メル・アン・エディール - 無限海の海賊 -

13章:十五歳の恋人 - 10 -

 出航祝は、夜も更けた頃に解散した。
 しかし、食堂から船長室キャプテンズデッキへ引きあげた後も、ベッドに寝そべりながら、ティカはヴィヴィアンと雑談を続けていた。

「アプリティカには、どれくらいいる予定ですか?」

「大きな競売もあるし、造船所ドックに船を預けるから、半年は航海を休むつもり」

「船を修理するんですか?」

 どうやら、今回は結構な長期休暇になるようだ。半年も陸に上がれると聞けば、兄弟達も喜ぶだろう。

「結構、長く航海を続けているし、そろそろね……その間、俺の別荘にティカを招待するよ」

 別荘と聞いて、ティカは瞳を輝かせた。一体、どんな素敵な所なのだろう。ナプトラの湾で見た、バンガローを想像していると、不意に頬を撫でられた。

「陸に上がっている間に、年を越える……十六歳になるね、ティカ」

「アイ」

 年を取るのは嬉しい。満面の笑みで応えるティカを、ヴィヴィアンは優しい眼差しで見つめた。

「かわいいティカ……もう、手加減はしてあげられないな」

 意味を計りかねて沈黙すると、手の甲で頬を撫でられた。

「アプリティカに奇港して、年を越したら……最後まで抱くよ」

 意味が判り、ティカはドキドキしながら、頬を滑る手を上から抑えた。

「……そうして欲しいと、僕はずっと思っています」

「まぁ、一線を越えていないだけで、大分手を出しちゃったから、今更な気もするけど」

 頬を撫でながら、ヴィヴィアンは微苦笑を浮かべた。

「僕が望んだんです」

 どこか自嘲気味な台詞に、ティカにしては強い口調で応えた。彼は少し目を瞠り、嬉しそうに口元を緩めた。

「我慢に苦労する時もあるけど、ティカだから待てる。傍で成長を見守るのも、喜びだと知ったんだ」

「うん……」

 美しい微笑みを直視できず、照れ臭げにティカは俯いた。その様子を愛しく思いながら、ヴィヴィアンは黒髪に手を伸ばした。

「ティカは俺に、新しい生きる喜びを教えてくれた。想い、想われる喜び。寄せてくれる信頼も、俺を強くしてくれる」

 おずおずと顔を上げると、宝石のような青い双眸が、ティカを映して煌めいていた。

「僕も……サーシャを想うようには、誰のことも想えないと思っていたけど……ヴィーは僕の特別。あの頃よりも、もっとずっと強い想いを持ってる」

「俺が一番?」

 それは、妙に子供っぽい口調で、思わずティカは笑ってしまった。

「うん。ヴィーが一番」

「よし」

「ヴィーは僕の憧れで、恋人なんだ。追いつけないことが、もどかしくて仕方ないけど」

 正直に告白すると、ヴィヴィアンは愉しげに笑った。

「そう簡単に追いつかれたら、キャプテンの沽券に関わるだろ!」

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 期号ダナ・ロカ、一五〇三年。精霊オズの祝福する一月。
 ヘルジャッジ号――別名カーヴァンクル号はナプトラ諸島を出港。ごく小さな、しかし巨利をもたらすエメラルドを積み、快速な舳先で大西洋の大波を切る。
 目指すはロアノス大国、古都アプリティカ。
 奇港の目的は二つ。
 開催される高額競売に出品する為、そして遠洋航海明けに、ヘルジャッジ号を造船所に預ける為である。
 ヴィヴィアン達が、アプリティカに到着するのは、王都を発ってから一年と二ヵ月ぶりのことだ。

 彼等の遥かなる航海に、神の恩寵があらんことを――