HALEGAIA

7章:楽園コペリオン2 - 7 -

「……陽一? あれ、寝ちゃった……?」
 精魂尽き果て弛緩した躰をミラは優しく横向けると、背中から抱きしめるようにして、ゆっくり揺らし始めた。
「……好きだよ、陽一……愛している……」
 陽一は聴こえているのかいないのか、恍惚状態でとろんとしている。
 ミラはくちびるの届くところ、耳殻、頸筋、肩についばむようなキスを落としていった。そうしながら、波間に漂う泡のように、揺らいで沈んで……交歓の余韻を楽しんだ。
 このまま目を閉じて、眠ってみるのも良いかもしれない。しかし、次第に腰に重たい熱がたまっていき、吐きだしたくて堪らなくなった。
「動くよ」
 聴こえていないだろうが、宣言する。
 次の瞬間、後ろから抱きしめたまま、力強く腰を突きあげた。パンッ、音と衝撃が伝わるが、陽一は小さく呻くだけだ。片足を持ちあげて結合を深める。蜜壺はミラの精液で白く泡立ち、突きあげるたびに淫靡な水音が響いた。律動はどんどん速くなっていく。
「陽一? だすよっ?」
 目を閉じている陽一の頸筋を甘噛みする。くちびるをぴったりつけて吸いつきながら、最奥さいおうに熱を放った。ゆっくり引き抜くと、綻んだ蕾から、どろりと白濁が溢れでる。
「っ……はぁ、陽一のなか、僕の精液でいっぱいになっちゃったね……」
 尻を左右にぐっと開いても、陽一は無抵抗だ。ひくひくしている後孔から、おびただしい精液が流れている。その無力で淫らな姿にミラは満足した。陽一は自分のものだという所有欲、征服欲、どろりとした欲望が満たされ、甘美な感覚に浸された。
「陽一もいっぱいでた?」
 返事はないが、ミラは気にせず陽一の躰を仰向けにした。くったりした陰茎は既に柔らかくなっている。濡れている蜜口にくちびるを寄せて優しく吸ってやると、ン……と陽一は甘い声で応えた。舐めて綺麗にしたあとも、名残惜しくて蜜口を舌でつついてしまう。最後に先端にキスをしてから顔を離した。
 どろどろに濡れた褥と互いの躰を、ミラは魔法で清めると、裸のまま陽一を抱きしめた。
(心地いい……)
 このまま鳥籠に閉じこめておけたら……魔が射すけれど、同じてつは踏むまい。陽一の自由な魂は閉じこめておけない。楽しそうにしている陽一を傍で見ていられれば、それでいい。魔界ヘイルガイアでも地球でも、どこにいたって構わない。隣にいられれば、それでいいのだ。
「……ん?」
 しばらくすると、陽一はミラの腕のなかで、意識をとりもどしたようだった。
「目が醒めた?」
 後ろから抱きしめたまま、頭のてっぺんにちゅっとキスをする。陽一はくぐもった声をあげ、肩越しにミラを確かめた。
「……ごめん、寝ちゃった」
「いいよ。体調はどう?」
「平気……まだ眠い」
 陽一は、ミラの腕のなかで躰の向きをかえた。おずおずと視線をあわると、
「……帰ったら、試験勉強しないと」
 平静を装っているけれど、心拍数があがっている。ひどく緊張していることが、ミラには手にとるように判った。だから少し残念に思いながらも、優しく答えてあげる。
「そうですね。もうすぐ期末試験が始まりますからね」
「うん」
「……また魔界ヘイルガイアに遊びにきてくれる?」
 今度はミラがうかがうように訊ねると、陽一はほほえんだ。
「うん、また遊びにきたい」
 ミラは嬉しくなって、続けた。
「いつ遊びにきてくれる?」
 我ながらせっかちな気もするが、忘れられないうちに約束を取りつけておきたい。陽一は毎日部活と学校に忙殺されて、なかなか遊んでくれないのだ。
「試験終わったら、今度こそラーメン食べにいかない?」
 それも楽しみだ。
「リベンジですね。食べにいきましょう。でも、魔界ヘイルガイアにも遊びにきてほしい」
「いいよ、陸上合同練習が終わったらね。日曜とか」
 了承の返事は嬉しいが、少し先の話だ。
「……地球時間にこだわらなくてもいいのに。魔界ヘイルガイアから戻る際は、希望する日時に送ってあげますよ」
 ミラはスケジュールにこだわる陽一が少し不満だった。
「気持ち的に、なるべく順行時間で過ごしたいんだ。ここから戻ると、逆行した感覚が残って、ちょっと混乱するんだよ」
 陽一は微妙な顔でいった。
「……判りました」
 ミラは渋々頷いたあと、気を取り直して続けた。
「楽しみです。ラーメンを食べにいくのも、陸上合同練習も、魔界ヘイルガイアで遊ぶのも。楽しみがいっぱいで楽しい……好き」
 手を伸ばして、陽一の短い黒髪を優しくかきあげた。額にちゅっとキスをして、目を見つめて気持ちを伝えると、
 陽一は嬉しそうにほほえんだ。手を伸ばして、ミラの黒髪に指をからめて軽くひっぱる。
「俺も楽しみ。好きだよ、ミラ」
 ミラは、暖かな炎が胸に渦巻くのを感じた。陽一にあうまで、らなかった喜びだ。こういうふとした瞬間に、彼こそが、全身全霊を懸けて探し求めている、この宇宙でたったひとりの相手なのだと思う。
「……眠っていいよ。起きたら、家に送ってあげるから」
「……うん……」
 陽一はかろうじて返事をしたが、限界だったのだろう。ミラの頬に触れていた手から、力が抜けた。
 ミラは、ぱたっと落ちた陽一の手をひろいあげ、掌にそっとくちびるを押し当てた。弛緩した躰をさらに引き寄せて、彼の胸に、頬を押しあててみた。
 トク、トク、トク……
 規則正しい鼓動の音が聴こえる。愛おしい命の音。ミラがずっと必要としていた鼓動のよう……魔界ヘイルガイアの業火のように止まらない鼓動だ。今も、これからも、ミラの心はずっと陽一に鳴り続けるだろう。