理解が追いつかず、首を傾げる光希の肩に、サリヴァンは大きな手を置いた。

「大丈夫です。*********。貴方はシャイターンの大切なロザインで、彼は貴方のことを*****います。****天幕を畳み、アッサラームへ******。*********、***********」

「僕が……ジュリアスの大切なロザインですか?」

 ふと思う。彼はきっと、光希とジュリアスとの関係を知っているのだろう。同性同士の恋愛について、どう考えているのだろう?

「はい。シャイターンは貴方に******。**************」

 サリヴァンは穏やかにほほえんだ。澄んだ眼差しに、差別や非難の色は一切浮かんでいない。そのことに、光希は思っていた以上にほっとした。

「僕は、アッサラームにいきますか?」

「ええ、******。貴方はシャイターンのロザインなのです**」

「いつですか?」

「*****、********」

 サリヴァンは指を五本立てた。

「明日、明日、明日、明日、明日?」

 光希は明日といいながら、指折り数えた。その仕草を見て、サリヴァンは感心したように目を瞠っている。
 猶予は、あと五日しかないらしい。早くオアシスに連れていってもらわないと……

「ロザイン、貴方は私が******。言葉の***、*************」

「サリヴァン、僕はオアシスにいきたいです。ジュリは、いいって」

「オアシス? ******ですか?」

「僕はオアシスの泉で溺れて……ジュリが、僕を助けて」

「******。ロザイン、何故オアシスへいきたいと*****?」

 探るように訊ねられて、光希は返答に詰まった。
 帰りたいわけではない。ここに残るけじめをつけにいきたいのだが、どう伝えれば良いのか判らない。

「シャイターンが良いと*******、アッサラームへいく前に**********」

 どうやら、ジュリアスに訊いてみろといっているようだ。彼自身は反対しなかったことに安堵しながら、光希は頷いた。

 夕方、サリヴァンの天幕で師事する光希の元に、ジュリアスが迎えにやってきた。

「お帰りなさい」

「ただいま、コーキ」

 ジュリアスは瞳を和ませて、ほほえんだ。愛でるように黒髪を撫でる手を掴み、光希は上目遣いに仰いだ。

「ジュリ、僕、オアシスにいきたいです」

「ええ、****連れていってあげる」

「本当に?」

 嬉しさのあまり、光希はサリヴァンが見ていることも忘れて、自分からジュリアスにすり寄った。距離を詰めて腕に触れると、ジュリアスは光希の腰を引き寄せて、額に素早く口づけた。

「ジュリ」

「さあ、いきましょう。サリヴァン、******」

「いってらっしゃいませ、シャイターン、ロザイン」

 ジュリアスはつばの深い帽子を光希に被らせると、腰を抱いたまま天幕の外に連れ出した。
 外に出ると、ジャファールに手綱を引かれて、懐かしい友達、黒い一角獣のトゥーリオがやってきた。

「トーリオ!」

 長い尾を揺らして、トゥーリオは光希の傍へ寄ってきた。優美な首を垂らして光希にすり寄る。
 光希もわしゃわしゃと耳や鬣(たてがみ)を夢中で撫でた。オアシスでは毎日一緒にいたのに、ここへきてからは一度も会えなかったので寂しかった。
 トゥーリオに乗るのは久しぶりだ。
 ジュリアスは光希を先に乗せると、自分はその後ろに跨るや、手綱を捌いた。
 過ぎゆく景色を眺めながら、天幕の数が減っていることに気がついた。アッサラームの帰還に向けて、撤収準備が始まっているのだろう。
 野営地の端にたどりつくと、大きな飛竜が何騎か用意されていた。周囲には重々しい武装兵達が跪いている。

「コーキ、こちらへ」

 光希は別れを惜しむようにトゥーリオの首を撫でた。天鵞絨びろうどのように滑らかな額に、そっと自分の額を寄せる。

『トーリオ、またね』

 ジュリアスはぽんぽんと光希の頭を叩くと、すっと身をかがめて膝裏をすくい、難なく横抱きで持ち上げた。そのままの体勢で跳躍し、軽々と飛竜の背に飛び乗る。
 またしても、命綱なしにフライトするのかと思うと、光希は少々げんなりした。