アッサラーム夜想曲

『幾千夜に捧ぐ恋歌』





 ― 『幾千夜に捧ぐ恋歌・七』 ―




 言葉に詰まる光希を見て、ジュリアスの双眸に鋭い光が灯った。獰猛な気配――青い燐光が身体から放たれる。

「ジュリ?」

「嫌だ……醒めるな、まだ」

 寝台に押し倒されて、光希が慌てて起き上がろうとすると、強い力で組み敷かれた。

「ジュリ!」

 子供とは思えぬ力だ。信じられないが、二十歳を越える光希の力で抗えない。

「コーキ……」

 襟の中に手が潜り込み、光希はぎょっとした。振り払おうとしたら、逆に腕を寝台に押しつけられた。

「えっ!?」

 戸惑う光希を見下ろして、ジュリアスは唇を戦慄わななかせた。

「夢なのだから……私の好きにしたって」

「夢?」

「……でしょう? こんなことが、実際に起こるはずない」

 そういって、端正な顔をゆっくりと光希の首元に沈める。肩が細かく震えていることに気付いて、光希は抵抗するのをやめた。

「そう、だよね……夢に決まってる」

 幼少時のジュリアスを見てみたいと以前から思っていたから、熱に苦しむ光希を憐み、シャイターンが情けをかけてくれたのかもしれない。
 そう思うと、感情をきとめていた理性は解けた。四肢から力を抜いて、衣装の内で蠢く指先に身を委ねる。

「ん……っ」

 ぎこちない触れ方に、背徳感を刺激されながら、光希は自ら上着を脱いだ。一枚、一枚と脱いでいく姿を、ジュリアスは食い入るように見つめている。

「将来、君は僕と結婚をする。大人になったジュリに、僕は何度も抱かれてきたから……」

 言い訳のように光希が告げると、

「……私が? 貴方を?」

 信じられない、といった顔でジュリアスはたずねた。見つめ合ったまま、光希の方から顔を寄せる。薄く開いた唇を、そっと塞いだ。

「ん、んぅ」

 滑らかな唇を愛撫すると、かき抱くように身体を抱き寄せられた。
 今さっきのぎこちなさが嘘のように、躊躇いもなく、貪るように口内を荒される。唇を食まれ、舌をからめ捕られる。青い瞳に情欲が灯っていた。

「貴方が欲しい」

「それはちょっと、早いんじゃないかなぁ……」

 肩を掴む手を外し、光希は逆にジュリアスを寝台に押し倒した。潤んだ双眸が、戸惑ったように光希を見上げてくる。何をされるのか判らない、という顔を見て背筋がぞくっとした。
 下肢に触れると、そこはしっかりきざしていた。布の上から屹立を撫でると、ジュリアスは小さく息を呑んで、腰を引き気味にした。

「今夜は、僕がしてあげる……いいかな?」

「え……」

 下履きに手をかけると、ジュリアスは慌てたように光希の腕を掴んだ。

「……夜の習いは、まだ?」

「は、い」

 俯く顔を見て、光希は少し頭が冷えた。

「……やめておく?」

 勢いよく顔を上げたジュリアスは、首を左右に振った。

「離れては嫌です。もっと、触れて欲しい。私も貴方に触れたい……こんなに、綺麗な肌に……」

 恐る恐る伸ばされる手に、光希は身を任せた。光希と殆ど変らない大きさの手が、遠慮がちに首すじや腕に触れてくる。

 好きに触れさせながら、光希もジュリアスに手を伸ばした。服に手をかけても、素直に腰を浮かせて下履きを脱ぐ。ふるりと屹立が零れると、恥ずかしそうに視線を揺らしたものの、光希の手を拒もうとはしない。
 嫌がる素振りはないことを確かめながら、光希はゆっくり顔を沈めた。
 普段は殆どさせてくれないが、夢の中のジュリアスは素直だ。まだ幼い性器に息を吹きかけると、艶めいた吐息を漏らした。

「なんか、すごくいけないことをしている気分……」

「こ、コーキ?」

「舐めてもいい?」

 下から見上げるように訊ねると、ジュリアスの眼元にぱぁっと朱が散った。期待の籠った眼差しを見て、光希はほほえんだ。

「ん……ッ」

 丸い亀頭に口づけただけで、ジュリアスの腰は撥ねた。指で優しく擦り上げると、甘い声を漏らして快感を堪える。
 そろりと舌を這わせると、落ち着かない、といったようにジュリアスは光希の髪に指を潜らせた。

「ひもちいい?」

 口内に含みながら上目遣いに訊くと、ジュリアスは上気した顔で首を縦に振った。初めての口淫は刺激的すぎたのか、口に含んだだけで、吐精寸前まで追い込まれているようだ。

「ん、ん……」

 鈴口から滲んだ雫を舐めとり、更に狭い蛇口を舌で突いた。
 味わうような代物ではないはずなのに、夢でもうつつでも変わらずに、不思議と仄かな甘みを感じる。

「コーキ! いけません」

 輪っかにした指で竿を扱くと、ジュリアスは勢いよく腰を引かせた。

「いいよ、出して」

「で、ですが」

 口から離れた屹立を、光希が指でつと撫でると、ジュリアスは腰を震わせて吐精した。熱い飛沫が、光希の手を濡らす。

「すみませんッ」

 焦ったように、脱いだ上着で光希の手を拭うジュリアスを見つめながら、光希はほほえんだ。

「気持ち良かった?」

「それは、もう……! コーキは、このようなことを、どこで……いえ」

 どこか悲壮な顔を見て、光希は片手を預けたまま、空いた手で金髪を優しく梳いてやった。

「初めての口づけも、肌に触れたのも……全部ジュリが初めてだよ。いつの日か、成長した君と僕は出会って、恋をするんだ」

「私と……本当に?」

「本当に」

「夢でなければ、どんなに……」

「また会えるよ。約束する」

 額に口づけると、ジュリアスは哀しそうな顔をした。寝台を降りようとする光希を後ろから抱きしめて、寝台に引き戻す。

「いかせない」

「ジュリ」

「私の作った幻であるなら、ここに留まれ!」

 強い口調で命じるジュリアスを見て、光希は身体の芯が震えるのを感じた。動きを止めた僅かの間に、彼は光希を寝台に組み敷いた。




『幾千夜に捧ぐ恋歌』


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