BLIS - Battle Line In Stars -

episode.2:TRYOUT - 11 -


 引っ越しを終えた翌日、日曜日の朝。
 瞼の奥に光を感じて、昴は眼を開けた。端正な顔がすぐ傍にあり、一瞬、びくっとなる。
 覚醒と共に、少しずつ事情が呑み込めてきた。昨夜は、遅くまで連の部屋でBLISについて語り、眠くなって部屋に戻ろうとしたら、ベッドに引きずりこまれたのだ。
 普段なら拒むが、あまりにも眠くて、いいやという気になってしまったような……
 自慢ではないが、昴は非常に寝つきがいい。どこでも眠れる自信がある。おまけに連の体温は心地よくて、眼を瞑ったが最後、本当に眠ってしまったのだろう。
 整った顔を凝視していると、伏せた睫毛が震えて、そっと瞼が開いた。不意打ちで見つめ合ってしまい、昴は慌てた。澄んだ瞳が、甘く細められる。

「おはよう」

 寝起きで少し掠れた声に、訳も判らず鼓動が撥ねた。

「はよ……」

 照れ臭くて、顔を直視できない。視線を逸らしたまま返事をすると、額に優しいキスが落ちた。

「ッ!」

「昴、かわいい」

「ッ!?」

 もう、言葉にならない。
 この甘ったるい空気はなんだ。奇声を発しながら、その辺を転げまわりたい衝動に駆られた。
 混乱している昴を見て、連は前髪を掻き上げながら、柔らかくほほえんだ。
 ズドンッ、と心臓を貫かれた。
 そんな甘い表情をするなんて卑怯だ。誰だって心を奪われるに決まっている。

「そんな顔をしていると、襲うよ」

「へ?」

 艶めいた眼差しで見つめられて、昴は音速で視線を逸らした。

「変なこというなよ! 起きるよ、もう……」

 我に返ってベッドを降りると、背中から抱きしめられた。何が起きたのか判らぬまま、頬にキスされる。

「おはよう、昴。好きだよ」

「ッ!」

 へたりこみそうになりながら、昴は小さな声で、俺も、と応えた。
 それが精一杯だ。
 振り向かずに部屋を出ると、自分の部屋に入って、心臓の鼓動の速さに気がついた。
 二人きりの時の連はとにかく甘い。甘くて、甘すぎて、心臓に悪い!
 さっきも、これまでにも、何度も雰囲気に流されそうになっている。
 微妙な気持ちのまま洗面台の前に立ち、顔を洗って、歯磨きを終えると、ようやく落ち着いてきた。
 今日は、朝からゲーミングハウスで練習である。浮ついた空気を醸さないように、気をつけなくては。
 ざっと家事を終えると、連と共に家を出た。
 チームメンバーと練習を始めて一週間。少しずつ、リズムができてきている。
 昴を除く四人は、毎日十時間以上のトレーニングをこなしている。
 現役高校生のルカは、通信制の高等教育を受けているらしいが、彼が勉強している姿を一度も見たことがない。
 昴は、平日は学校が終わるとゲーミングハウスに直行して、練習に混ざる。夜八時に夕食と休憩をとり、その後また二時間ほど練習して、十時過ぎに解散する。
 昴は連と一緒に帰ることが多いが、時々連は残って、コーチや和也とチームの相談をしていたりする。
 休日は、昼過ぎにゲーミングハウスに集合して、四~五時間ほどトレーニングして、夕方五時に他の採用試験トライアウト候補生と練習を交代する。
 実家にいた時は、ゲームしていると親に咎められたものだが、ここでは誰にも止められない。
 Hell Fireの練習量は決して軽くないが、どのプロチームも似たようなものだ。世界には、学校を辞めてプロゲーマーに専念する若手選手が大勢いる。
 毎日同じ顔ぶれでBLISをしているので、チームの雰囲気や、メンバーの特性は大体判ってきた。

 総括する。

 先ず、親友で相棒、恋人である古谷こたにれん
 HNハンドルネームDoubleダブル Faceフェイス。ポジションはMID FIELDER(魔法攻撃の火力担当、チームの司令塔)。
 彼を一言で評するなら、努力する天才だ。
 勤務時間外でもSoloQueue(一人で臨むランク戦)を回し、リプレイに集中する。昴も研究心は旺盛な方だが、連には及ばない。
 チームを率いるリーダーとしては少々寡黙すぎるが、昴には問題ない。なんといっても長年のツレである。
 鍛錬、観察力に優れ、指示も的確なので、チームからも信頼されている。
 批判されることがあれば、真摯に受け止めて、即時に改善しようとする。連はチームで勝利する重要性をよく理解している。
 彼が不機嫌になるとすれば、二対一の不利な状況で昴が先走った時(ついカッとなって……)や、アレックスがしかけるべき時に奇襲しなかったり(理由は後述する)、勝利が確定した瞬間にルカとアレックスが舐めプ(舐めたプレイ)を始めた時くらいだろう。

 次に、ここ最近の悩みの種であるLucasルカdeVabresヴァーブル
 HNはAshアッシュ。ポジションはサポート。
 一見すると天使だが、BLISを始めた途端に性格が変わる。尖ったナイフのように攻撃的になり、声のトーンまで下がる。隣で舌打ちされる度に、昴は脊髄反射で肩が撥ねてしまう。
 ルカはムードメーカーであり、トラブルメーカーだ。相手の気持ちを斟酌しんしゃくすることなく、思ったことはズバッという。戦略的にいえば、彼はゾーンで勝つことに拘るタイプで、BOTゾーンが遅れることを非常に嫌がる。アレックスに頻繁に奇襲を要求しては、よく口論になっている。
 人格者な和也が間に入ってくれなければ、このチームはとうに崩壊しているだろう。

 続いて、最年長にしてチームの大黒柱、大澤おおさわ和也かずや
 HNはFanFanファンファン。ポジションはTOP(タンク担当)。
 Hell Fireは、彼なくしては始まらない。チーム唯一の初期メンバーで、司令塔経験もある大ベテランだ。一度は選手引退してマネージャに転向したが、今季に入って桐生の説得もあり、チーム再建の為に選手として復帰した。選手のピークが二十五歳といわれるBLISにおいて、非常に珍しいケースといえる。
 新生Hell Fireでは、和也は今のところ、チームの成長を促す為に、我を出さず、指示待ち系に徹している。
 安定したプレイももちろんだが、何よりもチームの精神的支えとして貢献している。ルカとアレックスがゲーム中に喧嘩していられるのも、彼がいてくれるおかげだ。

 最後に、AlexアレックスKingキング
 HNはJOKERジョーカー。ポジションはアサシン(奇襲、マップコントロール担当)。
 なんでBLISをやっているのか不明な資産家の御曹司で、容姿端麗な人気ファッションモデルでもある。
 性格は最高にエキセントリックで、BLISを楽しむ天才だ。
 頻繁に味方の要求を無視して独断に走るが、いい流れに繋げることが多い。昴と和也はチームに従順なので、バランスは取れているだろう。彼のように、自分で指示を出し、決断し、アグレッシブで時にはイカれたプレイを実現できる人間が、チームには絶対に必要なのだ。
 それに、ルカをいなしながら堂々とプレイするメンタルの強さにも、心の底から尊敬する。他人を煽りつつ、平和にやっていける天性の社交能力をそなえているのだ。
 アサシン以外のポジションにも長けていて、アサシンが、というよりBLISが上手い印象だ。昴が知る中でも、五指に入る練達者といえる。

 ちなみに、昴のHNはG-manジーメン、ポジションはACE(通常攻撃の火力担当)だ。
 正式メンバーではないので、他のACE候補生と交代でプレイしている。そう、トライアウトを受けるのは昴一人ではないのだ。
 もう一人のACE候補生、椎名奏汰しいなかなたも、ルカとの連携に苦戦していると聞いている。ACEは火力を上げるために、防具を棄ててとにかく武器を積んでいくため、防御力は紙装甲になる。その為、グループアップが活発になる中盤までは、特にサポートに守られながらプレイすることが定石になっている。
 すなわち、ルカとの連携が必須なのだが、これが難しい。
 遊ぶ分には気のいい少年だが、はっきりいって、チームメイトとしては最悪だ。
 我が強く、短気で、味方を疲弊させる。ここ最近は、ルカの顔色を窺いながらプレイしているようなものだ。
 よくない傾向だ。
 今は丸暗記のいいなりでいいが、いずれ応用が必要になってくるだろう。その時、きちんと牙を剥けるのどうか、今の昴には疑問だ。
 連や和也は、少しずつでいいと励ましてくれるが、気が急いてしまう。
 同じ指示待ち系でも、和也と昴では、経験値、洞察力からしてまるで違うのだ。




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