BLIS - Battle Line In Stars -
episode.1:BEGNING - 9 -
本格的に練習を始めるにあたり、桐生は昴にゲーミングハウスへの引っ越しを勧めた。昴としても、ぜひそうさせて欲しかったのだが、連の猛烈な反対に阻まれた。チームメンバーが見ている前で、
正式なHell Fireのメンバーなったわけでもないのに、シェア・ハウスで暮らすのは順番が違う。
そういわれてしまうと、昴は頷かざるをえなかった。急に冷たい態度を取られて、帰り道も落ち込んだ気分でいると、ふいに肩を抱き寄せられた。
「ごめん、さっきはいい方がきつかった。落ち込まないで」
さっき見せた冷たい眼差しは錯覚かと思うほど、優しい瞳をして連はいった。
「連は、俺がHell Fireに入るの、反対なの?」
「そんなことないよ」
「じゃあ、どうして……」
「ゲーミングハウスについては、俺の家に帰ってから話そう」
不満の燻っていた昴は、その提案に無言で頷いた。
家に帰った後、連の部屋でBLISの動画をBGMにしながら、昴は連に切り出した。
「……せっかく誘ってもらえたし、俺はやっぱりゲーミングハウスで暮してみたいよ」
「駄目」
「なんで?」
「心配だから」
「何が?」
連は考え込むような仕草で
「アレックスはバイで、付き合っている男も女も多い。昴はかわいいから、眼をつけられるかもしれない」
「は?」
呆気にとられる昴を、連は真剣な瞳で見つめた。
「前にいた女性マネージャは、アレックスに迫って解雇されたらしい。彼は社交的で優しいから」
「俺は男だぞ」
「関係ない。アレックスはバイだ。交遊関係が派手で、恋愛対象に男女を区別しない」
「だからって、俺に惚れるわけないだろ」
「俺という実例があるのに?」
うっ、と昴は言葉に詰まった。
「連は例外だよ。第一、ルカも和さんも、ゲーミングハウスで共同生活してるじゃん」
「そうだけど、昴は駄目」
「どうして」
横暴な奴め、そんな風に見上げると、連も強い眼差しを返してきた。
「判らない? 粉かけてきそうな男のいる家に、昴がいるのは嫌なんだよ」
嫉妬を孕んだ眼差しに、心臓がドッと音を立てた。腹立たしは吹き飛んだが、頭が冷えた分、現実的な事情に考えが及んだ。
「……でも、練習に集中したいし、バイトする暇なんてないし、一人暮らし続けてく金がないよ」
「俺の家に住めばいい」
「ここに?」
「もっと快適で広い家に引っ越すよ」
「わざわざ?」
「うん。どうかな?」
「ん、んー……?」
「昴の嫌がることはしないよ」
渋る昴の態度を勘違いしたのか、連はそうつけ加えた。
「や、別にそういう心配はしてないけど」
「……してないの?」
眼を細めると、連は昴の方に顔を近付けた。
「お、お前な、どう応えれば満足なんだよ?」
「さぁ」
連は大人しく身体を引いたので、昴も仰け反っていた姿勢を直した。
「まぁ、家賃は浮くし、俺は助かるけど……連はいいの? この部屋だって、十分快適なのに」
「いいよ。昴と一緒に暮らせるなら、俺はどんな環境でも構わない」
昴が赤面すると、連は腕を伸ばした。頬を手の甲で優しく撫でる。動けずにいると、端正な顔がゆっくり降りてきた。慌てて瞳を閉じると、顔のすぐ傍で密やかな微笑が聴こえた。
「んっ」
唇をしっとり塞がれて、啄まれる。震える昴の頬を手に挟み、触れるだけのキスを繰り返す。
身体を硬くしながらも逃げ出さずにると、離れていくとき、上唇をそっと食まれた。
戸惑いながら、昴も背に腕を回すと、よくできました、というように、優しく抱きしめられた。
「嬉しいよ。一緒に暮らせるなんて、夢みたいだな……」
髪を撫でられながら、囁かれて昴は赤面した。優しく抱きしめられて、大切にされているのだと実感する。
(連って、本当に俺のこと好きなんだな)
自分の考えに照れていると、沈黙を勘違いしたのか、連は少し顔を離して、昴の顔を覗き込んだ。
「俺と一緒に暮らすの、嫌?」
「そんなことない。俺も楽しみだよ」
昴が笑うと、連も安堵したようにほほえんだ。
BLISをする最適な環境に、それも連と一緒に暮らしていけるのだと思うと、不思議なほど気分が高揚した。