ラギスの開いた胸に、シェスラの視線が落ちる。
 彼の指が触れたところが、焼き印を押されたように熱い。感覚を遮断しようと苦心しているラギスの胸に、シェスラはゆっくりと顔をさげた。肩から胸にかけて走る古傷に指で優しく触れながら、唇を皮膚に押しあてる。
「ッ」
 快感を拾うまいとする必死の努力を、熱く、なめらかな唇は粉々にしていく。
 盛りあがった胸筋の丘を焦らすように辿り、つんと勃ちあがった突起の周囲を、舌でくすぐる。しこった乳首を唇で優しく食み、突くように舌でねぶるを繰り返す。
「やめろッ」
「断る」
 笑いを含んだ囁きに頭が煮えたが、指の腹で乳頭を転がされると、凄まじい快感に襲われた。甘い疼きは腰にまで響いて、陰茎を昂らせていく。
「う、ぁ……くッ」
 たまらず、銀糸の髪を掴んだが、シェスラは咎めなかった。顔をあげて、のけぞらせたラギスの首に舌を這わせてくる。細かく肌を吸いながら、再び鎖骨に向かって、絹のような唇でたどっていく。
「堪らないな……この甘い香り」
 そういうシェスラこそ、たえなる芳香を放っている。
 仄かな香水に混じって、彼自身の肌から立ち昇る、魅惑的な香りがする。
 上品だけれど情熱的で……ずっと嗅いでいたいような、甘く痺れる柑橘の香り。
 身体が熱い。
 乳首を口に含まれた瞬間、身体に電流が走った。それが判るのか、シェスらは軽く歯を立て、誘惑的な刺激を繰り返す。たまらない。躰が溶けてしまいそうだ。しまいには、甘噛みされている乳首に、何か、熱い奔流が走った。
「う、ぁ!?」
 何かが、くる。胸の先端、細い蛇口から熱が噴きあがろうとしている。
 形の良い指に、やんわりと乳首を摘まれた瞬間、琥珀色の飛沫が、乳頭から飛び散った。
「ッ!?」
 驚愕するラギスを押さえつけて、シェスラは胸に散った滴を唇で吸いあげた。
「ッ」
「……聖杯のこぼす霊液サクリアとは、天上の美酒だな」
「な、なッ――」
 驚きは、もはや言葉にならなかった。
 濡れた唇を舐める、シェスラの舌に視線が釘づけになる。この男は、今、いったい何を吸いあげたのか。
「霊泉を満たす器と聞いてはいたが、これほどとは……そなたは、まごうなき王を満たす聖杯だ」
「は、嘘だろッ? ……う、あ、ぁッ?」
 否定する間もなく、シェスラはラギスの乳首を吸いあげた。
 そこから噴きあがる何かを、唇と舌で吸引する。赤子が乳を吸う仕草に似ているが、成人した男の強さで吸ってくる。
「よせッ!」
 頭を押しのけようとすると、ラギスが痛いと感じるほどの力で、両手首を弾かれた。抵抗を封じると、なだらかに盛りあがった胸に顔を寄せて、乳輪を舌でくすぐる。
「ンッ」
 淫らな愛撫に、ラギスの声は甘く溶けた。シェスラは掌でラギスのひくひく震える腰や、汗で湿った太腿を撫でながら、飽くことなく乳首をしゃぶり続けた。
 ようやく解放された時、散々吸われた乳首は、ぽってり腫れあがっていた。
「は、はぁ、はぁ……っ」
 肩で息をするラギスの胸を、シェスラはけだるげに撫でた。仄かに上気した頬で、陶然と呟く。
「あぁ……想像もしていなかった……聖杯とは、凄まじいな。力が漲る。これからは毎日吸ってやろう」
 唾液に濡れて、てらてらと光る己の乳首を見て、ラギスは唖然とした。
「なんだ、これ……」
 恐る恐る乳首に手を伸ばすと、触れる寸前でシェスラに手を弾かれ、きゅっ、と彼の指で摘まれた。
「ッ!!」
 歯を食いしばり、背を弓のようにしならせるラギスを、シェスラは獲物を見る目で見つめている。
「そなたは聖杯だ。私を満たす、唯一無二の霊泉の器」
「……違う」
「ふふ、楽しみが増えたな。朝と晩に、この尖りを口に含もう」
「何、いってやがる」
「そなたの役目だ。奴隷剣闘士から召しあげてやったのだ。私を満たせ」
「――ッ!?」
 唐突に、唇を塞がれた。
 柔らかな感触に、ラギスは全ての意識を奪われた。動揺しすぎて抵抗をすることも忘れている。
 しっとりと重なった唇を柔らかく食まれると、ラギスは思い出したように呼吸をした。
「……んッ」
 薄く開いた唇に、シェスラは舌を挿し入れた。口づけを荒々しいものに変えて、自分よりも遥かに分厚い巨躯をきつく抱きすくめる。
「よせッ……ン――ッ」
 剣のように舌を突き刺し、ラギスの口内を貪る。
 舌を搦めあい、泉のようにあふれでる、どちらのものか判らぬ唾液を啜りあう。
 淫らな口づけに、敵愾心と理性を溶かされていく……
 下着に指がかかり、ラギスは少し頭が冷えた。だが、離れようとする間もなく組み敷かれてしまった。
「……淫らだな」
 シェスラは当然と呟いた。
 巨躯に相応しい、雄々しい陰茎はすっかり勃ちあがり、薄い絹の下着に沁みをつくっていた。
「ッ!」
 ラギスの顔に羞恥がさっと昇る。
 下着を引きずりおろされると、反り返った屹立が勢いよく飛びだした。
 猛った陰茎を、シェスラは食い入るように見つめてきた。手で隠そうとするラギスを叱るように、首輪に結ばれた鎖を引っ張る。
「ぐっ」
「隠してはならぬ」
 判っていたことだが、王はかなり傲慢だ。足蹴あしげにしてやろうとしたら、危険を察知したように、素早く急所を鷲掴まれた。
「――ッ!?」
 身体から力が抜け落ちる。そのまま緩く扱かれて、ラギスの腰はびくびくと跳ねた。
「やめろ!」
「そなたが欲しい。これほど狂おしい欲情に駆られたのは初めてだ」
「くそがッ、離しやがれ」
 屹立を扱かれながら、端正な顔が股間に降りてゆく。吐息が性器にかかり、形の良い唇が開かれ――
「よせッ」
 叫んだ瞬間に、咥えこまれた。
 熱い粘膜に性器を含まれて、ラギスは身悶えた。今度こそ逃げようとするが、叱りつけるように性器を甘噛みされて、抗う力を奪われる。
「やめろォッ」
 暴れようにも、首の枷が邪魔をする。反り返った陰茎が、形のよい唇に出入りする様を、ラギスは信じられない気持ちで見つめた。
 濡れた水音が鼓膜に届いて、羞恥を煽り立てる。
 王に口淫させている光景は倒錯的で、その気がなくても昂るものがある。
「ぅ……やめろ……やめてくれ……ッ」
 頭がおかしくなりそうだ。丸い亀頭を口に含まれ、飴玉を転がすように、口内でねぶられる。細い亀裂から溢れでる、子種とは違う琥珀色の蜜を、音を立てて啜られてしまう。
(あぁぁ……っ)
 この世に、これほどの快楽があるとは知らなかった。
 目を開いたまま、万華鏡のような幻視に囚われる。
 峻烈しゅんれつな悦楽に、眼裏まなうらに眩い光が散った。