メル・アン・エディール - 無限海の海賊 -

14章:帰郷 - 6 -


 午前零時を過ぎた頃、ヴィヴィアンはホテルに戻ってきた。
 寝支度をしていたティカは、扉を振り向いて、ぱっと顔を輝かせた。
「お帰りなさい!」
 ヴィヴィアンは駆け寄ってきたティカを抱きしめ、少年の額に優しいキスを落とした。ティカは自然と目を閉じたが、彼の肌から漂う甘い香りに、ぱちっと目を見開いた。
 上着に顔を寄せて、鼻をくんくんするティカを見下ろし、ヴィヴィアンは困ったように笑った。
「どうしたの?」
「甘い匂いがします」
「そう?」
 自分の腕をもちあげて匂いを嗅ぎ、
「隣にご婦人が座っていたから、香りが移っちゃったのかな」
 考える素振りを見せたヴィヴィアンだが、思い直したように晴れやかな顔になり、
「ティカ、一緒にお風呂に入ろうか」
 ティカは朱くなり、無言で頷いた。ヴィヴィアンはほほえむと、浴室に向かって歩きだした。彼の後ろを、ティカは黙ってついていった。
 浴室に入ると、ヴィヴィアンは袖をまくりあげ、腕を伸ばして浴槽に屈みこんだ。白くて深い、卵の形をしたバスタブにいい香りのするジェルを垂らすと、タイル張りの壁からつきだした蛇口をひねった。
 お湯がたまっていくにつれてバスジェルが粟立ち、甘いアプリコットの香りが浴室に拡がっていく。
 ヴィヴィアンがシャツを脱いで無造作に床に放るのを見て、ティカも薄い寝間着を脱ぎ捨てた。
「おいで、ティカ」
 熱で翳った瞳に見つめられ、ティカの背筋にぞくっと震えが走った。正体不明の不安から身を守るように、腕を胸の前で組んで佇む。
「ほら、おいで」
「アイ……」
 ヴィヴィアンの神々しい裸身に見惚れながら、ティカはおずおずと近づいていった。
「俺を見て」
 ヴィヴィアンは優しい声でいった。
「緊張している?」
「……少し」
船長室キャプテンズデッキだと思えばいいさ」
 そういって彼は、真鍮のシャワーヘッドを手にとり、自分とティカの頭上からかけた。一瞬でずぶ濡れになり、額に張りついた前髪と格闘しながら、ティカは笑みをこぼした。
「さっき髪を洗ったのに」
「あ、そっか。ごめん」
 ヴィヴィアンは笑った。
「背中を洗ってくれる?」
 スポンジを手渡され、ティカは張り切って頷いた。彼が髪を泡立てながら椅子に座ったので、ティカは後ろに立ち、スポンジに蜂蜜の石鹸をこすりつけた。
(……ヴィーって綺麗だな)
 船上で巨躯の兄弟たちに囲まれている時は、華奢にすら見えるのに、こうして目の前にすると、思った以上にがっしりしている。彼は後ろ姿まで完璧だ。
「どうかした?」
 ヴィヴィアンは髪を洗う手を休めて、問いかけた。
「いえ! なんでもありません」
 我に返ったティカは、慌てて手を動かし始めた。
「ふ、気合入っているね。なんだか甲板になった気分だよ」
「すみません」
 ティカは赤くなり、今度は力加減に気をつけて、優しくスポンジを肌にあてた。
「どうでしょうか?」
「気持ちいいよ、続けて」
「アイ」
 コツが判ってきた。手元に集中するティカに、ヴィヴィアンは笑いながら声をかけた。
「オリバーたちと遊んできた?」
「アイ! 昼は色々見て回って、夜は桟橋の酒場に皆でいってきました」
「楽しかった?」
「うんっ」
 ティカは朗らかに笑った。つられてヴィヴィアンも笑う。
「ヴィーは? 家族に会えた?」
 楽しい気分のまま、ティカはヴィヴィアンの顔を覗きこむようにして訊ねた。
「会えたよ。皆元気そうだった。兄さんたち、ティカに会いたがっていたよ。今度は一緒にいこうね」
「アイ……」
 ひとしきり洗い、湯をかけて流し終えると、ヴィヴィアンは悪戯っぽい瞳をして、ティカの手首を掴んだ。酷く謎めいた笑みを浮かべている。
「ありがとう。お礼にマッサージしてあげるよ」
「え?」
「お湯はリラックス効果があるし、浸かるとしようか……ほら、座ってみな」
 ティカは手首を掴まれたまま、浴槽に誘導された。いわれるがまましゃがみこみ、熱い湯にのみこまれた。
「ふわぁ、あったかい……」
 泡立った湯舟に違和感を覚えたが、皮膚を焦がすようなちりっとした感触は一瞬で、すぐに心地良い温もりの虜になった。
「気持ちいいだろう? 一人で入った時は、湯はためなかったの?」
「なんだか、もったいなくて」
 ヴィヴィアンはくすっと笑った。
「遠慮しなくていいんだよ」
 長身を屈めると、ティカの後ろで腰をおろし、ティカを胸にだきよせた。喫水線があがり、湯が弾ける。剥きだしの脚がティカの脚に重なった。
「っ」
 彼は足首の力でティカの脚を開かせたので、ティカは息をのんだ。ヴィヴィアンは鼻先をティカの髪にうずめて深呼吸をした。
「ティカはいつも、太陽と緑の匂いがするね」
「太陽?」
「うん。いい匂いだよ、心が落ち着く……」
 静かに囁くと、ティカの肩や腕の筋肉をほぐすように、大きな掌で撫でおろした。
「筋肉がついてきたね、ティカ」
 ぱっとティカの顔が輝いた。
「ありがとうございます! 背も伸びたんですよ! ヴィーに比べたら、まだちびだけど……」
 ティカは振り返り、見事に均整のとれた美しい身体に視線を走らせ、朱くなった。引き締まった肌が湯に濡れて光って見える。肩の筋肉は盛りあがり、腿から膝にかけて腱が弧を描くようにくっきりと浮きあがっていた。見惚れていると、顎を指先ですくわれて、目があった。
「あ……」
 艶やかな銀髪から雫が滴り落ちる。熱の灯った眼差しにからめ捕られ、ティカは身動きができなくなった。
「ん……」
 唇が重なる瞬間は緊張していたが、すぐに体から力が抜けていった。優しく下唇を吸われて陶然となるが、腹に回された腕がティカを引き寄せ、彼自身に押しつけられると、ぱちっと目を見開いた。
「あ……」
 情欲の滲んだ青い瞳と視線がぶつかる。ヴィヴィアンは真っすぐに見つめたまま、大腿のあいだに手をすべりこませた。
「少しずつ、慣らしていくことにしよう」
 耳元で甘く囁いた。ティカの首元に顔を埋め、そっと歯を立てる。
「や、ぁ……っ」
「大丈夫、怖がらないで……」
 尻のあわいを指が行き来する。びくびく跳ねる体を宥めるように、うなじに柔らかくキスをされ、ティカは眩暈を覚えた。
「はぅ……っ」
 鼓動が速くなり、濃密な空気に胸を喘がせる。ヴィヴィアンの手が尻から腰へとすべり、もう片方の手は胸に触れた。
「ひゃっ」
 思わず押しのけようとした手を掴まれ、じっと瞳を覗きこまれた。
 神秘的な青金石色ラピスラズリの瞳。欲望に翳った瞳は、見つめているだけでぞくぞくする……
 ふいに早鐘を打つ胸に手が伸ばされ、ティカは再び慌てた。
「ヴィー?」
 後ろから伸ばされた掌が、胸の周囲を優しくもみこんだ。
「かわいいよ、ティカ」
 そうささやくと、円を描くように乳首のまわりを指でなぞった。熱い視線にさらされて、乳首が硬く尖っていく。卑猥な光景に、ティカは真っ赤になった。
「うーん……美味しそうになってきた」
 彼は満足そうに囁くと、柔らかく、焦らすように指で触れた。親指でゆっくりと転がされた乳首がそそりたつ。
「あ、ん……」
 快感が股間を刺激して、どくりと脈打った。熱い湯のなかで、先端から熱い滴が溢れる。ティカは涙目になっていた。ヴィヴィアンはティカをもちあげ、向かいあうように抱きしめると、むきだしになった方の乳首を唇で挟みこんだ。
「んっ」
 優しく引っ張られた瞬間、全身が痙攣を起こしかけた。
「や……だめだめだめっ」
 慌てふためくティカを見て、ヴィヴィアンは喉の奥で軽く笑う。
「だめじゃない」
 巧みな指の動きと、天鵞絨びろうどのような唇に苛まれて、両の乳首から快感が迸り、細胞の一つ一つまでを呼び覚ましていった。じゅっと強く吸われた瞬間、
「ぁんっ」
 ティカは背をのけぞらせた。気迫になった空気を求めて喘ぐ。全身を火に炙られているようだった。両脚が強張って、中心の熱塊がぐんと天を突いた。
「あぁっ! あ、だめっ……んんっ」
 ヴィヴィアンはティカの痴態を眺めながら、乳首だけをゆっくりと責め続けた。
「かわいいよ、ティカ。我慢せずにいってごらん……」
 彼は乳首をそっと噛んだ。親指と人差し指は、反対の乳首を小刻みに引っ張っている。
「んん――~ッ……!」
 ティカはこらえきれずに、熱い湯のなかで精液を迸らせた。全身が激しく痙攣したかと思うと、ヴィヴィアンの唇が唇を覆い、深く挿しいれられた舌が悲鳴を飲みこんだ。
「ん、ぅっ……んんっ……!」
 甘く貪られ、ゆっくり唇がほどけると、ティカは恍惚の表情でヴィヴィアンを見あげていた。形のよい指で濡れた唇をなぞられる。
「……かわいくいけたね。気持ちがいいだろう?」
 ティカは真っ赤になり、言葉もなく、うつむいた。
「もっとよくしてあげる……」
 耳元でささやかれ、達したばかりの身体がびくっと震えた。
「俺を信じて。触れられるのを怖がらないで」
 熱い掌が腰をすべり、脚の間をくだり、震えている切っ先を愛おしそうに包みこんだ。
「あっ」
 先端を円を描くように、優しく撫でられ、ティカは息をとめた。ヴィヴィアンは腕のなかの少年をじっと見つめたまま、
「……指を挿れるよ」
 宣言して、指を動かした。会陰をすべりおちていき、襞を優しく撫で……指のほんの先を挿入して、様子をうかがう。
「大丈夫?」
 ティカは無言で頷いた。尻孔を探るような指の動き――唇を噛みしめ、声を押さえようとするが、ヴィヴィアンは容赦しない。指を、何度も、何度もだしいれする。
「ん、あ……ふ、ぅ、……んっ……」
 次第に声を我慢するのが辛くなり、ティカは膝の上から降りようとした。
「逃げないで……」
 声は優しいが、ヴィヴィアンはティカをしっかりと押さえつけていた。ゆっくりとした指の動き。優しく前後を繰り返し、ティカがおずおずと動きをあわせ始めると、速度をあげていった。
「あぁっ! ん、んぁッ」
 やがて容赦のない激しい律動になり、ティカの性器から薄い飛沫が飛び散った。
「あっ!」
 次の瞬間、ヴィヴァンの両手がティカの頭を掴み、唇を貪った。歯がティカの下唇をそっと噛む。ヴィヴィアンは猛ったものをティカの尻にこすりつけ、淫らに前後させた。その行為は、挿れられているのも同然で、ティカの身体は強張った。
「だめ、やっ……」
「大丈夫。いってごらん」 
 乱れた息の合間に囁いた。ティカの心臓は壊れそうなほど波打っているが、ヴィヴィアンの表情もどこか辛そうだった。汗がうっすらと皮膚を覆い、なめらかな褐色の肌が煌めいている。
「あぁっ」
 ぬかるんだ蕾に再び指を突き入れられ、ティカはのけぞった。ヴィヴィアンは体を軽く倒し、耳に流しこむようにして囁いた。
「……指だけど、ちゃんと奥まで入ったね。毎日少しずつ慣らして、三本入るようになったら……ここに、俺のを挿れるから」
 高圧的で官能的な言葉に、ティカは恍惚となった。入り口の浅いところを指でこすりあげられ、背が弓なりになる。逃げようとする体を引き戻され、耳のなかに熱い舌を挿しこまれた。
「ふぁっ」
 淫靡な水音が鼓膜を打ち、ティカは全身を戦慄わななかせた。
「毎日続けていけば、年が明ける頃には準備が整っているよ。早く……突き挿れたい」
「やぁ、んっ!」
 強く反応したところを狙って、指が何度も刺激を与えてくる。腰を引かせようとしたが、確かな腕に囲われて逃げられない。深く指が刺さり、抜けていく。繰り返される律動。湯の弾ける音。淫蕩の波に揺さぶられ、やがてティカは恍惚を極めた。
「あ、あ、ん~……ッ!」
 空になった性器からは殆ど何もでなかったが、深い絶頂に貫かれ、最後の痙攣がティカを飲みこんだ。忘我の恍惚のなか、ぐったりとヴィヴィアンにもたれた。
「……あれ? ティカ、大丈夫?」
 光と湿った熱気に包まれ、遠くから気づかわしげなヴィヴィアンの声が聴こえてきた。答えねばと思うが、心臓が破裂してしまいそうで、言葉にならない。もう、自力では指一本、動かせそうにない……
「……ごめん、眠っていていいよ」
 ヴィヴィアンは烈しく疲弊させたことを詫び、ふらふらになったティカの世話を一通り焼いて、ベッドまで運んだ。
 シーツをかけられる頃には、ティカはもうぐっすり眠っていた。暖かな腕に抱きしめられ、天国の心地を味わっていた。




14章:帰郷 - 6 -


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