COCA・GANG・STAR

1章:優輝と遊貴 - 15 -


 翌朝。
 眼が醒めるなり、優輝は跳ね起きた。ありえないことに、端正な寝顔がすぐ傍にある。朝から微妙な気分にさせられたが、手土産を受け取るや、満面の笑みを浮かべた。
 膨らんだ手提げには、光学ドライブに電源、新品同然の高スペックなグラフィック・カード、HDDが詰まっている。遊貴は約束通り、余っているパーツを山とくれた。

「またおいで」

「うんッ!」

 現金な優希の瞳には、遊貴の後頭部に後光が射して見えていた。
 理解し難い奔放な一面もあるが、尊敬に値する凄腕のゲーマーで、気前がすこぶる良いことは確かだ。

「いろいろ、ありがとう。昨日は八つ当たりして、ごめん」

 気まずげに視線を伏せると、頭を撫でられた。俯けた視界に万札が映り、優希は弾かれたように顔を上げた。

「受け取って。ちゃんと、取り返した金だから」

「え……」

「優輝ちゃんが眠っている間に、片付けておいた。きっちり制裁もしたから、もう大丈夫だよ」

「嘘っ、いつの間に?」

「人海戦術だよ。電話一本入れれば、済む話だ」

「……遊貴って、本当に高校生?」

 呆けたように訊ねる優輝を見下ろして、遊貴は優しくほほえんだ。

「本当だよ。心配しないで。そんなに恐いことはしていないから」

 胸に沸き起こる疑問をうまく説明できず、優希は口を閉ざした。
 本当に、彼は何者なのだろう?
 大金持ちで、恰好良くて、強くて、遊び人で、凄腕のゲーマーで、ビバイルを狩っていて……本物と見紛う銃を持っている。
 知るほどに、謎が深まっていく。

 遊貴の家に泊まってから、一週間。
 不良に襲撃されることもなく、優輝は平和な日常を送っていた。あれ以来、バイト先に良からぬ輩がやってくることもない。
 遊貴とは、昼休みも一緒に過ごすようになった。彼がゲーマーだと判ったので、もっぱらゲームの話ばかりしている。

『最近、木下遊貴の話ばっかりだね』

 いつものように、スカイプで友哉と雑談していると、不意にそんなことをいわれた。

「そうかな?」

『そうだよ。いつの間に、そんなに打ち解けたの?』

「まぁ、クラスも一緒だし」

『あんまり、木下遊貴と仲良くしない方がいいんじゃない?』

「いろいろ噂はあるけど、いい奴だよ。遊び人で、ちょっとスキンシップ過多だけど……」

 ちょっと、では表現が控えめ過ぎるか。頬を掻いて誤魔化す優輝を、友哉は胡乱げに見つめた。

『優輝が駄目な方向に傾いていく……』

「人聞き悪いな。別に、何も変わっちゃいないよ」

『木下遊貴のこと、好きなの?』

「まぁ、友達だし」

『そういうことじゃない。嬉しそうに話しちゃって……惹かれてるんじゃないの?』

「変な風にいうなよ」

『どこがいいの?』

 胡乱げに訊ねられ、優輝は返事に詰まった。
 あの夜の出来事を、友哉に全ては明かしていない。実はキスされた、なんていったら、ものすごく怒られそうだ。

(俺がおかしいのかな……)

 いくら綺麗な顔をしていても、遊貴は男だ。下半身には、自分と同じものがついている。
 それなのに、抱きしめられても、キスされても、衝撃はあったが嫌悪は無かったのだ。あんなことをされたのに、毎日一緒に過ごしている。

『俺が口出しできることじゃないけど、反対だよ』

 ぐるぐる迷走し始める優輝を見て、友哉は困ったようにため息をついた。

『男だからっていうんじゃないよ。木下遊貴はヤバ過ぎる』

「俺は、別に……」

『傷つくのは優輝だよ』

 釘を刺す友哉の言葉に、優輝は肯定も否定もできなかった。