優しいキスに、抑えていた気持ちが泉のように溢れてくる。嬉しくて、切なくて、瞼の奥が熱くなった。
 彼も同じ気持ちでいるのだろう。閉じた唇のあわいを、もどかしげに舌でなぞられた。

「コーキ、口を***……」

 何を要求されているのか、判ってしまった。
 顔が少し離れた気配を感じて、恐る恐る瞳を開けると、熱を孕んだ青い双眸に見下ろされていた。心臓が、壊れてしまいそう――

「好きです……コーキ、口を開けて……ね?」

 心臓が尋常じゃないほど、激しく脈打っている。
 出会ってから何度も耳にしてきた言葉の意味が、パズルの欠片を当てはめるように、ぴたりと閃いた。焦がれるような“好き”という気持ち。

「ジュリ……好きだよ」

 同じ言葉を返すと、ジュリアスは息を呑んで光希を見つめた。眩しい笑みを閃かせ、再び唇を重ねる。
 閉じたあわいをなぞられ、おずおずと唇を開くと、熱い舌先がもぐりこんできた。なぞるように歯列を舐められる。
 思わず身体を引こうとすると、頭の後ろを手で固定されて、更に口づけは深くなった。

(うわ、うわわ!?)

 こんなキス、経験したことがない。触れ合うだけの優しいキスも、全部ジュリアスが初めてなのに。こんな奪われるような熱いキス、どう応えればいいか判らない。

「んぅ……っ」

 自分とは思えない、甘えた声が漏れた。羞恥に駆られても、止められない。死んでしまいそうなのに、ジュリアスは逃げ惑う光希の舌をつついては刺激してくる。
 逃げることもできず、酸素を求めて喘いでいると、熱い舌で逃げていた舌を搦め捕られた。水音を立てながら、吸い上げられる。

「――っ、ぅ」

 角度を変えて唇を合わせ、熱いキスを交わすうちに、身体は熱を帯びて昂ってきた。股間があらぬ反応を起こしそうだ。
 もやがかった思考が晴れて、少しだけ冷静になった。
 ジュリアスは離れようとする光希を抱きしめると、好き、と耳元に唇を寄せて甘く囁いた。膝から崩れそうになる光希を抱きしめて、上着を脱がせようとする。
 そういえば、泉に入れといわれた。
 恥ずかしくて、この場から逃げ出したい気持ちが半分、もう半分は火照った身体を冷ましたくて、服を脱いで下履きだけになった。ジュリアスの突き刺さるような視線を背中に感じながら、急いで泉に入った。
 腹まで水に浸かったところで振り向くと、ジュリアスは腕を組んでこちらを凝視していた。
 裸を見て、気持ちが冷めたりしていないだろうか……
 不安になったが、ちりちりと焼けそうなくらい、熱い眼差しで見られているので、心配はいらなそうである。
 視線から逃げるように、首まで水に浸かると、水の冷たさに声が出そうになった。
 朝陽に照らされ、水温は徐々に上がってきているが、まだまだ冷たい。
 水の跳ねる音に振り向くと、上を脱いだジュリアスが泉に入ってこようとしていた。。引き締まった腕や腹筋をつい見てしまい、光希は慌てて視線を伏せた。

『何で入ってくるんだよ……』

 文句を口にしたが、背中に気配を感じた途端に何もいえなくなった。
 取るべき行動を迷っているうちに、後ろから腕を回され、抱きしめられた。
 隙間なく密着しているから、激しい動悸に気づかれてしまいそうだ。だけど、彼も同じだ。背中越しに、光希と同じくらい速い鼓動が伝わってくる。

「コーキ、***、********……好きです」

 ジュリアスの口から、例の言葉が発せられた。前は、復唱するなり唇を塞がれて警戒していたが、今なら……
 同じ言葉を返してみたくなり、口を開きかけたところで、予想外の感触に肩が跳ねた。
 振り返ると、ジュリアスは手にした柔らかな布で光希の首筋を拭っていた。

「……」

 首すじ、肩、腕、指先の一本一本まで、まるで壊れ物に触れるような優しい手つきで拭う。
 息を潜めてじっとしていたが、布が肩から鎖骨をなぞると、思わず身をよじって逃げた。

「コーキ」

 甘く名を呼ばれたと思ったら、肩を抱き寄せられ、うなじに吸いつかれた。

「ん、ぅ……っ」

 肌を滑る布が胸元まで下りていき、寒くて、つんと尖る乳首をくるりと撫でた。腰に甘い痺れが走り、光希は慌ててジュリアスを仰いだ。