瞳を揺らす優輝を見て、遊貴もまた菫色の瞳を瞬いた。

「あれ?」

 キスした本人は、きょとんとした顔で首を傾けた。その瞬間、優輝は音が立ちそうなほど大袈裟なアクションで、遊貴から遠ざかった。

「あれ? じゃねぇよッ! 何してくれてんだ、テメーはッ!」

 指を差して喚く優輝を、遊貴は戸惑ったような顔で見つめている。艶のある黒髪をかき上げながら、形の良い唇を開いた。

「いや……欲求不満みたいだから、同じ名前のよしみでキスしてあげようと」

「意味判んねぇッ」

「……俺も意外。震える優輝ちゃんに、ときめいたな」

「は?」

「頼りなげに、俺の腕掴んだりしちゃって」

「ッ?! 何いってんの?」

「確かめさせて」

「は?」

「こっちにきて。もう一回キスさせて」

「い、意味判んない」

 動けずにいると、遊貴の方からにじり寄ってきた。優輝は慌ててソファーから立ち上ると、部屋の中ほどへ逃げた。
 どういうわけか、遊貴も追い駆けてきた。見つめ合ったまま、じりじりと後退する。壁に背がつくと、思わず喉が鳴った。顔に影が落ちる。熱を灯した紫の瞳が怖い……

「……っ」

 おとがいに指を添えられ、びくりと肩が撥ねる。咄嗟に目を瞑ると、耳朶をぺろりと舐めらた。

「ちょ!?」

 耳を抑えて長身を仰ぐと、強い紫の視線に射抜かれた。
 空気が変わる。後頭部を丸く包みこまれて、綺麗な顔が降りてくる――

「んぅ……っ!?」

 どうしよう、と思う間に唇を塞がれた。唇を閉ざす余裕もなく、舌を挿し入れられる。
 全力で肩を押したが、遊貴は引こうとしない。優輝の手首をきつく掴んで、軽々と抵抗を抑え込む。
 舌が触れ合い、優輝は怯えて舌を引っ込めた。なのに、逃げる舌を追い駆けるように、からめ捕られてしまう。

「や……ぁ、ゆ」

 どうしてキスをしているのか、意味が判らない。唇を離そうとすると、叱るように舌を甘噛みされた。

「んぅっ」

 膝の力が抜けて、くずおれそうになる。腰に腕を回されて、口づけは更に深くなる。貪るようなキスから、逃げられない。
 息苦しさに喘ぐ優輝を見て、名残惜しそうに、遊貴はキスをほどいた。二人の間に伝う銀糸を、艶めかしく舌で切る。

「かわいいね……」

 潤んだ瞳で上目遣いに仰ぐ優輝を見下ろし、陶然と遊貴は呟いた。唇に視線が落ちるのを感じて、優輝の全身にさざなみが走る。

「――んぅ」

 再び唇が重なり、たちまち燃え上がった。爪先が浮くほど強く抱きすくめられ、口内を荒される。喉の奥から、自分でも驚くほど甘い声が漏れた。

(どうして……やめてくれよ……ッ!)

 感情が昂り、目の端に涙が滲んだ。濡れたまなじりを優しく指先で拭いながら、遊貴は強引に舌を搦めてくる。
 長く情熱的なキスがようやく終わると、優輝は壁を背に押しつけて、ずるずると座りこんだ。遊貴も追い駆けるように膝をつく。
 頭がくらくらする。肩で息を整えていると、首筋に吸いつかれた。迸りそうになる声を必死に抑えると、襟をくつろげられ鎖骨に吸いつかれた。

「んッ、あぁ」

「優輝ちゃんの声、エロくていいね。腰にクる……勃った」

 吐息混じりに囁かれ、優輝の顔にさっと血が上った。

「な、ば、ばっかやろう!!」

 感情が爆発して、渾身の力で振り払った。遊貴は大して動じなかったが、僅かに身体を離した。

「気持ち良くするって約束するから、セックスしない?」

「はぁ――っ!?」

 酔狂にもほどがある。口を開けて呆ける優輝を、遊貴はラグマットの上に押し倒した。

「ちょっ……」

 啄むようなキスが顔中に雨と降る。恋人にするような、優しくて甘いキス。

「やめろって」

「やめない」

「遊貴!」

 圧し掛かる身体の下でもがくと、ぐっと下肢を押し付けられた。昂りが擦れて、優輝は驚愕に目を見開いた。