アッサラーム夜想曲

聖域の贄 - 37 -

 重症を負った憲兵は療養所に運ばれた。動ける者で遺品を回収し、現場を片付け、撤収する頃にはすっかり夜のとばりがおりていた。
 雨はもうやんでいて、雲間からのぞく星明かりが、疲労困憊した憲兵たちを優しく照らした。
 ナディアとサンジャルは書類仕事のために本部に戻っていったが、ハイラートは治療のために療養所へ、ヤシュムは彼につき添い、サリヴァンとジュリアスは帰路についた。
 雨あがりの、露草と土の匂いがする。
 青い星が高く昇り、樹影は華麗で、星光を浴びた素馨ジャスミンは白い衣をまとった聖人のようだった。
 はやる心でジュリアスがクロッカス邸に戻ると、玄関まで光希が迎えにやってきた。
「お帰りなさい!」
「ただいま、光希」
 両腕を広げると、光希は駆け寄ってきたものの、飛びこんではこなかった。腕に控えめに触れながら、素早くジュリアスの全身に目を走らせた。
「怪我はない?」
「ありませんよ」
「本当? 血の匂いがするよ」
 深刻げに光希がいうと、ジュリアスも己の腕の匂いを嗅いで、思わず眉をひそめた。
「すみません、屑鉄場に長時間いたから、匂いが移ってしまったようです」
「怪我はしていない?」
「していません」
 誇張ではなく殆ど無傷だった。手の甲に小さな擦り傷があるくらいだ。
 光希もようやく肩から力を抜くと、安心したように笑みを浮かべた。
「そっか、良かった。ジュリが無事で……」
「今度こそ終わりました。今朝は心配させてしまい、すみませんでした」
「ううん、無事に帰ってきてくれて良かった。大変だったよね、本当にお疲れ様」
 ジュリアスは光希の髪を優しく撫でた。ありふれたねぎらいの言葉も、彼のくちびるからこぼれると、特別に胸に響く。
「……際どい瞬間もありましたが、光希に救われました。私を呼んでくれて、どうもありがとう」
 実際、危ないところだった。常人より高い克己心こっきしんを抱いていると自負していたが、邪悪な精神感応に危うく飲みこまれるところだった。光希の祈りが、躰と魂と心をひとつに繋いでくれたのだ。
「うん……助けになれたなら、良かった」
 光希がほほえむ。優しい夜のような瞳に涙がにじんで、星のように煌めいて光る。
「実は神殿前でジュリと別れたあと、クロガネ隊の皆で作った燭台を、全部祭壇前に運んでもらったんだ。それからずっと祈っていたんだ」
 ジュリアスは光希の目元を親指で優しくすり、身を屈めると額をあわせた。
「ええ……光希の声が聴こえました。どこにいようとも、貴方はいつだって私を照らしてくれる」
 光希はジュリアスの手のうえに、己の手を重ねた。
「ほらね、いったでしょ。いつも傍にいるって……っ」
 笑おうとして唇の端が歪んだ。ぽろっと涙がこぼれ落ちる。
「心配したよ、本当に……無事で良かった……っ」
 光希は額にかかった金髪をかきあげると、額の青い宝石にくちづけた。
 その瞬間、とてつもなく大きな感情が、ジュリアスの心と躰と魂をかけめぐった。
「ああ、光希……っ」
 両腕できつく抱きしめると、光希も強い力でしがみついてきた。自分よりひとまわりも小さい柔らかな存在を、途方もなく大きく感じる。彼の示してくれる愛は、無私無欲の宝物にほかならない。
「すみません、思いきり抱きしめてしまいました」
 ふと気がついて腕の力を緩めると、光希は笑った。
「平気だよ」
 涙を拭きながら笑う光希を見て、ジュリアスも微笑を浮かべた。
「匂いを落としてきます。すぐに戻るので、寝室で待っていてください」
「うん」
 果たして意味を理解しているのか、光希は穏やかで無垢な笑みを浮かべた。
 ジュリアスの方は、欲望が目に顕れている自覚があったが、余計なことは口にせず、螺旋階段をのぼっていく光希を見送った。
 それからまっすぐ浴室に向かうと、液状石鹸で髪から躰から全身を素早く洗い流した。早く光希の待つ寝室に戻りたい。しかし錆鉄の匂いはなかなかとれず、二回念入りに洗い流して、ようやくとれた。
 髪を拭きながら寝室に戻ると、寝台に腰かけていた光希が顔をあげた。真面目な顔でジュリアスの正面にやってくると、
「服を脱いで」
「喜んで」
 ジュリアスが躊躇いなく全て脱ぎさると、光希はちょっと目を見張ったが、看護者めいた慎重な手つきで、肩や腕を確かめ始めた。
「……どこも怪我をしていないでしょう?」
 ひとりで待っている間に、不安にさせてしまったらしい。安心させるように笑みかけながら、ジュリアスの意識は、血潮を滾らせている股間に向かっていた。
「うん……良かった。ジュリの躰は綺麗だね」
 賛嘆の眼差しが、ジュリアスの全身に注がれる。本人は無意識なのだろうが、ジュリアスは劣情を刺激されてたまらなかった。
「もういいですか?」
 返事を待たずに、ジュリアスは光希の躰を抱きあげると、寝台におろすと同時に覆いかぶさった。
「光希……」
 ジュリアスは光希の顔を、吐息が触れるほど近くから覗きこんだ。そして餓えたように激しく唇を奪った。
「ん……っ」
 性急さに驚いたのか、光希は一瞬躰を強張らせたが、すぐに力を抜いた。
 唇を割って舌を挿しいれると、鋭い官能の矢がその舌から全身を貫いて、下腹部を刺激した。
 熱く脈打つ下肢を押しつけると、光希は官能的な呻きを漏らした。彼にしては積極的に、ジュリアスの頸に両腕を回して、唇を吸い返してくる。えもいわれぬ異国の甘く濃い美酒を煽ったように、脳髄がしびれる。或いは口写しに与えられた媚薬かもしれない。
「はぁ、あ、ジュリ……ッ」
 舌を貫く火酒が咽を通り、臓腑を焦がす。血脈を伝って全身に駆け巡り、ジュリアスの躰をうちから炙りたてる。
 くちびるを重ねながら、光希の寝室着を奪いとり、寝台のしたに放りすてた。
 顔を離すと、今度はジュリアスが賛嘆をこめた目で、象牙色の肢体を嘗め回した。
「綺麗です。とても……」
 これほど美しく柔らかい躰を、光希が厭う理由がまるで判らない。彼はどこを見ても完璧だ。
「……ありがとう、ジュリのおかだよ。発疹が治ったんだ」
 光希は頬を薄紅色に染めて、潤んだ目でほほえんだ。
「確かめさせて」
 まろやかな肢体をあますところなく、丁寧に探っていった。頬から首筋、鎖骨、丸い肩、腕、背中、ふくらはぎ……どこもかしこも柔らかい。剣の柄が手になじむように、光希の躰はジュリアスになじむ。
「……綺麗に治りましたね。どこもかしこも、まろやかな象牙色の肌です」
 賛美と愛をこめて躰に触れながら、ゆるやかに起伏する胸に視線を奪われる。肉づきの良い胸を揉みしだくと、光希は背をしならせた。
「はぁ、ん……っ」
 さしだされた胸にジュリアスは顔を寄せて、紅い突起に舌を伸ばした。そっと突くと、電流が走ったみたいにびくびくっと震える。円を描くように舌を這わせてから、つんと尖った乳首を口に含んだ。
「ふぁっ……ん……っ」
 媚薬のような嬌声を聞きながら、柘榴色の肉粒を指でこねて、摘まみ、そっと摩る。代わる代わる指と舌で愛撫し、そそりつ乳首に歯を立てた。
「あぁっ、ん……ぁ……っ」
 胸への愛撫に、光希もさそうに、もぞもぞと太腿をすりあわせている。涙をこぼしている性器にはまだ触れず、ふくらはぎから脚首に手をすべらせていき、高く持ちあげた。
「ジュリ……」
 肘で上体を支えながら、光希が目で抗議する。
「……よく見せて」
 片脚をもちあげると、きざしている股間が露わになる。光希は恥ずかしそうにしているが、ジュリアスは構わずに、脚の指の間に舌を這わせた。
「ちょっ、そんなところ、発疹はなかったよ」
「……そう?」
 指の合間に舌をはわせながら見つめると、光希は悩ましげな顔で見つめ返してきた。
「……舐めないで」
 聴こえないふりをして指を口に含むと、光希は反射的に脚を引こうとした。逃げようとする脚を捕まえて、ジュリアスは指を舐めしゃぶる。
「っ、ん……汚いよ……っ」
 羞恥に濡れた声はしかし、かすかに欲望もまじっていた。
「光希に、汚いところなんてありません。私は貴方の躰なら、どこにでもくちづけられる……」
 囁いた通りに、ジュリアスはくちびるで愛撫した。光希は何度も逃げようとしたが、そのたびに捕まえて、腰を引き戻し、十本の指を丹念に舐めしゃぶった。
「もぅ、舐めないで……っ」
 しまいには、潤んだ黒い瞳が、哀願するようにジュリアスを見つめてきた。
「光希……」
 股間は痛いほど張り詰めていたが、ジュリアスはまだ物足りなかった。もっと舌とくちびるで彼を愛したい――白く丸い尻をぐっと掴んで押し開いた。
「ここも柔らかくしないと……」
 ひくつく後孔に息を吹きかけると、光希は小鳥のように震えた。動けぬよう太腿を両腕で押さえこみ、えもいわれぬ甘い香りがする場所に顔を沈める。
「ぁん……あ、ぁ……っ」
 舌で探ると、香辛料をまぶした林檎のような、甘い、陶酔を誘う味わいがする。
 陰茎は慈悲を求めて硬くなり、かつてないほどいきっている。舌を深くもぐらせて、敏感な粘膜をすりあげるうちに、媚肉は花開くように綻んだ。淫靡な水音が天蓋に響いて、さらに躰が熱くなる。
「も、いいよ、ジュリ……ぁっ」
 肘をついて逃げようとする肢体を、ジュリアスはすぐに寝台の中央に引き戻した。
「今夜は長く愛させて……痛めないように、たっぷり舐めて、ほぐさないと」
 秘孔にじゅっと吸いついてから、ぞろりと会陰えいんを舐めあげた。刺激が強すぎたのか、光希の腰が大きく撥ねあがる。
「あぁッ、や……っ」
 声を聴いているだけで、睾丸がうずいた。
 むしゃぶりつきたくなるのを堪えて、陰嚢いんのうをあやすように舌で揺らしてやる。
「や……ぁあぅっ」
 そのまま口に含んで、舐めしゃぶると、目の前で陰茎がひくひくと震えた。涙をこぼしている先端を、親指で優しく摩ってやると、光希は小さな悲鳴をあげた。
「もぅ、ジュリ……っ」
 切羽詰まった声で窮状を訴えてくる。
 焦らすつもりはないのだが、ジュリアスは光希の全身を舐めて、溶かしてしまいたかった。もっと夢中になってほしい――ジュリアスのことしか考えられないほど――彼にも強くジュリアスを求めてほしい。
 愛おしい勃起を、舌をからめて舐めしゃぶる。唇も、指も、汗も、光希の全てが愛おしい。食べてしまいたいほど。
 焦がれるような熱情は殆ど堰を切って溢れる寸前だったが、光希の声がすすり泣きに変わると、少し引いた。
 真闇まやみを見つめたときに感じた、途方もない飢渇きかつ、己の罪深い欲望を思いだしたのだ。
「……?」
 涙に濡れた目が、動きを止めたジュリアスを、問いかけるように見つめ返してくる。
「……無理をさせていますか?」
「……? どういう……?」
 彼はジュリアスの聖域だ。だが同時に、贄なのかもしれないと疑問に思う。誰よりも愛している。世界の誰よりも――己の命よりも大切な存在だ。しかし貪るほど激しいこの愛は、はたして光希にとって幸せなのだろうか?
「私が求めすぎているなら……」
 やめるという選択肢はないが、かろうじて手加減はできる。光希の表情を注意深く見守っていると、白い手が伸ばされ、脈打つ猛りに触れた。
「っ、光希……」
 感じやすい裏側を優しく指で愛撫されて、ジュリアスは低く呻いた。
「無理していないよ。僕もジュリがほしい……」
 頬を染めて、光希が囁いた。
「本当に?」
 ジュリアスは瞳を見つめて、訊ねた。
「ぅん……」
 光希は視線をそらさずに頷いたが、すぐに照れて、ふぃっと視線をそらした。
 その瞬間、ぞくりとした震えに、ジュリアスは全身を貫かれた。
 心臓を鷲掴まれたような衝撃だった。自制心の欠片が砕け散り、一瞬にしてやわらかな躰を組み敷いていた。
「ぁっ!」
 まろい尻を手で支えて、腰を持ちあげる。愛撫で潤みきったそこに熱い昂りを押し当てると、目をあわせながら挿入した。
「あぁぁんッ!」
 奥まで刺さる一突きに、光希の喉から嬌声が迸る。
 挿入しただけで達しそうになり、ジュリアスもまた、全身の筋肉を収縮させ、目をきつく閉じたまま静止した。
「あぁ……気持ちいい……」
 えもいわれぬ陶酔感――蜂蜜を溶かしたような肌から、甘い匂いがたちのぼり、頭がくらくらする。
 体重をかけすぎないよう気をつけて躰を倒すと、のけぞらせた白い喉にくちびるを寄せた。やんわりとみながら、時折吸いついて痕を残していく。
 そのまま、ゆるやかに腰を遣い始めると、光希もあえかな声をあげながらしがみついてきた。
「あ、あ、あぁ……んっ」
 くちびるを強引に奪い、舌を吸いあげて貪りながら、躰の奥処おくかを貪る。
 突きあげは次第に早くなり、奥深くまで貫く激しい律動を繰り返したので、光希は自分の躰を支えようとし、ジュリアスの胸に指先を伸ばし、頸をのけぞらせた。
「かわいい、光希……愛しています……」
 ジュリアスはふたりの躰の間に手をすべらせ、熱を帯びた性器に触れた。先端を指で愛撫しながら、突きあげる。
「ふぁっ、ん、あ、あ、ぁ……ンッ」
 光希が、高く快感の声をあげる。
 緩急をつけて突きあげながら、その間もずっと性器を優しく愛撫した。媚肉がうねり、熱く蕩けていく。液状の絹に包まれているみたいに心地良い。
「はぁ、ああ、でちゃ、ぅッ」
 いった傍から、びゅくびゅくと白い蜜が噴きあがり、ふたりの間を濡らした。
 甘く締めつけられて、ジュリアスも低く呻いた。あまりの心地よさに達してしまいそうになるが、光希の絶頂を優しく導くことに集中した。
「……気持ちいい?」
「ぅん……」
 紅潮した顔で、光希が頷いた。
 その蕩けた顔と声に、ジュリアスも暖かな官能に浸された。甘美な躰の虜になって、本能の赴くままに、腰を遣い始めた。
「あ、あっ、ぁんっ!」
 律動は速く激しかったが、一定のリズムを刻んでいたので、光希もその動きにあわせて腰をくねらせた。
「はぁ、光希、愛している……ッ」
 くちびるを奪い、舌を搦めながら、やわらかな躰の一番やわらかいところを何度も突きあげる。そのまま、一番深いところで果てた。
「ぁつい……っ」
 小さく喘ぐ光希を抱きすくめて、腰をぴったりとつけたまま、一滴残らず飛沫をなかに注ぎこんだ。
 吐精のあと、ほんの数秒ほど無力でいたが、楔は抜かなかった。
 体力のない光希は、早くも躰を弛緩させているが、ジュリアスは動きを再開した。ぬぷっ……淫靡な水音をたてながら、ゆっくりと引いて……また押し入る。
「ん、待って……」
 弱弱しい訴えを無視して、ぐぐっと腰をせりだした。
「あぁあぁッ!」
 一気に奥まで突き入り、光希は大きくのけぞった。ジュリアスの胸に手をついて、押しのけようとするが、哀れにか弱く、今にもこわれてしまいそうで、あまりに愛おしく、こうなってはもう貪ることをやめられなかった。
「光希……っ」
 象牙色の肢体を組み敷いて、両手が沈むほど強く腰を掴み、媚肉を穿つ。じゅぷっ、じゅぷっ、粘着な水音を天蓋に響かせながら揺さぶり続ける。
「あ、あっ、んぁッ」
 甘い嬌声をあげるくちびるは、ふっくらと紅く、濡れている。
 見ているとまた欲しくなり、奪うようにくちびるを重ねた。息苦しさに光希が顔をそむけようとすると、衝動的に頬を掴み、逃げられないうようにしてから、甘く深く貪った。
「ん、ぅ、んぅっ……」
 何度も舌を吸いあげて、甘い唾液を飲みこんでから顔を離した。ふたりの間に淫靡な銀糸が垂れる。ぷつりと舌できりながら、左脚を肩に乗せると、光希はふさふさの眉を悩ましげに寄せた。
「僕もう、息が……動けなぃ……っ」
「私が動きます。ゆっくり挿れるから……いい?」
 脚頸にくちづけながら囁くと、光希は少し躊躇い、小さく頷いた。
「ありがとう。そのまま、力を抜いていて……」
 宣言した通りに、ゆっくり挿入すると、光希は濡れた目で見つめてきた。熟れた孔が、ジュリアスをきつく締めつけてくる。一気に挿入したくなるが、自制し、脈打つ楔を慎重に奥まで沈めた。
「あぁ……っ」
 深く刺さったあと、はずみで入り口まで戻り……再び奥まで突き刺した。何度も、何度も、何度も、繰り返すうちに、自然と速度はあがっていく。
「やぁっ、あ、ンッ!」
 剛直を咥えこむ後孔は、粘着な水音を撥ねさせながら、波飛沫のように白く泡立っている。
 それを見てまた躰が熱くなり、いっそう奥まで侵入した。繰り返し、何度も、何度も、突きあげる。
「あぁ、またっ……いく、ぅ~っ……」
 光希は尻を浮かせ、無意識に艶かしく身悶えた。きゅうぅっと甘く締めつけられて、ジュリアスもふたたび極めた。
「はぁ、はぁ、はぁ……っ」
 荒い呼吸を繰り返す光希の髪を撫で、秀でた額にくちびるを押しあてる。そのまま愛を囁いた。
「好きです、光希。愛しています……」
「……僕も好きだよ」
 喉の奥で、ジュリアスは低く笑った。十回に一回くらいは、光希も言葉を返してくれる。
 ふたりの躰が快楽けらくの海に溶けあって、背中から沈みこんだ。快い充足感に浸されて、抱きあったまま、光希の呼吸が整うのを待った。
「……光希、眠い?」
 えもいわれぬ黒い瞳が、快楽に蕩けている。
「ん……」
 ジュリアスはまだ熱が引けていないが、光希は半睡状態で、今にも眠ってしまいそうだ。彼の意識が落ちてしまう前に、ひとつだけ、どうしても訊きたいことがあった。
「……あれから・・・・、悪夢を見ますか?」
 あたたかい肌にくちびるをつけたまま囁いた。なかなか返事がないので、顔を覗きこむと、光希はとろんとした目で見つめ返してきた。
「……ううん。ジュリの夢なら、たくさん見たよ」
「どんな夢?」
 黒い瞳に、面映ゆそうな、不思議な光が灯った。
「それは……最初は怖い夢だと思っても、途中からジュリがでてきて、塗り替えてくれるんだ。つまり……今、夢と同じことをしていたかな」
 ジュリアスはクックッと笑いながら、
「それを聞いて安心しました。苦労して失踪怪異を解決した甲斐がありました」
「……」
 静かな寝息が聞こえてきて、ジュリアスは満ち足りた心地で微笑した。
「お休みなさい、光希」
 まだ身のうちに熱は滾っていて、堪能したい気持ちはあったが、腕のなかで光希が眠っていることに、満足もしていた。
 心を焦がし、嫉妬の痛みを伴い、それでいて蕩けそうなほど甘いものが、心と躰と魂をしめつける。光希によってもたらされる、純粋な輝き、生きる喜び、そのすべてが愛なのだ。