アッサラーム夜想曲
第1部:あなたは私の運命 - 22 -
朝になっても、ジュリアスは戻らなかった。
天幕の扉を開けると、目の前に兵士の背中が見えた。ジャファールかと思いきや、別人であった。
ここの人は皆そうだが、彼も長身で、端正な顔立ちをしている。年は二十代前半だろうか。冴えた蒼氷色 の瞳が冷たい印象を与える青年だ。
「お早うございます」
挨拶をして外へ出ようとしたら、いくな、というように手て制された。
「何……?」
「ロザイン***シャイターン。天幕****、********」
外へ出てはいけないらしい。そしてまた“ロザイン”といわれた。
「ロザイン、何ですか?」
「ロザイン*****? シャイターン******?」
何を訊かれたのか、全然判らない。戸惑う光希を見下ろして、彼は訝しむように眉を上げた。
「*****食事を用意***?」
光希の困り顔を空腹と勘違いしたのか、朝食について訊ねられた。確かに空腹だったので、大人しく中へ戻ることにした。
やってきた給仕の召使は、昨日とは違う年嵩 の女だった。穏やかな口調と優しい笑顔に、光希は親しみを覚えた。
「ロザイン***シャイターン。****どうぞ」
女は檸檬色の飲料や、果物、大皿を手際よく絨緞の上に並べた。
大皿には、緑の野菜と燻製肉、ナンのような生地の上に卵を乗せて、きつね色に焼き上げた香ばしい料理が乗っている。とても美味しそうだ。
昨晩は食べきれないほど量が多かったが、これなら食べられそうだ。
昨晩といい、今朝といい、光希に用意される料理は、ここでは標準なのだろうか?
恐らく、違う。
数万人の食事を日々賄うのは、きっと想像するよりも遥かに大変なことだ。
この天幕は辺りで一番大きかったし、光希はここで特別な扱いを受けているのだ。それはきっと、光希が“ロザイン”と呼ばれることに関係している。
ジュリアスは間違いなく、軍事権力者だ。
大勢の兵士がジュリアスに跪 く光景を見ているし、ここへ着いた時も、ジュリアスが歩けばモーゼのように道は開けた。
そんなジュリアスが光希に対して、懇切丁寧に接しているから、こんなにも優遇されているのだろう。
では“ロザイン”とは、どんな意味なのだろう?
前後にジュリアスの名が続くので、ジュリアスのお客様? それとも、恋人?
彼は、周囲に光希をどのように説明しているのだろう?
ふと、給仕の召使が食器を持って退室しようとしていることに気がついた。光希はさっと立ち上がると、先回りして扉を開いてやった。すると彼女は、非常に驚いた顔をした。
「ロザイン***、*******」
女は食器を床に下ろして跪くと、床に額 づいてお辞儀をした。
光希も驚いてしまい、何もいえずにいると、外にいた兵士が女に何か言葉をかけた。彼女は食器を持って立ち上がり、もう一度お辞儀をすると静かに出ていった。
どうして、あんなに驚いたのだろう?
「ロザイン***シャイターン。******……」
「僕は、桧山光希です」
「ロザイン***シャイターン。貴方の*******ません。私はアルスラン・リビヤーン、アッサ******シャイターンの******です。ジャファール・リビヤーンは私の*******です」
「貴方は、アルスラン?」
ゆっくり発音してくれたので、どうにか名前だけは音を拾えたが、後は殆ど判らなかった。ジャファールの名前が出てきたのはなぜだろう。
「はい、ロザイン****」
「ロザイン? 僕は、桧山光希です」
「貴方の*******ません。*******。ロザイン***シャイターン」
「桧山、光希です。桧山、光希」
「*******……すみません」
どうやら、光希の名を呼んではくれないらしい。ジュリアスは普通に呼んでくれたのに、どうしてだろう。
「僕は、ロザイン?」
「はい」
目を見て、はっきりと肯定された。判らない……“ロザイン”とは、何だ?
天幕の扉を開けると、目の前に兵士の背中が見えた。ジャファールかと思いきや、別人であった。
ここの人は皆そうだが、彼も長身で、端正な顔立ちをしている。年は二十代前半だろうか。冴えた
「お早うございます」
挨拶をして外へ出ようとしたら、いくな、というように手て制された。
「何……?」
「ロザイン***シャイターン。天幕****、********」
外へ出てはいけないらしい。そしてまた“ロザイン”といわれた。
「ロザイン、何ですか?」
「ロザイン*****? シャイターン******?」
何を訊かれたのか、全然判らない。戸惑う光希を見下ろして、彼は訝しむように眉を上げた。
「*****食事を用意***?」
光希の困り顔を空腹と勘違いしたのか、朝食について訊ねられた。確かに空腹だったので、大人しく中へ戻ることにした。
やってきた給仕の召使は、昨日とは違う
「ロザイン***シャイターン。****どうぞ」
女は檸檬色の飲料や、果物、大皿を手際よく絨緞の上に並べた。
大皿には、緑の野菜と燻製肉、ナンのような生地の上に卵を乗せて、きつね色に焼き上げた香ばしい料理が乗っている。とても美味しそうだ。
昨晩は食べきれないほど量が多かったが、これなら食べられそうだ。
昨晩といい、今朝といい、光希に用意される料理は、ここでは標準なのだろうか?
恐らく、違う。
数万人の食事を日々賄うのは、きっと想像するよりも遥かに大変なことだ。
この天幕は辺りで一番大きかったし、光希はここで特別な扱いを受けているのだ。それはきっと、光希が“ロザイン”と呼ばれることに関係している。
ジュリアスは間違いなく、軍事権力者だ。
大勢の兵士がジュリアスに
そんなジュリアスが光希に対して、懇切丁寧に接しているから、こんなにも優遇されているのだろう。
では“ロザイン”とは、どんな意味なのだろう?
前後にジュリアスの名が続くので、ジュリアスのお客様? それとも、恋人?
彼は、周囲に光希をどのように説明しているのだろう?
ふと、給仕の召使が食器を持って退室しようとしていることに気がついた。光希はさっと立ち上がると、先回りして扉を開いてやった。すると彼女は、非常に驚いた顔をした。
「ロザイン***、*******」
女は食器を床に下ろして跪くと、床に
光希も驚いてしまい、何もいえずにいると、外にいた兵士が女に何か言葉をかけた。彼女は食器を持って立ち上がり、もう一度お辞儀をすると静かに出ていった。
どうして、あんなに驚いたのだろう?
「ロザイン***シャイターン。******……」
「僕は、桧山光希です」
「ロザイン***シャイターン。貴方の*******ません。私はアルスラン・リビヤーン、アッサ******シャイターンの******です。ジャファール・リビヤーンは私の*******です」
「貴方は、アルスラン?」
ゆっくり発音してくれたので、どうにか名前だけは音を拾えたが、後は殆ど判らなかった。ジャファールの名前が出てきたのはなぜだろう。
「はい、ロザイン****」
「ロザイン? 僕は、桧山光希です」
「貴方の*******ません。*******。ロザイン***シャイターン」
「桧山、光希です。桧山、光希」
「*******……すみません」
どうやら、光希の名を呼んではくれないらしい。ジュリアスは普通に呼んでくれたのに、どうしてだろう。
「僕は、ロザイン?」
「はい」
目を見て、はっきりと肯定された。判らない……“ロザイン”とは、何だ?