。後ろに突き刺さる屹立を締め上げ、遊貴も熱っぽく呻いた。

「は、すっごくいい」

 頭がおかしくなるほど、壮絶なエクスタシーに襲われた。った後も、身体の痙攣が止まらない。
 強烈な酩酊感に倒れこみそうになる優輝を、後ろから遊貴は優しく支えた。

「はぁ……癖になりそう。優輝ちゃん、大好き」

 この上なく甘く囁かれて、優輝は真っ赤になって俯いた。胸の内に、ごまかしようのない喜びが芽生える。

(俺も、遊貴が好きだよ……)

 口の中だけで、ひっそりと呟いた。
 後ろから伸ばされた手に、顔をあげさせられる。素直に横を向くと、甘く濡れたキスに溺れていった。