月狼聖杯記

2章:饗宴の涯て 12


 なぜ、こうなってしまうのだろう。
 理性の欠片が、だらしなく蕩けているラギスを罵倒している。こいつを憎め、憎んで、憎んで、殺せ――叫んでいる。
 けれど、今こうして身体を委ねているラギスは、包み込むような熱を渇望している。力強いくさびに穿たれ、揺さぶられ、この男に縛りつけられることを望んでいる。
 とうていこの世のものとは思えぬ美しさが、ラギスをこうまでかき乱すのか?
 判らない……
 憎悪の対象に惹かれている。相反する感情がラギスを苦しめる。心が二つに裂けてしまいそうだ。

「……ラギス、お前の中に入りたい」

 耳朶に囁かれて、ラギスはさっと耳を横に伏せた。シェスラは低く笑いながら、伏せた耳を優しく甘噛みする。
 尾のつけ根を撫でられ、腰がびくびくと跳ねた。両足を大きく開脚させられ、あらぬところに熱い視線が落ちる。ラギスはきつく目を瞑った。

「……ラギス、私を見ろ」

 甘く命じられ、ゆっくり瞼を持ちあげると、熱を孕んだ水晶の瞳に射抜かれた。

「あッ」
「挿れるぞ」

 熱塊を後孔に押し当てられた。

「ぐぁ……あ、あ……ッ」

 蕩けきった尻は、難なくシェスラの雄々しい屹立を飲み込んでいく。

「もっと力を抜け」
「やめろ! 抜けッ」
「楽にしていろ」

 王は、緩やかな腰遣いでラギスを揺さぶる。

「あ、あぁッ」

 喉の奥から、堪えようのない嬌声が迸った。逃げようとする腰を、シェスラは両手で掴んで容赦なく寝台の中央に戻す。

「ラギス……私のものが、そなたに入っている。感じるか?」

 答える余裕はない。尻が熱くて堪らない。
 乳首を指に挟まれた瞬間、琥珀が吹きだした。胸に視線を落とすシェスラの肩を掴んで、ラギスは叫んだ。

「嫌だッ」
「そうか?」

 シェスラは小首を傾げ、ラギスの両手首を寝台に押しつけると、尖った先端に吸いついた。

「ッ、ぐ……ぅ、あッ」

 絶頂が近い。どうにか快感を無視しようとするが、ぬめった舌に吸われ、突かれ、歯を立てられると、ラギスはあっけなく達した。
 小刻みに震える身体を見下ろして、シェスラは満足そうに口元を拭う。気だるげに横たわるラギスを四つん這いにし、一気に貫いた。

「あぅッ!」

 狂おしいほど突きあげられる。シェスラも放熱が近い。艶めいた吐息が耳朶にかかり、ラギスは戦慄した。

「シェスラ! ……出すなッ」

 切羽詰まった声で叫ぶと、シェスラは耳朶に舌を這わせた。

「……だめか?」
「だめだ!」
「ここに、私の子種をかけて、そなたを――」
「やめろッ」

 下腹を撫でられ、ぞぞぞ、とラギスの全身に怖気おぞけが走った。

「ははは……」

 毛羽立ち膨らんだラギスの尾を掴んで、シェスラは愉しそうに嗤う。
 王は、絶対服従を要求する男だ。
 身勝手で酷薄な笑い声を聞きながら、ラギスは心の中で罵詈雑言の限りを尽くした。

「や、め……ッ……あ、あぁ」

 腰のぶつかる音が烈しさを増す。悦楽に呑まれて、ラギスは惑乱しながら喘いだ。

「ふ……腰が動いているぞ」
「うッ!」

 強張らせた背中を、シェスラが艶めかしく撫で上げる。

「ッ、私ではない。引き抜こうとすると、そなたが私を締めつけるのだ」
「違うッ」
「そなたは、身体の方が素直だな……くッ……私の子種を強請って、中がうねる」

 艶めいた吐息をつきながら、シェスラは突き上げた。嬌声をこらえて、ラギスは呻いた。

「やめろッ! 抜けッ! ……あぅッ」

 腰を振るって逃げようとすると、尻を軽く叩かれた。その衝撃で、だらしのない声が漏れる。

「暴れると、誤って中にかけてしまうかもしれぬ」
「ッ!」

 怒りのあまり、血管が噴き出すかと思った。
 喉から出かかる罵詈雑言を、くぐもった唸り声で殺す。これ以上シェスラを刺激しないよう、歯を食いしめた。
 淫靡な水音と、腰のぶつかる音、互いの荒い息遣いが、寝室に充満している。

「……そなたの身体は美しいな。汗が光って」

 腰を打ちつけながら、シェスラは陶然といった。肩甲骨から背骨の線を指が辿り、ラギスの四肢に力が入る。

「筋骨隆々とした肉体は、なめらかな肌とはまた違った魅力がある」
「頭、おかしいんじゃねェか……俺は、奴隷だぞ……ッ」

 息継ぎの合間に、ラギスが悪態をつくと、シェスラは薄く笑った。

「雄々しい、不屈の剣闘士だ。肉体に刻まれた、闘いの跡、傷の一つ一つまでが、完成された彫刻のようだ」
「るせェ」
「褒めているのだ。筋肉の動きは、目を愉しませてくれる。よく締まって、中の具合も良い」

 シェスラは楔を引き抜くと、ラギスの尻孔に白濁をかけた。

「中には出さずにおいてやろう……今はな」

 耳朶に囁かれる言葉を、ラギスは聞き流した。
 否、反応する余裕がなかった。
 雌のように組み敷かれ、男の精をかけられたことに傷つき、茫然自失しているのだ。昏い焔が胸に渦巻くが、シェスラの匂いに包まれて思考は再び蕩けてゆく……
 もう、解放してほしい。
 終わりのない饗宴から――心からねがうが、シェスラはラギスの尻を撫でると、窄まった縁をいやらしく指でなぞり始めた。

「おいッ」
「まだだ……もう少し、つきあえ」

 耳を甘噛みされて、後孔がひくんと疼いた。熱く猛った屹立を、尻のあわいに擦りつけられる。
 絶望と期待の入り混じった、混沌とした感情が胸の内に渦巻いた。
 聖杯だ。自分は王を満たす、聖杯なのだ。

(あぁぁあぁぁ……)

 心が麻痺していく。
 獣のようにまぐわい、忘我を彷徨った。
 空が白み始める頃になり、ようやく昂りは鎮まり、痙攣と身悶えのあとに相並んで横たわる。
 毎度、そんなのは御免だと思うが、疲労困憊していて同衾する王を押しのける気力はない。
 奈落の底へ、底へと意識は沈みこんでいく。
 怒りも、悲哀も甘い眠りに溶かされて、いつの間にか深い眠りをむすんでいた。




2章:饗宴の涯て 12


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