言葉に詰まる光希を見て、ジュリアスの双眸に鋭い光が灯った。獰猛な気配――青い燐光が身体から放たれる。
「ジュリ？」
「嫌だ……醒めるな、まだ」
　寝台に押し倒されて、光希が慌てて起きあがろうとすると、強い力で組み敷かれた。
「ジュリ！」
　子供とは思えぬ力だ。信じられないが、二十歳を越える光希の力で抗えない。
「コーキ……」
　襟のなかに手が潜りこみ、光希はぎょっとした。振り払おうとしたら、逆に腕を寝台に押しつけられてしまった。
「えっ！？」
　戸惑う光希を見おろして、ジュリアスは唇を戦慄（わなな）かせた。
「夢なのだから……私の好きにしたって」
「夢？」
「……そうでしょう？　こんなことが、実際に起こるはずがない」
　思いつめたようにいうと、端正な顔をゆっくりと光希の首元に沈めた。
　自分を組み敷いている少年の肩が、細かく震えていることに気がついて、光希は抵抗するのをやめた。
「そう、だよね……夢に決まってる」
　幼少時のジュリアスを見てみたいと以前から思っていたから、熱に苦しむ光希を憐み、シャイターンが情けをかけてくれたのかもしれない。
　そう思うと、感情を堰（せ）きとめていた理性は解けた。四肢から力を抜いて、衣装の内で蠢く指先に身を委ねる。
「ん……っ」
　ぎこちない触れ方に、背徳感を刺激されながら、光希は自ら上着を脱いだ。一枚、一枚と脱いでいく姿を、ジュリアスは食い入るように見つめている。
「将来、君は僕と結婚をする。大人になったジュリに、僕は何度も抱かれてきたから……」
　言い訳のように告げると、
「……私が？　貴方を？」
　信じられないといった様子でジュリアスは訊（たず）ねた。
　沈黙は肯定だ。
　見つめあったまま、どちらからともなく顔を寄せた。
　唇が溶け重なる――金髪に指を挿しいれながら、光希が滑らかな唇を愛撫すると、かき抱くように躰を抱き寄せられた。
「ん、んぅっ！」
　今さっきのぎこちなさが嘘のように、躊躇いもなく、貪るように口内を荒される。唇を食まれ、艶かしく舌を搦（から）め捕られて、呼吸もままならない。
　深く長い口づけがほどけた時、銀糸が二人の唇に垂れて燦めいた。
「……貴方が欲しい」
　青い瞳には、まぎれもない情欲が灯っていた。
「それはちょっと、早いんじゃないかなぁ……」
　肩を掴む手を外し、光希は逆にジュリアスを寝台に押し倒した。
　潤んだ双眸が、戸惑ったように見あげてくる。何をされるのか判らない……無垢な表情を見て、光希の背筋はぞくりと震えた。
　下肢に触れると、そこはしっかり萌（きざ）していた。布の上から屹立を撫でると、ジュリアスは小さく息を呑んで、腰を引き気味にした。
「今夜は、僕がしてあげる……いいかな？」
「え……」
　下履きに手をかけると、ジュリアスは慌てたように光希の腕を掴んだ。
「……夜の習いは、まだ？」
「は、い」
　俯く顔を見て、光希は少し頭が冷えた。
「……やめておく？」
　勢いよく顔をあげたジュリアスは、首を左右に振った。
「離れては嫌です。もっと、触れて欲しい。私も貴方に触れたい……こんなに、綺麗な肌に……」
　恐る恐る伸ばされる手に、光希は身を任せた。光希と殆ど変らない大きさの手が、遠慮がちに首や肩、腕に触れてくる。
　好きに触れさせながら、光希もジュリアスに手を伸ばした。服に手をかけても、素直に腰を浮かせて下履きを脱ぐ。ふるりと屹立が零れると、恥ずかしそうに視線を揺らしたものの、光希の手を拒もうとはしない。
　嫌がる素振りはないことを確かめながら、光希はゆっくり顔を沈めた。
　普段は殆どさせてくれないが、夢のなかのジュリアスは素直だ。まだ幼い性器に息を吹きかけると、頭上から艶めいた吐息が聴こえた。
「なんだか、すごくいけないことをしている気分……」
「こ、コーキ？」
「舐めてもいい？」
　上目遣いに訊ねると、ジュリアスの眼元にぱぁっと朱が散った。かわいい反応だ。期待の籠った眼差しを見返して、光希はほほえんだ。
　丸い亀頭に口づけただけで、ジュリアスの腰は撥ねた。指で優しく擦りあげると、甘い声を漏らして快感を堪えようとする。
「ん……ッ」
　そろりと舌を這わせると、落ち着かない、といった様子でジュリアスは光希の髪に指を潜らせた。
「ひもちいい？」
　口内に含みながら上目遣いに訊くと、ジュリアスは上気した顔で首を縦に振った。初めての口淫は刺激的すぎたのか、口に含んだだけで、吐精寸前まで追いこまれているようだ。
「ん、ん……」
　鈴口から滲んだ雫を舐めとり、さらに狭い蛇口を舌で突いてやる。味わうような代物ではないはずなのに、夢でも現（うつつ）でも変わらずに、不思議と仄かな甘みを感じる。
「コーキ！　いけません」
　輪っかにした指で竿を扱くと、ジュリアスは勢いよく腰を引かせた。逃がすものかと光希も追いかける。
「いいよ、だして」
「で、ですが」
　口から離れた屹立を、光希が指でつと撫でると、ジュリアスは腰を震わせて吐精した。熱い飛沫が、光希の手を濡らす。
「すみませんッ」
　焦ったように、脱いだ上着で光希の手を拭うジュリアスを見つめながら、光希はほほえんだ。
「気持ち良かった？」
「それは、もう……！　コーキは、このようなことを、どこで……いえ」
　嫉妬と怒り、哀切の綯（な）い交ぜになったような、どこか悲壮な顔を見て、光希は微笑した。片手を彼に預けたまま、空いた手で金髪を優しく梳いてやる。
「口づけも躰を重ねたのも……全部ジュリが初めてだよ。いつの日か、成長した君と僕は出会って、恋をするんだ」
「私と……本当に？」
「本当に」
　光希はにっこり笑って頷いた。
「夢でなければ、どんなに……」
「また会えるよ。約束する」
　額の青い宝石に口づけると、ジュリアスは苦しげな表情を浮かべた。心配そうに見守る光希の間隙（かんげき）を突いて、再び寝台に押し倒した。
「いかせない」
「ジュリ……」
「私の作った幻であるなら、ここに留まれ！」
　幼くも男の征服欲が窺える激した命令口調に、光希は身体の芯が震えるのを感じた。