すらりとした長身を仰いで、昴も吉田も固まった。
 連は昴の傍にやってくると、包み込むように肩に手を置いた。昴は肩から力を抜いたが、吉田は身体を強張らせた。

「よぉ、連……」

 冬の湖水のような眼差しを向けられて、吉田は頬を引き攣らせている。

「何してるの?」

「え、怒ってる? 何もしてないぞ??」

 困ったような顔の吉田と眼が合い、昴は慌てて頷いた。

「一緒にランク戦してたんだよ」

「そうそう」

 吉田は昴の言葉に相槌を打った。連は疑わしそうに吉田と昴の顔を見比べている。

「……吉田さんがACEで、俺はサポートやったんだ。久しぶりすぎて、相当ぎこちなかったよ」

 昴は笑いを取ろうとしたが、連の無表情は変わらなかった。吉田は居心地悪そうにしている。

「じゃぁ、俺はそろそろいくわ。石田君、リーグ頑張ってね」

「ハイッ! ありがとうございます!」

 逃げるように席を立つ吉田を、昴は会釈して見送った。顔を上げて視線を連に戻すと、咎めるような眼差しを向けられた。

「何かいわれた?」

「や、別に、何もいわれてないよ」

「じゃ、何で沈んでるの?」

「いや~……プロになっても、いろいろあるんだな~って、ちょっとナーバスになっただけ」

「いわれたんじゃないか」

 昴は眼を泳がせた。

「違うよ。俺がヘタレなだけ」

「昴は努力している。着実に上達しているよ」

「ありがとう」

 面映ゆい心地で視線を彷徨わせる昴を、連は眼を細めて見つめている。今さっきの凍りついた表情が嘘みたいだ。

「ところで、学校は?」

 やはり訊かれるか、そう思いながら昴は唇を開いた。

「……午前中だけいった。午後からここで練習してたんだ」

 連は思案気な顔をした。

「俺にいえた台詞じゃないけど、あんまりサボるなよ」

「うん……本当は、BLISに集中したいんだけど~……うーん、でも桐生さんにも許可もらっているし、ちゃんと学校もいくよ」

 がしがしと頭を掻く昴を見て、連は柔らかくほほえんだ。乱れた髪を、優しい手つきで整える。甘い眼差しに、昴の頬は熱くなった。

「一戦しようよ」

 照れを誤魔化すようにいうと、いいよ、と連は気安い返事をして隣の席に座った。
 結局、一戦どころか、立て続けに五戦した。連勝が気持ち良くて、やめられなかったのだ。
 e-Sports GGGを出た後、一風堂でラーメンを食べてから家に戻った。風呂を浴びて一息つくと、Ranked SoloQueueを一戦だけして、その後は眠くなるまで他のプレイヤーの配信をチェックした。
 部屋の電気を落としてベッドに入ると、椎名奏汰からLINEで話しかけられた。

『Galaxy Boysのトライアウトに受かりました!』

 おぉっ、と昴は思わず声に出した。逸る気持ちで文字を打つ。

『おめでとうございます! ポジションは?』

『ありがとう。ACEだよ』

『ですよね! すごい!』

『ありがとう。昴君とリーグで戦えることを楽しみにしています!』

 胸に、熱いものが込み上げた。ごく短期間に、いろいろなことがあったけれど、二人ともリーグに出場できるのだ。

『本当におめでとうございます。すごく嬉しいです。俺も椎名さんと戦えることを、楽しみにしています』

 まだまだやることはたくさんあるが、一つの目標に到達できたのだと、昴は感慨を抱いた。