月狼聖杯記

8章:夜明けの鬨 - 7 -


「ラギス」
 しんと静まり返った店内に、冷ややかな声が響いた。渋々視線を向けるラギスに、
「なぜこない?」
 怜悧な眼差しで問う。ラギスはなんともいい難い困惑の表情を浮かべた。
「……放っておいてくれ」
「引きずられていきたいか?」
 怒りを孕んだ口調にラギスは思わず反論しかけ、自分は今、薄氷を踏んでいるようなものだと思い留まった。
 店の雰囲気を台無しにするわけにもいかず、観念して席を立つと、店をでたところでシェスラに腕を掴まれた。そのまま人気のない路地裏まで引っぱりこまれ、乱暴に背を壁に押しつけられた。シェスラは片手をラギスの顔の横に置き、脅すように覆いかぶさってくる。
「私といるより、場末の女と絡む方がよいか」
「何もしちゃいねぇよ……ちょっと酌をしてもらっただけだ」
「ほぅ?」
 暗闇に水晶の瞳が妖しく光る。端正な顔が間近に迫り、身体がぴたりと重なった。手の置き場に迷っているラギスの尻を、シェスラは遠慮構わず揉みしだいた。
「ッ」
 尾で不埒な手を叩くと、シェスラは小さく笑った。
「逃げるだけ無駄だ。そなたの匂いは、離れていてもすぐに判るのだからな……」
 それはこっちの台詞だ、ラギスは内心で呻いた。シェスラの肌から立ち昇る、濃厚で豊潤な柑橘の香りに腹の筋肉がひくつきそうになる。
「欲しいのは女じゃなかった。俺は……」
 途切れた言葉は夜風に乗って消えた。どこか遠くの離れた樹の上で、梟が低く啼いている。
 ラギスは躊躇いつつ、シェスラの髪に手を差し入れ、爪で軽く頭皮をかいた。シェスラはため息とも呻きともつかぬ、陶酔に満ちた声をあげた。
「ラギス……」
 シェスラは熱のこもった目でラギスを見た。次の瞬間、奪うようにして唇は重ねられた。
「ん! ふっ……は、ぁッ……」
 艶めかしく舌を搦め捕られ、膝の力が抜けそうになる。こうなると判っていたから、今夜は離れていようと思ったのに……逃げたせいで余計に窮地に立たされてしまった。
「ん……も、いいだろ」
 欲望に溺れる寸前で、ラギスはいった。身体を横にずらし、甘い毒のような誘惑から距離を置く。
「この間もそうだが、外で盛るのはやめろよ」
 口もとを手で拭うラギスを、シェスラは鋼のような眼差しで睨みつけた。
「そなたが大人しく閨で待っていないからだ」
「俺の勝手だろ。それともなんだ、俺は自由に過ごすこともできないのか?」
「いい訳はよせ。今夜、私に求められることは判っていたはずだ。そなたは私から逃げたのだ」
 ラギスは忌々しげにうなり声をあげた。図らずも、昂っていた欲望は苛立ちが鎮めてくれた。
「なんでもかんでも、てめぇの思い通りに運ぶと思うなよ」
「黙れ。私を怒らせると後悔するぞ」
 腕を引かれて、再び壁に身体を押しつけられる。足を強引に割られて、ラギスは唸った。
「おいっ、だから外で――んぅッ……!」
 文句は口の中に消えた。噛みつくように貪られながら、臀部を揉みしだかれる。
「あ、あッ……んぅ、はっ……! しぇす……んんッ」
 硬く昂ったものが布越しに大腿を突いてくる。ラギスは身をよじって抗おうとしたが、巧みな口づけに翻弄されてしまう。怒りから始まった口づけに、なすすべもなく溺れていった。
 ようやく唇を離した時、二人とも息があがっていた。
「……近くに私の邸がある。酒場の宿ではなく、落ち着けるところで抱きたい」
 シェスラはラギスの首の後ろを掴み、挑むようにいった。情欲の焔が灯った瞳を覗きこみ、ラギスは無言のまま、承知したように視線を半ば伏せた。

 シェスラの邸は、趣きのある美しい外観をしていた。
 星明りを浴びて石灰岩の壁は仄かに煌き、無花果いちじく石楠花しゃくなげ、藤や木蔦が壁に這いあがり、鮮やかな花を咲かせている。
 正面に敷設された藍色の人工池には、天空の月と邸が鏡のように映りこみ、梟や鈴虫たちの夜の音楽が辺りを満たしている。
 邸には管理を任されている老夫婦が常駐しており、部屋はすぐに使える状態になっていた。
 寝室には大きな暖炉が二つあり、シェスラは寝台とは反対に位置している暖炉前に浴槽を置き、湯を運ばせた。
 やがて部屋が充分に温まると、二人は服を脱いで、白磁の浴槽に向かいあって身体を沈めた。
 シェスラの腕に走る赤い線をラギスがじっと見つめていると、彼も同じようにラギスの肩に手を置いて、検分するように指をすべらせた。
「痛むか?」
「こんなの傷のうちに入らん」
 ラギスはかぶりを振った。湯に濡れて一切の無駄のない肉体が、暖炉の火を反射する。盛りあがった上腕、胸板を視線で愛でながら、シェスラは目を細めた。
「……よく闘ったな」
「皆の力だ。グレイヴやロキたちのことも、労ってやれよ」
「うむ……」
 シェスラは鷹揚に頷くと、目を閉じて身体から力を抜いた。
 穏やかな静寂が流れる。
 薔薇色に上気した顔に、ラギスはしばし見惚れていた。唐突に瞼がもちあがり、水晶の瞳と視線が絡んだ。白い指が伸ばされ、ラギスの顎に触れる。力など殆どこめられていないのに、強い力で惹きつけられるようにして顔を寄せた。
「ん……」
 優しく唇を吸われ、ラギスの唇は自然とほころんだ。舌が絡みだし、濡れた水音が二人の間から聞こえてくる。
「あ、ふっ……」
 敏感なうなじを指がかすめて、背筋がぞくぞくと震えた。ゆっくりと濡れた唇をほどくと、熱のこもった水晶の眼差しがラギスを見つめていた。
「……褥にいこう」
 欲を孕んだ声に、ラギスは股間が昂るのを感じた。
 裸のまま寝台の傍へ寄ると、濃密な百合の香で溢れていた。淡い月光が部屋の中ほどまでに入りこみ、暖炉には火が灯されている。マントルピースに置かれた黄金の時計が、暗闇の中で深夜を告げた。
「長い一日だったな……」
 シェスラは呟きながら巨躯を組み敷くと、うつ伏せにしたラギスの尻孔を両の親指で割り広げ、いきなり唇を押してた。
「シェスラッ」
「動くな」
 尻孔に舌を挿し入れ、だしてはまた入れて、性急で執拗な愛撫が繰り返される。
「ッ、はぁ……舌は、やめろッ」
 ラギスは喘ぎ、敷布を掴んで身悶えるが、シェスラはやめようとしない。
「嫌か? ……霊液サクリアが滲んできたぞ」
「ッ」
 羞恥に染まる身体を見下ろし、シェスラは意地の悪い笑みをうかべた。
「こんなに甘い身体で、女を抱けるとでも思ったか?」
「うるせ……」
「そなたは私の聖杯だ。他の誰にも触れさせてはならぬ」
 ぱちんと尻を叩かれ、ラギスはカッとなって吠えた。
「てめ、叩きやがったなッ」
 上半身を起こして、振り向こうとするラギスの腰を、シェスラはぐっと引き寄せた。手がくいこむほど臀部を強く掴み、猛った屹立をあわいにこすりつける。
「こ、のッ」
「そなたのここを、私のこれで……烈しく深く責めて、動けなくなるほど貪りたい」
 その生々しい描写にラギスは息を呑んだ。欲に燃える水晶の瞳が、ラギスを射すくめる。
「そなたを満たせるのは、私だけだ。だが、もし……」
 シェスラは、汗の光るラギスの背中を掌で撫でながら、言葉をきった。
「……そなた、私を抱きたいか?」
「は」
 意表を突かれて、ラギスは目を瞠った。反応をしばらく待っていたシェスラは、痺れを切らしたように続ける。
「ネロアの城で、イヴァンを抱こうとしていただろう」
「好きでそうしようとしたわけじゃない」
 むっとするラギスの頬を、シェスラは掌で撫でた。
「だが、差し迫った状況で、抱かれるよりも抱くことを選んだのだろう」
「そうだけどよ……」
 シェスラはラギスを仰向けにすると、銀糸の髪をかきあげながら、腰の上に大胆に跨った。耳環の銀鎖に連なる、紅玉髄カーネリアンが蝋燭の火を浴びて煌く。魂を抜き取られそうな艶めかしさだ。どんな美姫にも勝る色香に、ラギスは言葉もなく魅せられた。
「そなたが望むのなら……」
 じっと見つめられて、ラギスは生唾を飲みこんだ。
「……抱くなら女がいい」
 呟いた次の瞬間、空気が凍りついた。ぴしっと亀裂の走る幻聴まで聞こえた。甘やかに煌いていた水晶の瞳は、氷のように冷たくなる。
「……そなたには、情緒というものが決定的に欠けているらしいな」
「知るか。イヴァンの話を持ちだすあんたの方が無神経だろ」
 目に見えぬ氷壁に、ばりばりと亀裂が走っていく――透度の高い水晶の瞳に、怒りの焔が燃えあがった。
「……そなたは、私の番だということを、きちんと理解できているのか?」
「ふん」
 半ば怯みつつ、ラギスは顔を背けた。シェスラは怖い顔になり、ラギスの頬を掴んで強制的に視線をあわせた。
「あまり反抗的でいると、痛い目にあうぞ」
 ラギスが挑発的に睨み返すと、形の良い指が、ラギスの太い首から鎖骨までをなぞりあげた。
「……それとも、被虐の悦びを与えてほしいか?」
 耳元に唇を寄せ、吐息を吹きこむように囁くと、脈打つ首筋に顔をうずめた。
「ッ」
 甘噛みよりも強い、血が滲むか滲まないかの、絶妙な力加減で皮膚に牙をたてる。相手を征服する行為だ。ラギスがじっとしていると、シェスラは口を離し、朱くなった痕を舌で慰めた。
「……シェスラ」
 水晶の瞳を見つめながら、ラギスは薔薇色に上気した頬に手を伸ばした。銀髪を梳いて、うなじの後ろに手を添えて、顔を引き寄せる。シェスラの唇を優しく慰撫しながら、身体の位置を入れかえた。
「ラギス?」
 シェスラは珍しく驚いた顔と声でいった。ラギスが次に何をするつもりか見極めるように、しっかりと視線をあわせてくる。
「……じっとしてろよ」
 ラギスは身体を伏せると、シェスラの首筋に唇を這わせた。繻子のようになめらかな肌の感触に魅せられながら、淡い色の乳首を唇で挟むと、シェスラは鋭く息を吸いこんだ。
「……感じるか?」
 にやりとしてラギスがいうと、シェスラは紅潮した顔に艶めいた笑みを浮かべた。
「番に触れられて、感じない雄がいると思うか」
「ふぅん……」
 固く割れた腹部に唇で触れていく。臍の窪みに舌をいれると、シェスラは艶めいた吐息を零した。
「は……っ」
 大腿に手をかけると、シェスラは上体を少し起こし、クッションにもたれてラギスを見下ろした。涼しげな瞳は、興奮と期待で煌いている。
「そなたが奉仕をしてくれるのか?」
「少し黙ってろ、大王ロワ・アルファ様」
 シェスラは小さく噴きだすと、ラギスの髪を優しく撫でた。その手の動きに導かれるようにして、ラギスは顔を伏せた。
 まさか、男に奉仕をして興奮を得る日がこようとは思わなかったが……相手がシェスラであれば昂る。
 勃ちあがった陰茎を片手で掴み、先端を舌で舐って、渦を巻くように舌を動かしながら、根本までを舐める。
 シェスラは艶っぽい吐息を零しながら、ラギスの耳に触れてきた。
「ん、耳はよせ……噛んでも知らないぞ」
「それは困る」
 小刻みに口づけながら、先端に唇を落とし、すっぽり咥えこんだ。口腔で膨らむ陰茎にぴたりと舌を添わせ、手と口で上下にすりあげる。
「は、ん……」
 シェスラの感じ入った声を聞くだけで、ラギスの股間はぐんと膨らんだ。シェスラは身体を強張らせ、ラギスの動きに合わせて艶めかしく腰を動かし始めた。口で受け止めるつもりでいたが、シェスラは唐突にラギスの頬を撫でてやめさせた。
「もうよい」
 次の瞬間、シェスラはラギスを組み敷いていた。優艶な微笑を浮かべてラギスを見下ろす。
「交代だ」
 そういってラギスの首筋に顔を沈めると、肌を啄んだ。細かく吸いながら、鎖骨へと降りていく。唇はどこまでも降りていき……
「ん、あっ」
 乳首を舐めあげられ、電流を流されたかのように、びくん、と身体が跳ねた。まだ沈んでいる突起は、乳暈の中で硬くしこり始める。シェスラは絶妙な舌技で、飽くことなく先端を舐った。
「……は、ぁ……あう……ッ、んぁッ!」
 ちゅうと芯を引きだすように吸われ、ラギスの背中が浮きあがる。ぶるぶると震えるラギスを、熱のこもった目で上目遣いに見つめながら、シェスラは乳首を執拗に苛んだ。
「あ、はぁ……ッ……も、よせ……っ」
「……なぜ?」
「ふぁ、は」
「感じやすい、淫蕩な身体になったものだな……やはりそなたは、私にかわいがられている方が良い」
「ば、ばかいえ……」
 唖然とするラギスを、シェスラは蠱惑的な目で見つめた。緩急をつけて乳首を吸われ、ラギスは射精にも似た悦楽に耐えるために喉を逸らせた。
「ほら見ろ、朱く色づいている。もう反対側も、吸いだしてやろう……」
 表面に露出した突起は、つんと勃ちあがり、与えられる愛撫にひくひくと震えた。尖った突起を指先で転がされながら、もう片方も吸いだされると、ラギスは極めてしまいそうだった。
「あ、あぁッ」
 両方の乳首がひきずりだされ、敏感な突起がむきだしの状態だ。じんと疼いて、さらなる刺激に震えている。
「あ、んぅッ」
 指先で弾かれ、鋭い感覚に嬌声が迸る。摘まれて、くりくりと弄られると、勝手に腰が揺らめいてしまう。
「判るか? 霊液が滲みでてきたぞ」
「ひっ、ぁ……ぁあッ」
 感じる突起をいたぶられ、ラギスは気が狂いそうだった。
「あっ……ぅ、ううッ……! やめっ……あぁ、いい……っ」
 身体の奥から熱い。凄まじい奔流が身体を貫き、二つの突起へと迸る。
「あぁ……酔いそうな匂いだ。ほら、我慢せずにだしてしまえ」
 シェスラが誘惑するように囁く。長い指に尖りきった乳首を摘まれ、こりこりと揉みこまれると、ラギスはついに限界を迎えた。
「あ、あ、ああぁああ、で、でちまう……っ」
 乳首の先から、どぴゅっと琥珀色の蜜が噴きあがった。シェスラは右を扱きながら、左の乳首に吸いついた。
「うあぁあぁぁッ!」
 凄まじい快感に、我を忘れて叫んだ。シェスラはかわるがわる乳首に口をつけ、迸る琥珀を呑みほしたあとも、蜜をせがんだ。
「んむ……まだ足りぬ。もっとだせるであろう?」
「ひ、ぃ」
 ようやく射精が終わったというのに、両方の突起を小刻みに指で扱かれる。
「ア、んっ……やめろ、もうでねぇよ!」
 ラギスは文句をいうと、シェスラは忍び笑いを漏らしながら、顔をさげた。
「あぅッ」
 臍を舌で突かれ、身体にさざなみが走った。ひくつく腹筋をシェスラは愉しそうに舌でなぞりあげる。
「ん……気持ちいいか?」
 シェスラは頭をあげると、快楽に歪んだ顔を満足そうに眺め、それからまた乳首を口に含んで吸った。
「んぅッ……」
 どうにか嬌声を堪えんとするが、身体は快感に呑みこまれ、腰が震えた。下肢に重たい熱が溜まる。胸に奔流が走り、霊液がしみでる感じがした。
 シェスラは、硬く隆起したものを、ラギスの大腿に押しつけた。はっとなってラギスはシェスラを見た。お互いの昂りが擦れて、身体を焔に炙られているようだった。
「首に腕を回せ」
 いわれた通りにすると、シェスラはラギスの脚を大きく割り拡げ、侵略するように腰を沈めてきた。
「あ、あ、んぁ……ッ」
 ぬかるんだそこに熱塊をねじこまれ、ラギスは口を開けて喘いだ。
「はぁんッ!」
 霊液で湿った肉襞に包みこまれ、シェスラも艶めいた吐息を零した。動きをとめて、強烈な快感をやりすごす。
「は……もっていかれそうだ」
 シェスラはラギスを少しもちあげ、暖かく、濡れた花芯へと腰を進めた。ラギスは陶然となり、しばし息をするのも忘れた。
「たまらないな……」
 シェスラは、ラギスの喉もとに顔を沈めて呻いた。熱い息が素肌に触れて、ラギスの背にぞくぞくとした震えが走る。中をぎゅうっと締めつけてしまい、シェスラは艶めいた息を吐いた。
「は、熱く畝って、最高に心地いい……」
「うるせ」
「たっぷりかわいがってやる……動くぞ」
 シェスラは二度、三度、なめらかに腰を揺すったあと、獰猛な野生に身を任せ、弾みをつけて突きあげ始めた。
「あ、あ、あぅっ、んぐッ!」
 ひっきりなしに喘ぐラギスを見下ろして、シェスラは蠱惑的にほほえむ。
「なかにだすぞ」
 耳朶に囁かれて、ラギスは僅かに狼狽えた。発情期ではないが、なかに子種をかけられるのは抵抗を感じる。
「だめだ、シェスラ……ッ」
 ラギスの躊躇いをほぐすように、シェスラは耳を甘噛みした。その瞬間、ラギスは目も眩むような悦楽にのみこまれた。
「……なぜ?」
 震える耳に柔らかく歯を立てて、敏感な内側に舌をもぐらせる。ラギスは尾でラギスの腹を叩いた。シェスラはくつくつと笑い、
「発情期ではないのだから、いいだろう?」
 最奥を穿つ。
「あ、あ、んぁッ……ばっ、馬鹿野郎! 後始末する身にもなりやがれッ」
「あとで私がしてやる。意識のないそなたを清めるのは、一度や二度ではないぞ」
 耳の弱いところを甘噛みされながら、深く穿たれる。ラギスは白い身体にしがみついて震えた。
「あ、あッ! あぅッ! んぁ――ッ……!」
 重い衝撃が下腹部に拡がり、絶頂を極め、全身を痙攣させた。
 艶めいた吐息をこぼし、シェスラも達した。最奥を熱い飛沫に濡らされて、ラギスは更に肉胴を締めつけた。
「は、そんなに締めつけるな……絞りとられるようだ……ラギス」
 断続的な射精の合間にも、甘く淫らにうねる肉胴から、無限の振動が伝わってくるように感じていた。引き締まった肉体の内側は熱く、柔らかく、シェスラの核である王笏おうしゃくを握りしめ、締めつける。
「――止まらぬ」
「あッ!? ばか、抜けって……あ、あッ……んぁッ!」
 シェスラの突きにラギスはびくんびくんと身体を痙攣させたが、彼は止まらなかった。
「まだだ」
 シェスラは咆哮のような唸り声をあげて、ラギスの脚をさらに開き、深く突きあげた。
「んぁッ! あッ! あぅッ……ああぁ――ッ!」
 快感がさざなみのように子宮に拡がっていき、全身の神経から火花が散った。絢爛たる恍惚に極まったラギスの最奥に、熱い精を叩きつける。
 ラギスは弓なりになったあと、糸が切れたように褥に沈みこんだ。甘い痺れの余韻のなか、遠くからシェスラの荒い息が聞こえているようだった。彼は、汗ばんだラギスの胸にぐったりと倒れこんできた。
 二人の烈しく脈打つ鼓動が、触れ合った肌から音と振動となって聞こえてくる……
 汗で額に張りついた白銀の髪を指で梳いてやると、シェスラは目を閉じたまま、気だるく足を絡ませ、ラギスの胸に頬を押し当てた。二人は精魂尽き果て、間もなく意識を手放した。