BLIS - Battle Line In Stars -

episode.1:BEGNING - 6 -


 e-Sports GGGで連と再会してから、一週間。
 殆ど毎日のように連絡を取り合っている。まるで付き合いたての恋人のようだが、実際、連とは友達以上、恋人未満の関係に昇格した。といっても、外で過ごしている限りは、昔と変わらない。基本的にBLISの話ばかりだ。
 だが、二人きりになると空気が変わる。
 特に連の部屋で二人でいると、彼は昴に触れてくるようになった。
 手を重ねたり、抱きしめたり……頬に軽くキスをしたり。その程度の触れ合いだが、昴はいちいち緊張してしまう。決して嫌ではないのだが、胸を引き絞られるような、喚きながらその辺を転げ回りたくなるような、自分でもよく判らない混乱に毎度陥っている。
 向こうも、察してくれているのだろう。
 昴がいっぱいいっぱいになると、スッと身を引いてくれる。想いに応えられるよう努力するつもりだが、急かさず、ゆっくり進めてくれるのはありがたい。
 連とBLISで遊ぶようになり、自然とHell Fireのチームメンバーとも、遊ぶようになった。
 最近は毎日のように、彼等とBLISで遊んでいる。
 特に、天使のようにかわいらしいルカ、サポート担当のAshは、昴がコスモ・ランク、それもACE専門だと知って眼の色を変えた。最初は馬鹿みたいなミスをしても笑い飛ばしていたが、最近では些細なミスでも、細やかな指摘を飛ばしてくるようになった。
 アマチュアとはいえ、昴はトップランカーだ。それなりにハイレベルなゲームメイクをしている自負はあったが、ルカの指摘の雨あられに見舞われると、自分がBLISを始めたばかりのド素人のように思えてくる。
 凹みはするが、感謝もしている。現役のプロに直接アドバイスをもらえる機会なんて、そうそうあることではない。
 彼等とBLISで遊ぶようになって、一週間が経った頃。連の家で寛いでいる時、ルカからLINEで昴と連に話しかけられられた。

『明日ヒマ? ゲーミングハウスに遊びにこない?』

 寝転がって漫画を読んでいた昴は、慌てて飛び起きた。
 ゲーミングハウスとは、プロ選手達がスポンサーから支援を受けて共同生活を送る、ゲーム環境に特化したシェア・ハウスのことだ。

「マジか!」

 昴は興奮気味に叫んだが、スマホから視線を上げた連は、複雑そうな顔をした。

「俺、いってもいい?」

「昴は、Hell Fireに勧誘されたら、入る気はあるの?」

「あるよ! もちろん」

 即答すると、連は顎に指を添え、そのままの姿勢で沈黙した。考え込む時によくする彼の仕草だ。

「連は反対なの?」

「ルカは昴を気に入っている。ゲーミングハウスに招待して、コーチに紹介するつもりなんだよ」

「おぉ! コーチって桐生さん!? だとしたら、すげぇ嬉しい」

 桐生英樹きりゅうひでき――超頭脳派のインテリで、一線で活躍するBLISのアナリストだ。今年からHell Fireのコーチに就任し、注目を集めている。
 もしかしたら、チームに勧誘されたりして……夢を膨らませる昴を見て、連は困ったようにほほえんだ。

「昴は上手いよ。採用試験トライアウトにも受かると思う」

「連は、あんまり乗り気じゃないの?」

「少し心配なんだ。プロになったら、BLISを嫌いになってしまわないかなって」

「ふんっ」

 昴は鼻で笑い飛ばした。

「SoloQueueだって、負ければべこべこに凹む時はあるよ。でもBLISが好きなんだ。チャンスがあれば、プロになりたいよ」

 真っ直ぐに端正な顔を見つめると、連はふと眼を和ませた。

「判ったよ。明日、一緒にいこう」

「おう!」

 溌剌はつらつと応える昴を見て、今度は連も素直に笑った。相棒の了承を得られて満足していると、手が伸びてきて頬を撫でられた。

「何?」

 平静を装って訊くと、連は曖昧にほほえんだ。表情からは、何を考えているのか読み取れない。ただ、頬を優しく撫でる指先に、もっと触れていたい、というかすかな意志を感じた。

「……ルカにいくって、返事するよ?」

 誤魔化すように携帯に視線を落とすと、どうぞ、と答えながら連は手を引いた。

『お誘いありがとう! ぜひいきたい』

『うん、おいで。アレックスと和也もいるよ』

 ルカの言葉に、昴は眼を輝かせた。毎晩のように遊んでいる彼等と、いよいよオフで会えるのだ。

『楽しみにしています』

『僕も。昴をコーチに紹介したいんだ。いいかな?』

 心臓がドクンと音を立てた。Hell Fireのコーチに紹介する理由は、一つしか思い浮かばない。

『よろしくお願いします』

 返事を打つ指が、震えそうだ。夢にまで見た展開が、現実になろうとしている予感がした。