BLIS - Battle Line In Stars -

episode.4:BLIS JL - 3 -


 朝の澄んだ光線を頬に感じて眼を醒ました。
 ぼんやりした思考は一瞬で、すぐに初戦の敗北の苦さが胸に広がった。

「昴、起きてる?」

「……今起きた。お早う」

 ドアを開けると、すでに身支度を終えた連が、昴を見て、あちこち跳ねた髪を撫でた。

「これからリプレイチェックするけど、昴もいく?」

「いく」

 即答すると、すぐに身支度をして二人でゲーミングハウスに向かった。
 落ち込んでいる暇はない。
 四日後には、Galaxy Boys――椎名の在籍しているチームと試合がある。
 待ち望んだ試合で、初戦のような無様な姿は見せられない。
 それからの日々は、チーム全員で初戦の反省と対策、練習に明け暮れた。

 ROUND2。
 対戦カードはGalaxy Boys VS Hell Fire。
 敵のACEは椎名だ。
 試合を前にして、昴は落ち着いていた。ここは慣れ親しんだゲーミングハウス、自分達のホーム。
 初戦と決勝戦以外は、それぞれのゲーミングハウスからネット接続してオンライン対戦で行われるのだ。
 大勢の観客や対戦相手が視界に入らない分、集中はしやすかった。
 試合開始十分。
 敵がBOTゾーンに奇襲を仕掛けてきた。異変に気付いたアレックスと連が駆けてくるが、敵の方が寄りが早い。昴達は五対三の人数差で集団戦を強いられ、一キルをとられた。昴を逃がす為に、アレックスが犠牲になったようなものだ。ルカもローヘルスで、一度べースに戻って回復する必要がある。序盤に手痛いリードをとられてしまった。

「――くそっ、ごめん!」

 昴は毒づきながら、謝罪を叫んだ。

「いいから、Gゴールドを稼いで。敵のACEの方が十五Gもリードしてる!」

 ルカの鋭い指摘が飛ぶ。

「了解!」

 今回昴がPICKしているディオスは、育成に時間がかかる。序盤はGを取り辛く、敵ACEである椎名と差をつけられていた。
 BLISは一秒差、一G差が勝敗を分ける。
 いかに敵よりも早く装備を整え、視界をとり、少数戦・集団戦を仕掛けるかが、勝利への重要な鍵となるのだ。
 試合開始十八分。
 連がマップ上の砲台にpingを鳴らした。プレッシャーをかけにいこうという合図だ。
 今度の奇襲は、Hell Firerから。試合中盤のMIDゾーンで集団戦をしかけた。
 時間も頃合い、視界は敵チームも取れている。しっかり対策を立てていたようだ。敵はフォーカスを完全に昴にあわせてきた。チームの火力を真っ先に殺すのは、BLISの鉄則である。

「昴! バック!」

 連が叫ぶ。昴は味方との距離が少し開いており、追撃を逃れるために横に逸れた。敵はチャンスとばかりに追い駆けてくるが、和也とルカが走ってくる。連とアレックスも寄りが早い!
 味方との合流を見越して、反転した。
 五対五で正面対決を仕切り直し。今度は敵の防衛職がしんがりを務め、全体的に逃げの姿勢を見せ始めた。

「GO! GO! GO!」

 アレックスが吠える。当然、昴も反転して攻撃に転じた。敵のACE、椎名に照準する。距離は開いているが――スキルショットは外さないッ!

『敵のディオスを倒しました』

 ゲームアナウンスが、昴の得点を告げる。昴は小さくガッツポーズをキメた。
 後半になるにつれて、Hell Fireが押し始めた。KILL数もオブジェクト数もGalaxy Boysを圧倒し始め、試合開始三十分で、非常に大きな影響力を持つ強バフを狩ることに成功。
 戦局は、Hel Fireの有利に大きく傾いた。
 敵は自陣の防衛に追われて、こちらのオブジェクトに手を出せない状態だ。

「BOTゾーン押そう。砲台折りにいく」

 連がマップ上の固定砲台にpingを鳴らすと、グループアップして、流れるようにオブジェクトを奪っていく。
 試合開始四十分。
 最後の防衛を懸けて、五対五の集団戦が起きた。敵は砲台の下で待ち構えている。
 この攻防で勝てば、ゲートを打ち砕くエンドヒットまで繋がるだろう。
 遠距離攻撃による嫌がらせハラスでHPを削ぎつつ、和也が攻撃開始イニシエートのタイミングを窺う。
 睨み合いは一分以上続き、焦れたように見せかけて和也が先頭に出た。タワーダメージを浴びると、敵は咄嗟に集中砲火を浴びせるが、

「Nise Bait!」

 ルカが嗤う。和也はふるぼっこにされていると見せかけ、その間に仲間が砲台のHPを八割近く削っている。
 ベイト成功だ。
 和也が死ぬと同時に、砲台が折れた。
 機を逃さす、アレックスが一気に敵に襲いかかる。昴は距離を取りながら、ダメージを出し続けた。

『IMPACT! 敵チームを殲滅しました』

 五人殲滅を告げるゲームアナウンスが流れた。リーグで初めてのIMPACTだ。興奮しすぎて、心臓がおかしいほど鳴っている。アドレナリンの放出を意識しながら、昴は冴えた思考で、砲台を続けて二本折りきった。これぞACEの火力だ。

『Unstopable!! 味方チームが敵チームの扉まで到達しました』

 連続してオブジェクトの破壊に成功し、ゲームアナウンスが流れた。
 敵は全員死んでいる。復帰にはあと五十秒かかる。

(勝った!)

 ディオスの成長と共に、死んだ後の復帰時間は延長される。ゲーム終盤での五人全滅は、チェックメイトを刺されたも同然だ。

『ブラックサイドチーム、Hell Fireが勝利しました』

 敵チームの扉を破壊し、ゲームアナウンスが流れて、ディスプレイには大きく“勝利”の2文字が現れた。

「っしゃあ!」

 音を立てて席を立つと、昴はガッツポーズをキメながら吠えた。

「よし! やったね。次もこの調子で勝つよ!」

 明るく笑うルカの姿が、冗談でなく天使に見えた。
 続く二戦目もHell Fireがとった。BO3で先制二点をきめて、Hell Fireのストレート勝ちだ。
 リーグ初勝利に、全員が席を立ち、小突き合った。桐生も笑顔で選手を労う。
 最高の気分だ。
 家に帰った後もテンションが落ち着かず、昴はリプレイを眺めてはニヤニヤしていた。
 夜更けに、LINEで椎名から連絡が入った。

『昴君、おめでとう! 悔しいけど、次に活かして俺も頑張るよ』

 健闘を讃える言葉に、浮かれていた気持ちは少し落ち着いた。当然だが、勝つチームがいる一方で、負けるチームがいる。

「……ふぅ」

 どう返信を打とうか昴は逡巡した。何度も入力しては消して、迷った末に、短い文面を送った。

『ありがとうございます。序盤の奇襲には本当に苦しめられました。G差もつけられちゃって、課題だらけ……次はACE対決でも負けません!』

 正直、ACE対決は椎名に軍配が上がっただろう。勝利はチームの力だ。だが次は、椎名との勝負にも負けない。

『ありがとう! 昴君もACEとして力を上げたね! 俺も負けません』

 応援と宣戦布告を兼ねた潔い台詞に、昴は気持ちよくほほえんだ。死ぬほど悔しいはずなのに、こうしてエールを送ることのできる椎名は、本当に素晴らしい選手だと思う。