アッサラーム夜想曲

『再会』 - 光希 -





 ― 『再会・四』 ―




 光希は散々泣いた後、ナフィーサの手を借りて顔を洗い、その間にジュリアスは汗を流しに行った。
 一人で寛いでいると、ジュリアスは身軽な格好で戻ってきた。サーベルはいているが、上は襟の開いたシャツ一枚だ。

「髪、濡れてるよ」

「食べているうちに、乾きますよ」

「ジュリ、髪伸びたねー」

「そうですか? この間、切ったばかりですよ」

「後ろで結わけそう」

 二人して、窓辺に敷かれた絨緞の上に胡坐を掻くと、ナフィーサや召使達が食事を運んできた。ジュリアスはナフィーサを見て、僅かに眼を瞠った。

「ナフィーサも、少し見ないうちに背が伸びましたね」

「そうでしょうか?」

 ナフィーサは恥ずかしそうに、はにかんだ。

「成長期だね。いっぱい食べな」

 光希が言うと、ナフィーサは嬉しそうに笑った。

「はい、いただいておりますよ。さあ、温かいうちに、どうぞお召し上がりください」

 絨緞の上には、湯気の立つ料理がたくさん並んでいる。豪華にし過ぎないように、と言っておいたのだが、効果があったかどうかは怪しい。
 祝杯用の葡萄酒で乾杯した後、早速ふわふわしたオムレツをつついていると、隣でジュリアスの笑う気配がした。

「相変わらず、卵料理が好きですね」

「うん。いくらでも食べられる自信がある」

「飽きませんか?」

「飽きないねー。シンプルな目玉焼きとか、卵焼きも好きだよ。“目玉だらけ焼き”とか食べてみたいな」

「“目玉だらけ焼き”?」

 不思議そうに聞き返しながら、ジュリアスも料理に手を伸ばした。まっさきに手をつけたのは、鳥を丸のまま焼いた豪快な料理だ。

「そう。ねぇ、ナフィーサ、今度作ってよ。鉄板で、ひたすら目玉焼きを作ればいいんだよ」

「なんですか、その偏った料理は……」

 ナフィーサは嫌そうな顔をした。

「目玉焼き祭りだよ。ジュリ、野営の食事はどうだった? ちゃん食べてた?」

「食べていましたよ。国門のおかげで、補給も安定していましたから」

「そっか。良かった」

 ジュリアスの頬に髪が流れる様子を見て、光希はふと閃いた。

「食べ辛くない? これで結わいたら?」

 工房でよく使っている革紐を渡すと、ジュリアスは器用に後ろで一つに結わいた。

「おぉっ」

 髪を結わいたジュリアスも、とても恰好いい。恋人の新鮮な姿に眼を奪われていると、食べやすい、とジュリアスは喜んだ。

「髪って、誰が切ってくれたの?」

「自分で切りました」

「へぇ、器用だね」

「昔は身の回りを、従卒に任せていましたけれど、最近は自分でやる方が気楽で……特に戦場では」

「僕なんか、ナフィーサに任せっきりだよ」

 ジュリアスは笑った。給仕しているナフィーサも、忍び笑いを漏らしている。

「でも、ここへきてから、人のお世話はかなり上手になったよ。あれ……僕、ジュリと一緒に戦場行けるんじゃない? 従卒ってことでさ……」

「光希が従卒なら、喜んでお世話してもらいますよ」

 光希は目を輝かせた。割と本気でいい案だと思ったのだが、冗談です、とあしらわれてしまった。

「あとはもう、アッサラームへ帰るだけですから。出番はありませんよ」

「……帰った後は?」

 声に滲んだ不安を感じとり、ジュリアスは光希を振り向いた。青い双眸を和らげ、安心させるように微笑む。

「しばらく、執務に専念しますよ。じきにアースレイヤが即位します。あれで、政戦両略せいせんりょうりゃくに優れていますから、東西衝突を上手く避けるでしょう」

 そうだといい……アッサラームへ帰ったら、ジュリアスとお屋敷でのんびり過ごしたい。またピクニックもしたいし、街へ繰り出してもいい。
 それから、クロガネ隊勤務に戻り、アルシャッド達とくろがね細工の受注も再開するのだ。やりたいことは、いくらでもある。

「戻ったら、のんびり過ごしましょうね」

 二人して、同じようなことを考えていたらしい。光希は幸せを噛みしめながら頷いた。




『再会』 - 光希 -


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