BLIS - Battle Line In Stars -

episode.3:TEAM - 30 -


 対戦カードが発表された翌日、土曜日。
 恐るべき速さで、桐生は過去動画を編集してきた。手伝わされたらしいマネージャの秋月はよれよれになっている。
 動画の内容は、主に前年度のリーグ戦のハイライトと、各選手のモンタージュだ。
 非常に濃い内容に仕上がっているが、完全に当てにはできない。敵チームも選手の入れ替えを行い、前年度とは戦略もメンバーも異なるからだ。
 プレイルームに集まったHell Fireのメンバーは、桐生の編集した動画に視線を集中した。

「勝つ為に必要な条件って、何だと思う?」

 動画を見ながら、何気なく昴は話題を振ってみた。

「競技シーンで?」

 アレックスに訊かれて、昴は首を横に振った。

「んーん、全般で。BLISの必須勝利条件って何かなーって」

「強烈な闘争心」

「まぁ、勝つ気がないと負けるわな」

「眼の前のこいつを絶対ぶっ殺す。マジ許さねぇ! くらいの気持ちがないと勝てない。ゲームの途中で心が折れて、負けてもいいや、なんて思う奴は論外だ」

「その点、うちのチームはメンタル強いよね。俺は別として……」

 昴がいうと、アレックスは新発売の蜂蜜梅味のチップスをぽりぽり食べながら頷いた。

「雑音を聞き流して、闘いに集中できることは大切だね。負けが続いても、気持ちを切り替えられないと、BLISは続けられないよ」

 全く同感だ。闘争心も必要だが、タフなメンタルも勝利の蓋然性がいぜんせいを語る上で欠かせない。
 BLISをやっていて敗北しないプレイヤーはいない。勝つ為には、どれだけ負けが続いたとしても不屈の心が必要だ。

「文句いう奴は、死ねよ雑魚が、って内心で毒づきながら、無視すればいいんだよ」

 ルカはチップスに手を伸ばしながら、そうのたまった。
 基本的に対人ゲームは、罵詈雑言の雨あられだ。試合中に、味方から罵倒を受けてモチベーションを下げては、勝てる試合も勝てなくなる。文句を吐いて味方の機嫌を損ねても然り。

「苛立っても味方を責めない。黙りこまない。ニュートラルなメンタルキープは大事だね」

 昴の言葉にルカは半眼になった。拗ねたように、すいませんね、と謝る。これには全員が笑った。

「メカニクス。最初のBAN&PICKでこけないこと。ビルドに失敗しないこと」

 連の言葉に、和也も頷いた。

「そうだね。中盤以降はマップコントロール。どうやって集団戦を勝つのか」

「基本は大切だね」

 ルカも同意する。メカニクスの話になると、議論は白熱する。
 闘いのレベルが上がるにつれて、勝利の条件は緻密化していく。競技シーンでは特に、いかに先行して有利を作るか、熾烈しれつな戦いとなる。
 敵のダブルACE構成に対応できるように、TANKを育てるのか、ACE/MIDが助けを呼んでいるので、彼らの感情を優先してそちらを育てるのか……等々、心理戦の読み合いになる。

「オンライン試合とオフラインのリーグ戦はまるで違う。アウェイな会場で、大勢の観客が見ている目の前でプレイするのがリーグだ」

 和也の言葉に、昴は押し黙った。
 公式戦は、万人の視線にさらされ、生実況されながら、目の前の相手を叩きのめさねばならない。
 緊張して、普段はしないようなミスを連発するプレイヤーは山ほどいる。
 開幕すれば、どんなに不調でも、シーズン中は試合を続けなくてはいけない。たとえエベレスト山頂からダイブしたい気分でも、プロである以上は逃げられないのだ。

「広く言及するなら、闘争心。探究心。メンタル。メカニクスに富んでることかな」

 連がまとめると、和也は小さく頷いてから昴を見た。

「昴君、初めてのリーグで、うまくやろうなんて考えなくていいよ。闘い抜くことだけ考えているといい」

 昴は素直に頷いた。文句をいいたそうにしているルカの首を、アレックスがしめている。

「言葉にするとあっけないけど、一番大切なことだと思う。リーグでは、本当に普段じゃ想像もつかないことが起こったりするんだ」

 リーグ最長歴の和也の言葉には、たくまざる説得力がある。表情を引き締めて、昴は背筋を伸ばした。

「はい。ここまできたら、最後までリーグに立てるよう全力を出すだけだと思ってます」

 連に肩を叩かれた。

「全員で頑張ろう。チーム戦なんだ。ACEに最大火力を出させるのは、俺等の仕事だよ」

「……おう」

 照れ臭げに昴は笑った。
 作戦会議は、夕方には解散した。今夜は練習もお休みだ。各自、束の間の急速である。
 心地よい風に吹かれながら、昴と連は帰路についた。
 遮断機に阻まれて足を止めると、花盛りのハナミヅキに視線を吸い寄せられた。風を切って走る電車が、白い花びらを巻き上げていく。

「お?」

 隣を見上げると、連の髪に花びらがついていた。ちょいちょい、指で手招くと、大人しく腰を屈めた。
 髪についた花びらを摘まんで、風に放す。
 互いを瞳に映して、穏やかにほほえみ合った。
 去年の今頃は、連を失って絶望していた。あの失意の日々から、陽の下へ帰ってきた。
 きらきら、時が輝いている。
 いよいよリーグが始まる――迸る情熱を燃焼させて、全速力で駆け抜けていくのだろう。
 カン、カン、カン、遮断機のあがった先に、熱い闘いの幕あけを見た気がした。




episode.3:TEAM - 30 -


prev index next