狂気の夜が更けていく。
 渋谷に聳えるタワー・マンションに着くと、呆然自失する優輝を、遊貴はリビングのソファーに座らせた。
 死人のような気分でいたが、優輝はどうにか笑みらしきものを顔に浮かべて、友哉に無事だけは伝えた。後で説明すると約束してスカイプを落とすと、虚ろな眼差しでソファーに沈み込んだ。
 脳が考えることを、拒否しているのかもしれない。
 遊貴は、物言わぬ優輝の隣に腰掛けて、そっと肩を抱き寄せた。
 腕の中でじっとしていると、頭にちゅっとキスが落ちた。ほんの一時間前、非情に銃を撃った同じ人間とは思えぬ仕草だ。
 もたれかかっていると、おとがいに指がかけられ、上向かされた。
 紫の瞳と視線が絡む――眞鍋に向けて引き金をひく遊貴の姿が、脳裏に蘇った。
 恐怖を振り払うように、優輝は慌てて立ち上った。訳も分からず、駆け出す。

「優輝ちゃん!」

 ここから逃げ出さなくては、そう思ったが、リビングを出ようとしたところで足を止めた。

「あ……」

 恐くて、振り向けない。遊貴が近付く気配を察知して、避けるように壁際に寄る。
 視線を背けたまま、両腕をさする優輝を見て、遊貴は紫の瞳を冷たく細めた。

「……優輝ちゃん、何もされなかった?」

「え?」

「眞鍋に、何もされなかったよね?」

 恐る恐る振り向くと、どうなの、と遊貴は尋問口調で訊ねた。

「いや……」

「俺が怖い?」

 穏やかだが、低めた声に気圧される。無意識に後じさると、壁に背が当たった。

「何をいわれた?」

「え……」

 目を逸らそうとすると、頬を撫でられた。そこに触れるだけのキスを与えられる。吐息が頬に触れて瞳を固く瞑ると、唇にもキスをされた。

「――ッ」

 唇は離れたけれど、遊貴はまだすぐ傍にいる。

「……逃げないの?」

 試すように、遊貴は囁いた。ここから逃げたいのか、逃げたくないのか、優輝にも判らない。
 ずるずると背中から頽れると、遊貴も追い駆けるように膝をついた。床にへたりと座り込んだ優輝の顔を覗き込み、頭を両手で丸く包みこむ。

「ん、ぁ……っ」

 視線が絡むと、すぐに荒々しく唇を奪われた。
 舌を挿し入れられて、好き勝手に荒らされる。腕を掴む手は、おかしいくらいに震えて、まとに力が入らない。

「は……心配したよ」

 切なさの滲んだ、掠れた声。優輝の中で、何かが弾けた。
 ぼろぼろと泣き出す優輝を見て、遊貴は少し困ったような顔をした。

「嫌だった?」

 首を左右に振る。彼にしては自信なさそうに、恐る恐る優輝の頬に手を伸ばした。綺麗な菫色の瞳に、顔をぐしゃぐしゃにした優輝が映っている。

「俺……ッ! 本当は、すっげぇ怖くて……んぅっ」

 告げた途端に、再び唇を塞がれた。角度を変えて、何度も貪られる。寒いとすら思っていたのに、瞬く間に体温が上昇していく。

「……っ」

 シャツの内側に手が潜り込んだ。
 動揺しきってその手を掴んだが、遊貴は怯まずに触れてくる。下腹を撫でられ、きゅっと下肢に力が入り、自分とは思えぬ甲高い声が洩れた。

「遊貴……っ」

 切羽詰まった声で名前を呼ぶと、欲に濡れた瞳が優輝を映した。
 背筋にびりびりと電流が走る。仰け反るように顔を逸らすと、追い駆けてきた唇に、噛みつかれるようにして塞がれた。

「んぅ」

 口内を貪られながら、手のひらで胸をまさぐられる。尖った先端を指で摘ままれ、大袈裟なほど身体が撥ねた。
 艶めいた息遣いに、身体が熱くなる。角度を持った中心を撫でられて、ひくりと優輝の腰は揺らめいた。

「や、やだ……」

 腰を引くと、遊貴は逃がさないというように背中に腕を回して、引き寄せた。