BLIS - Battle Line In Stars -

episode.4:BLIS JL - 1 -


 五月二十九日。
 BLIS JL――Battle Line In Stars Japan League開幕日。
 目黒の会場前には、オープン前から早くも長蛇の列が伸びていた。下は小学生から上は五十、六十代まで、幅広い年齢層のファンが集まっている。
 各メディア関係者も大勢きており、彼等は長蛇の列をカメラに収めていたり、ディオスに扮しているコスプレイヤーにインタビューをしていたりする。
 BLISファンにとって、開幕初日はお祭りだ。
 今日は朝から晩までプロの試合を楽しめる。第一部から第三部に分けて、朝の十一時から夜の二十二時まで、トーナメントに参加する全チームが試合をするのだ。
 尚、シーズン中は毎週、水、金、土曜日の三回、オンラインにて試合を行うのだが、開幕初日と決勝戦だけは、オフラインにて試合を行う。
 マッチングは総辺り戦で、九週間に渡って各チームが全部で十試合闘う。成績上位四チームが準決勝で闘い、勝ち残った二チームがオフラインで勝敗を決することになる。

 午前十時。
 受付が開始されると、待機列三千名に膨れ上がった観客が、一斉に会場へ流れ込んだ。
 世界的に有名なプレイヤーが、解説実況のゲストに呼ばれて、早くも会場のボルテージは最高潮に達している。
 Hell Firerは第二部、十五時から。大戦相手はStylish Logic Style。
 昴は、少し強張った表情で、関係者区域のゲストルームから会場を見下ろしていた。
 この日の為に練習を重ねてきた。今日はやってきたことを、全部出し切るだけだ――覚悟を決めたつもりでも、会場に集まった数千人の観客を前にすると圧倒される。これだけの視線に晒されながら、ステージに立つということの凄まじさを改めて実感していた。

「そろそろいくよ」

 連の声に振り向くと、チームメンバーが全員揃っていた。

「緊張してるの?」

 ルカに訊かれて、めちゃめちゃしてる、と昴は心臓を押さえてみせた。さっきから、おかしいほど心臓が鳴っている。

「オープニング・セレモニーはすぐに終わるよ。俺達の試合は二部だし、リラックスしていこう」

 和也の言葉に、昴はぎこちなくほほえんだ。落ち着け、と自分にいいきかせていても、いよいよスタンバイかと思うと、口から心臓が飛び出そうになる。
 入場口前の廊下に降りると、既に他のチームの選手が並んでいた。テレビや配信動画で見たことのある有名選手ばかりだ。
 キン、とマイクの接続音が鳴り、昴は姿勢を正した。

『さぁ、いよいよ……20XX年、BLIS JL――Battle Line In Stars Japan League――Summer Season。プライドを懸けた熱い闘いが、火蓋を切って落とされようとしています』

 日本リーグで活躍する有名実況者が、よく通る声で開幕の口上を述べ始めた。

『群雄割拠のリーグを制するのは、王者Team Deadly Shotか、或いはInner Infinity Impactか……追従するチームも力を蓄えてきた。Lucky Fiveと合併したStylish Logic Style、栄光の奪還を目指す新生Hell Fire、名門GIGA Force、そしてChallenger Seriesを圧勝してきたGalaxy Boys――』

 音が途絶え、会場は一瞬静まり返った。もう間もなく開かれる扉の内側で、昴は深呼吸をした。

『選手の入場です! 盛大な拍手でお迎えください!』

 扉が左右に開かれ、照明の落とされた会場の中、花道にスポットライトが当てられた。

 ――ワァッ!!

 割れんばかりの拍手喝采、応援用のカンフーバットが雷鳴のような爆音を会場に響かせた。
 唖然とする昴の肩を、連は軽く叩いた。凄まじい歓声で互いの声が通らない。唇の動きで、昴、と名前を呼ばれたことは判った。大丈夫、と頷くと、連はほほえんだ。
 先頭列が動き、昴達も扉をくぐり抜けた。興奮と熱気に包まれて、頭がクラクラする。
 ステージに着くまでの間、真っ直ぐ歩いているのか自信を持てなかったが、気がついたらステージの上で、左右にはチームメンバーがいた。

「平気?」

 連が視線で訊ねてくる。昴は一つ頷いて、前を向いた。まだ試合が始まったわけでもないのに、気が焦って、心臓が痛いほどドキドキしている。
 爆発的な盛り上がりを見せるセレモニーに、昴は試合が始まる前から圧倒されていた。

『さぁ、リーグに立つに相応しいチームが勢ぞろいしました……この日の為に練習を重ねてきた。研究をしてきた。ここに立つ彼等なら、きっと、きっと、熱い戦いを見せてくれるでしょう!』

 実況者の言葉に、観客は再び沸いた。カンフーバットをバチバチと鳴らす。
 会場に大歓声が反響して、マイクであっても声が通らない状況に陥ったが、すぐに観客達は実況者の言葉に耳を傾けた。

『えー、盛り上がっていますね。当然でしょう!』

 と、実況者が笑いながらいうと、相方の解説者が、開幕戦はお祭りですからね! と相槌を打つ。

『この後ですが、三部に分けて試合を行います。第一部、GIGA Force VS Galaxy Boys。第二部、Stylish Logic Style VS Hell Fire。第三部、Team Deadly Shot VS Inner Infinity Impact。長い試合になりますので、皆さま、水分補給を忘れずに観戦の方をお願いいたします』

 開幕の挨拶が終わると、最後にもう一度、観客席から割れんばかりの拍手喝采が選手に送られた。
 いわゆるお披露目を終えて、ステージから降りていく時、昴は手にびっしょりと汗を掻いていることに気がついた。

 ――リーグの幕が開ける。