アッサラーム夜想曲

『響き渡る、鉄の調和』





 ― 『響き渡る、鉄の調和・九』 ―




 沈黙――
 硝子照明の奥で蜜蝋が揺らめいている。淡い黄金色に照らされたジュリアスの横顔は、幽玄的な美しさに満ちていた。

「あの、さ」

 言葉は意味をなさなかった。うなじを引き寄せられ、抗う間もなく唇を塞がれた。

「んッ!」

 胸を押し返すと、ジュリアスはゆっくり顔を離して、光希の頬を両手で包みこんだ。熱の灯った青い瞳で、静かに見下ろす。眉根を寄せる光希を抱き寄せ、耳元に唇を寄せる。

「これほど心配をかけさせて」

 耳朶を甘噛みされて、息を吹き込まれた。身体の芯が甘く痺れて、全身に震えが走る。
 口を開く間もなく、再び唇が降りてきた。
 甘く食むように啄まれたかと思えば、荒々しく貪られる。くずおれる身体を、逞しい腕に攫われた。
 縋りつく光希の顎を、ジュリアスは指で持ち上げる。視線が唇に落ちて、期待するように開いてしまう。すぐに熱い舌が挿入はいってきた。

「んぅ」

 逃げ惑う舌をからめ捕られ、強く吸われた。
 反射的に逃げ出そうとすると、後頭部を丸く包まれて、口づけは増々深くなる。
 想いの深さを刻むようなキスに、思考が蕩けていく。
 ようやく唇が離れると、身体に全く力が入らなくて、ジュリアスの胸にもたれかかっている状態だった。
 吸われて、腫れているであろう唇を、ジュリアスは満足そうに指でなぞっている。
 端正な顔を下から仰ぐと、いつもとは違う銀糸の髪が視界を覆った。一房に指を絡めると、その指先にジュリアスは唇で触れた。

「光希……」

 名を呼ばれただけで、胸が高鳴る。
 強引なキスを仕掛けてきたのに、許しを請うような瞳で見つめられて、光希は喉を鳴らした。

「汗、掻いたから……」

 視線を逸らすと、頬を手の甲で撫でられた。

「一緒に入ればいい」

 返事をするよりも早く浴室に連れ込まれ、服を剥かれた。湯はたっぷり張られており、白い湯気が立ち昇っている。
 引き締まった淡い褐色の肌を見て、光希は顔を伏せた。
 久しぶりに顔を見たせいだろうか? 淡い照明の下で、裸体を晒すことが恥ずかしい。つい両手で前を隠してしまう。
 恥じらう光希と違って、ジュリアスは堂々としている。光希の様子を眺めて、瞳で愉しんでいるようだ。ゆっくり手を伸ばすと、濡れた肌に手を滑らせて、胸に唇を落とした。

「ん……ッ」

 凝る先端を舐められ、柔らかく吸われる。鼻にかかった甘い声が、浴室に残響こだました。
 熱い舌が、尖った乳首をねぶる。何度も嬲られ、身体は火がついたように炙られた。
 中心がぐぐっと持ち上がる。重く、熱の溜まり始めた下肢に、ジュリアスは指を伸ばした。長い指が絡みつき、やんわりと揉みこまれる。

「んっ」

 跳ねる身体を愛おしそうに抱きしめた後、ジュリアスは顔を上げて、首筋に吸いついた。
 愛撫されながら、光希もおずおずと手を伸ばした。そこは、しっかりときざしていた。
 幽かな吐息を聞いて、身体が昂る。あっという間に追い上げられてしまいそうだ。

「ちょっと、待って」

 いくらなんでも早すぎる。光希は身体を引こうとしたが、ジュリアスは聞こうとしない。追い上げるように、濡れた先端を指で揉みこんでくる。

「ジュリ!」

「我慢しなくていい」

「ッ!」

 そう囁いたジュリアスに、艶めかしく中心を扱かれる。突き抜けるような快感に攫われて、光希は放熱を遂げた。
 くたりと力の抜けた身体を、ジュリアスはきつく抱きしめた。
 宥めるように背中を撫でていた掌は、ゆっくり下へと降りていき……双丘を割開くように尻の形を変えた。

「ん」

 蕾を押し込むように指先で触れられて、光希は戸惑いながら、ジュリアスの腕を掴んだ。

「……待って、まだ中を洗ってないから」

「してさしあげる」

 ジュリアスは耳朶を食みながら、妙に丁寧な言葉で囁いた。

「え……」

「今夜は私にさせて。心配をかけさせた罰です」

「で、でも」

 これまで、後ろの準備をジュリアスにさせたことはない。迷っているうちに、ぬめりを帯びた指先が潜り込んできた。薔薇の精油に浄化石の粉末粉を解いたものを、内壁に塗り込められる。腸の洗浄作用もあり、光希は普段、夜になる前に密かに処理をしていた。まさか、彼に手ずからされるとは――

「まって、嫌だ!」

 強く暴れると、片腕で腰を痛いほど引き寄せられた。

「いいから」

「それだけは、嫌だッ」

 腸内を洗われている。羞恥に眼が眩みそうだ。

「暴れないで。いらぬ怪我をしますよ」

 涙目になっている光希の頬やこめかみに、宥めるように口づける。逃がすつもりはない。ジュリアスの本気を感じ取り、光希は真っ青になった。

「ちょ、やだって。こんなこと……ッ……やだよ、自分でするから」

「駄目」

 中を洗浄する指は、遠慮の欠片もなく内壁を掻いた。卑猥な動きで、光希の弱いところをすりあげる。

「うぅ……やだって、やだぁ」

 切羽詰まった声で震える光希を、ジュリアスは欲情に濡れた瞳で見つめた。

「綺麗になってきた。かわいいな、感じてしまった?」

 酷いことをされているはずなのに、身体はしっかりと反応していた。瞳の端に涙が滲む。
 片足を抱え上げられて、あられもない恰好をさせられる。身体の中をまさぐる指は、容赦なく光希を追い込んだ。

「うぁ……ぁ……ッ」

「光希」

 指先が、一点を掠めて、光希は嬌声をあげた。顔を背ける光希を見つめて、ジュリアスは愛おしそうに名を呼ぶ。
 身体をよじって逃げようとすると、肩を引き寄せられ、壁に追い詰められた。タイルに手をつくと、光希は縋るように振り向いた。
 濡れた視線が絡む。
 彼の手で、中はすっかり綺麗にされてしまった。もはや指は別の目的を持って、隘路あいろを抜き差ししている。

「あ、んっ」

 唇を塞がれながら、猛った切っ先を後孔に宛がわれた。
 圧倒的な質量が、慎重に押し入ってくる。きつい挿入を労わるように、光希の顔にキスの雨が降る。
 最奥まで楔を埋め込まれると、つい腰は逃げを打った。すぐに引き戻され、緩く穿たれる。

「んぁ」

 生理的な涙を零す光希の頬を、ジュリアスは舌で舐め上げた。
 戦慄わななく唇を舐めて、震える身体に覆いかぶさり、きつく抱きしめる。鼓膜を破りそうなほどに、心臓が拍動している。
 ゆっくりと身体を揺すられて、中が熱く蠕動ぜんどうし始めた。
 引き抜かれる度に、快感がもたらされ、脈打つ楔を締めつけてしまう。艶っぽい呻き声を聞いて、光希の身体は昂った。
 精を吐いたばかりなのに、もう芯を帯びて震えている。
 個室に響く音が、やたらと大きく聞こえる。耳を塞ぎたい念に駆られるが、後ろから身体を揺さぶられて、そんな余裕は消し飛んだ。

「あぁ、んっ!」

 勃ち上がった性器から、熱が溢れるのを感じる。快感に飲まれて手を伸ばそうとすれば、叱るように絡め取られた。

「放して、もう」

 息を喘がせていると、もう少しだけ、と耳朶にささやかれた。首を振ったが、ジュリアスは構わずに律動を続ける。
 前後不覚で溺れかけた。
 快感の波にさらわれて、もはや何も考えられない。荒い呼吸の中で、昇り詰めることだけに全ての意識を持っていかれる。

「あっ」

 ジュリアスは光希に挿れたまま、体勢を変えた。床に胡坐を掻いて、上から光希を下ろす。
 顔が近づいたと思ったら、噛みつくように唇を塞がれた。
 夢中で舌を絡ませていると、少し乱暴に性器を擦り上げられた。卑猥な手つきで上下に擦られて、喉から嬌声が迸る。

「や、やだ、って……もうっ! んぅ」

 蹂躙されながら、前を扱かれる。舌を搦め捕られ、強く吸われた瞬間、堪らずに放熱を遂げた。
 最奥にも熱い飛沫を感じる。濡らされて、震える身体を、青い双眸が眺めている。
 荒い呼吸が続く。
 引き抜かれる感覚に、鼻にかかった甘い声が漏れた。
 抜いた後も、ジュリアスは光希の肌を慈しむように唇で触れた。何度も、何度も――




『響き渡る、鉄の調和』


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