COCA・GANG・STAR
1章:優輝と遊貴 - 10 -
「遊貴は、なんでうちの高校に通ってるの?」
優輝はしみじみと訊ねた。
BLISは高度な戦略ゲームだ。彼の実力を目の当たりにした今、彼がいかに頭が良いか判る。
あの試合、遊貴は完全に敵の心理を読みきっていた。敵だけではない。味方陣営の指揮、的確なサポート、モチベーション・コントロールに至るまで完璧だった。ラストは五人殲滅、PENTA KILLがアナウンスされた上での、文句なしのVICTORYだ!
冴えた頭脳に加えて、流暢な英会話能力もある。それだけの才能があれば、アオコーよりレベルの高い高校を幾らでも狙えただろう。
「家から歩いていける所が良かったんだ。日本の電車って嫌い」
あまりにも軽い理由に、優輝は唖然とした。
「そんな理由で、アオコーに決めたの!?」
「そうだよ。校風も緩いし、楽でいいよ。高校なんて遊ぶ所でしょ?」
「勉強する所だろ」
「勉強なら、一人でやった方が効率いいよ。平和な時間を楽しんで、女の子と遊ぶ所だよ」
「……遊貴さ、小宮先輩と付き合ってるの?」
「いいや? どうして?」
「キスしてたじゃん」
緊張気味に優輝が指摘すると、遊貴は軽く肩をすくめた。
「彼女の他にも、キスもセックスもする友達はいるけど、恋人は一人もいないよ」
「引くわ――……」
たった今、神と崇めたばかりだがドン引きした。遊貴との間には、やはりマリアナ海溝より深い溝がある。
冷めた眼差しを向ける優輝を見て、意外にも遊貴は少々慌てた。ご機嫌をうかがうように、優輝の顔を覗き込んでくる。
「あっちいけよ、イケメン。あーあ、彼女欲しいなぁ」
思いきり顔を背けて、優輝は悪態をついた。
「優輝ちゃんなら、すぐにできるよ」
「慰めはいらん」
「本当だよ。明るいし、一緒にいて楽しいし、モテるでしょう?」
自尊心をくすぐられて、優輝は照れ臭げに口を開いた。
「現実はうまくいかないよ。仲良くなって、アドレスを交換しても、友達以上になれねぇの」
「皆、判ってないねぇ。俺なら即OKするけどな」
照れ隠しに優輝は笑い飛ばしたが、冗談だとしても嬉しかった。
会話の合間に、遊貴は慣れた仕草で煙草に火をつけた。思わず凝視していると、視線に気付いたように、遊貴は咥え煙草のまま顔を上げた。
「? 普通の煙草だよ」
「見れば判るよ」
「マリファナ煙草じゃないから」
「何いってんの?」
不思議そうに訊ねる優輝を見て、遊貴は肩をすくめた。マルボロの一二ミリを旨そうに吸っている。喫煙者の一人暮らしの割に、室内はニコチンの香りが微塵もしない。どんな空調設備なのだろう?
煙草を吸う遊貴の仕草は色っぽくて、優輝は悔しげに眉をひそめた。
「俺も、あと少しでいいから、イケメンに生まれたかった」
「優輝ちゃんは、十分かわいいよ」
「かわいくねーよ。つか、フォローになってねぇよ」
ふて腐れる優輝を見て、遊貴は優しげに眼を細めている。神秘的な菫色の瞳を見つめたまま、優輝は口を開いた。
「その瞳、本物?」
「本物だよ」
「へぇ、カラコンじゃないんだ……綺麗だね」
アメシストのようだと出会った時から思っていた。賞賛の眼差しで見つめていると、遊貴は蠱惑的な微笑を浮かべた。
「もしかして、誘ってる?」
「は?」
きょとんとする優輝の隣に、遊貴は腰を下ろした。距離を詰めて、綺麗な顔を近付けてくる。
「おい……」
無言で迫られて、背中は限界までソファーに沈み込んだ。顔の左右に手をつかれると、意味不明な緊張感に襲われた。至近距離で、紫の瞳に見下ろされている。
「え、え?」
二人の距離はゆっくりと縮まっていく。吐息が、頬を撫でた。