アッサラーム夜想曲

『神の系譜』 - 光希 -





 ― 『神の系譜・四』 ― 光希




「判ったよ……僕の不満は知っての通り、ザインへ行くことを認められないことだよ」

「はい」

 真っ直ぐな視線を向けるジュリアスを見て、光希も気持ちを切り替えて姿勢を正した。

「啓示の内容に進展があったよ。捕えられているリャン・ゴダールは、シャイターンの系譜に関わる者かもしれない」

「リャン・ゴダールが?」

「憶測だけど……彼の子供か、或いは彼の血筋に“宝石持ち”が生まれるのかもしれない」

「どのような啓示なのです?」

「うつ伏せで、リャンの顔はよく見えないんだけど、額の辺りに青い輝きが見えるんだ」

「……それだけ?」

 軽んじる口調に、光希は少々たじろいだ。ジュリアスが口を開く前に、慌てて言い募る。

「でも、薄暗い部屋で、そこだけぼんやりと光るんだ。ジュリやサリヴァンのように“宝石持ち”を暗示しているのかも」

「なぜ……」

 形の良い唇を戦慄わななかせ、深刻そうに呟いた。光希が眼を瞠る中、ジュリアスの身体から青い炎が揺らめく。

「ジュリ?」

「まさか……その啓示は、光希を他の“宝石持ち”に引き合わせる為?」

「えっ」

 予想外の話の飛躍に、光希は言葉を詰まらせた。
 どうしたら、そんな発想になるのだろう……いや、呆けている場合ではない。珍しく動揺しているジュリアスの頬を、光希は両手で包んだ。

「僕はジュリだけの花嫁ロザインだよ。シャイターンは“宝石持ち”の存在を公にしたくないから、僕に伝えたんじゃないかな」

「“宝石持ち”の存在?」

「違った。“宝石持ち”が生まれるかもしれない、家系の人」

 深刻そうに呟くジュリアスを見て、光希は慌てて言い直した。

「そうだとしても、なぜ光希が行く必要があるのです?」

「啓示を受けたのは、僕だから……」

「事情は判りました。光希に代わって、私が彼を助けましょう。陛下から軍を発する許可も、正式に頂きましたし」

 ジュリアスは頬を包む光希の手を外すと、強い意志の光を瞳に点して、光希を見つめた。

「でも、僕も招待されているんでしょう? いないと判れば、不信を招くよ。その上、軍を差し向ければ警戒を煽るだけだと思う」

「心配しなくても、牽制が主な目的ですよ。有事には、その限りではありませんが」

「そういうのを脅迫っていうの。ほら、ジュリだけで行けば、いかにも軍事介入になる。だからさ……僕という花嫁がいれば、向こうの印象も大分変るはずだよ」

 外された手を、今度はジュリアスの肩に置いて膝立ちになった。瞳に力を込めて見下ろすと、ジュリアスは厳しい表情を浮かべた。

「光希を政治に利用するのは、好ましくありません」

「何を今更。ジュリにも言えることでしょ。いいんだよ、利用してくれて。偶像のようなものだし」

「偶像ではありません! 貴方は天上界でも最高位の御使い、シャイターンの花嫁であり、私の花嫁ですよ?」

「そうだね……」

 出た、と思いながら光希はやや投げやりに相槌を打った。不服そうに、ジュリアスは「事実です」と返す。

「とにかく、僕とジュリが一緒に行けば歓呼で迎えられるよ。抗争にも歯止めをかけられるかもしれないよ」

「それは、そうでしょうけれど」

「リャンは本当に危ういんだ。酷い状態で捕らわれていて……早くしないと、死んでしまう。彼を助ける為にも、やっぱり花嫁の存在が必要だと思うよ」

「ならば、身代わりを立てます」

「身代わりぃ?」

 思わず胡乱げな声が出た。訝しむ光希を見上げて、ジュリアスは真顔で首肯する。

「誰でもいい。光希でなければ」

「僕を知っている人がいたら、どうするの?」

「車や紗の中から、みだりに出なければいい。人前に立つ時もベールをかけていれば、顔を見られずにすみますよ」

「そんな手間をかけるなら、僕を連れて行こうよ!」

 揺さぶってやりたい衝動を堪えて喚くと、ジュリアスは嫌そうな顔をした。

「光希を連れて行きたくありません」

 つまるところ、彼の本音はその一言に尽きる。




『神の系譜』 - 光希 -


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