BLIS - Battle Line In Stars -
episode.2:TRYOUT - 2 -
練習内容はより濃く、ハードになっていったが、リーグ未経験のド新人であるにも関わらず、昴は司令塔である連の指示に即時に反応することができた。
コスモ・ランクに登りつめるまで、二人でさんざんRanked DuoQueue(二人でランク戦に臨むこと)してきた経験が、確実に活かされていた。
チーム戦略の全貌が見えなくても、連の指示を通すことで、今この試合において何が可能で、何が不可能なのかを理解することができた。
これは、Hell Fireにとって嬉しい誤算で、昴をトライアウト候補生として見なしていたチーム全員が、即戦力として期待を懸けるようになった。
その分、求めるレベルも上がり、ルカの昴へのあたりは更にキツくなった。プレイ中はそれこそ秒刻みで鋭い指摘が飛来する。
「昴、前に出すぎ!」
チーム戦、試合開始五分。
自陣に向かって敗走する敵ACEの背を、昴は追い駆けていた。もっと削れると踏んだのだ。
だが敵サポートの射程範囲に入った瞬間に、躱せると思ったCC(状態異常)が決まり、結果的にHPを五割もっていかれたのは昴の方だった。
「今のは敵ACEがスキル外したから、五割で済んだんだ。全弾決まってたら八割もっていかれた!」
My badと認めざるをえない昴は、ルカの叱責に表情を引き締めた。
「悪い」
「初心者じゃないんだから、基本は忠実に押えて。意味なく敵ディオスの射程に入るな!」
ルカの鋭い指摘が続く。
外見を裏切る攻撃的な口調だが、これがデフォルトである。彼はBLISになると人格が変わるのだ。
基本的に罵倒の嵐だが、褒められることもある。
ゲーム後半、BOTゾーンで敵の奇襲を受けて、人数差で不利になった。
受け身のプレイで凌いでいると、敵ディオス三人のうち二人が主要スキルを外した。気をつけるべきスキルは残り一つで、昴の操るディオスは、それを防ぐスキルを持っている。
「Goッ!」
ルカの指示より〇.コンマ早く、昴は敵ACEをKILLした。
更に、攻撃が決まった後に生じるバフを活かして、敵サポートとアサシンにもダメージを入れる。
人数差で不利な状況から、防衛とダメージ交換に成功。なかなかのファイン・プレーだ。
「GoodJob! 今の敵ACEのスキルCool Downは五秒。すぐに仕掛けたのはいい判断だね。とてもいいよ。敵がミスったらガンガン攻めて」
弾んだ声を上げるルカに、昴も思わず笑顔になる。彼は褒める時も叱る時も言葉を惜しまない。
だが、総じてルカは気性が荒すぎる。
休憩がてら、お遊び用のサブアカウントでTeam Ranked戦を終えたのだが、圧勝にも関わらず、後味の悪さを残した。
試合開始十五分で、戦局はこちらに大きく傾き、一気に敵陣地を攻めた。
「なんでPENTA KILLを狙わないの?」
どうやら、敵を全滅しなかったことがご不満らしい。昴は肩をすくめた。
「意味ないじゃん。
「甘いよ。ACEなんだから、最後まできっちり殺しなよ」
小馬鹿にした口調が勘に触り、昴は不機嫌にルカを睨みつけた。
「扉を破壊するチャンスなのに、最奥まで下がったディオスを殺すことに、どんな意味があるわけ? 俺はそういう舐めプが嫌いなんだよ」
「あの局面でPENTAを狙わないなんて、ACE失格だよ。それでも男なの?」
股間を蹴られそうになり、昴はカッとなった。だが、怒鳴ろうとするより早く、連が割って入る。
「油断は禁物だけど、相手は一般ユーザで、こっちはボロ勝ちしたんだから、眼くじら立てるほどのことじゃないだろ」
「連は昴に甘すぎる!」
くわっとルカは連に噛みついた。盛大に顔をしかめる昴を見て、ルカは更に続ける。
「昴の為にならないよ。リーグを甘く見るな。ACEが敵に遠慮してどうする! あっという間に殺されるよ!?」
「悪かったよ」
やりとりが面倒になった昴は、腹立たしさを抑え込み、話を終わらせようとした。だが、ルカの追撃は止まらない。
「戦況有利でも、土壇場で転覆するなんてザラだよ。本番は何が起こるか判らない。昴がとった行為こそ舐めプだよ。余裕こいてるSoloQueの奢りと同じだね」
叩きつけるような説諭に昴は爆発寸前になった。ルカは人を苛立たせる天才だと思う。
「だから、謝っただろ」
投げやりに応じると、ルカは射殺しそうな瞳で昴を睨んだ。
「口ではね。本心ではどうかな? いっておくけど、僕はチキンと組むのはお断わりだよ。今度舐めプをしたら、トライアウトを受ける前に、僕が追い出すからね!」
「……」
「****. Seize the chance!」
「あ~……まぁ、そうカリカリするなよ。舐めプいくない。ゲームは全力投球ってことで、今日はもうやめようぜ」
アレックスは気の抜けた生欠伸を拵えると、ヘッドセットをテーブルに置いた。席を立ちあがり、伸びをする。
「だな。休憩にしよう」
和也も便乗すると、ルカも連もヘッドセットを置いた。昴は頭をがしがし掻くと、盛大なため息をついて部屋を出た。
胸中はルカへの怒りでいっぱいだ。
彼のテクニックは認めるが、性格に問題がありすぎる。サポート職とACEは二人三脚でやっていかなければならないのに、この先、協力してやっていける自信がない。
仮にトライアウトに受かったとしても、ルカのことを考えると
憧れしかなかったリーグ戦に、こんな風に不安を覚えるとは思っていなかった。