HALEGAIA

7章:楽園コペリオン2 - 6 -

 瞬きひとつで、鳥籠の半二階の褥に移動した。陽一が言葉を発する前に押し倒し、両手で顔を包みこむ。額に、瞼に、頬にキスをして、目を覗きこめば、潤んだ黒い瞳にミラが映っていた。ゆっくり顔を近づけていき……くちびるを重ねる。その柔らかさを感じながら、軽くひっぱった。
「ん……」
 甘い吐息に情欲を刺激されて、息もつかせぬキスをした。くちびるをみ、舐めて、そっと歯をたてると、腕のなかで陽一が震えた。
 ここは完全にミラの支配下で、とざされた世界で、鳥籠での淫蕩な日々が脳裏によみがえり、陽一が腕のなかにいて、情欲を刺激されて堪らなかった。
「陽一は覚えている? ここで僕とどんな風に過ごしたか……」
 くちびるを触れあわせたまま囁くと、陽一はくぐもった声で応えた。
「……忘れたくって、忘れられないよ」
「僕も……」
 舌をねっとり搦めて吸いあげると、陽一もミラに腕を回し、しがみついてきた。ミラは陽一の髪のなかに手をさしいれ、後頭部を掌で支えながら、ぐっと腰を押しつけた。甘い唾液を味わいながら、やわらかな口腔を舌で突いて愛撫する。
「ん、んっ……」
 子猫みたいな声をあげながら、陽一が応えてくれるのが嬉しくて、かわいくて、愛おしい。服のしたに手を忍ばせると、陽一は目を開けて、不安そうな顔をした。嗚呼、ぞくぞくする。
「陽一……」
 大切にしたいと思うのと同じくらい、貪り尽くしたいと思う。心の天秤を平衡に保とうとしても、眉を寄せて潤んだ瞳をしている陽一を見ると、嗜虐芯を煽られる。
「脱がせていい?」
「……」
 無言の了承を得て、ミラは陽一の下腹部に手を伸ばし、下着ごといっぺんに脱がせた。
「わ、わ」
 慌てる陽一を、自分の躰で押さえつけたまま、耳殻にちゅっとキスをすると、触れている頬は燃えるように熱くなった。いい匂い。薄い肌のしたを流れる甘い血が香る。乱暴に牙を突き立てたくなるのを堪えて、丁寧に上も脱がしていく。そうしようと思えば一瞬でできることだが、脱がす過程も情緒があって良い。恥じらったり、緊張する陽一を見るのが好きだ。
「綺麗ですよ、陽一」
 裸体を称賛すると、陽一は目を瞠ったあと、すぐに視線を逸らした。ミラも服を脱ぐと、素肌を重ねた。ゆるやかに喘ぐ胸に手を這わせれば、ぴくっと陽一が反応する。
「冷たかった?」
「……ううん」
「……触るよ……」
 指で鎖骨をたどり、胸へとおりていき……色づいた乳首を掠めると、陽一は身を強張らせた。
「声、だしていいよ?」
 頸を伸ばして、固く閉じた唇の横にキスをする。
「……ぅん」
「いっぱい聞きたいな……陽一の甘い声」
 視線をあわせると、ぱっと反対側に顔を倒した。いちいち反応がかわいい。照れていても、素直な躰はミラに応えようとしている。そっと乳首を摘まむだけで、期待に震えている。
「……気持ちいい? もう硬くなってきた。舐めて溶かしてあげようか?」
「っ、ぅ~~……っ」 
 嬌声を堪えようと必死なようだが、いつまで我慢できるだろう? 親指で円を描くように乳輪に触れると、背を弓なりにして、膨らんだ乳首を主張してきた。
「っ、んん……いいよ……っ」
「ん……? してほしいってこと?」
「っ、いらないってこと!」
 ミラは微笑を浮かべたまま、指先で乳首を弄んだ。くにくにと摘まみ、親指で転がして、指の合間に挟みこんで刺激した。愛撫しながら、びくびく撥ねる躰をしばらく目に愉しんだ。陽一はまだ声を我慢している。ミラの方が我慢できなくなり、ぽっちりした乳首をくちに含んだ。
「ぁん! ぁ……ッ」
 とうとう陽一は、甘い声を迸らせた。ぱしっと音がでるほど強く、自分の手でくちを押さえている。
 そんなに焦らなくてもいいのに――ミラはくすっと微笑しながら、つんと勃ちあがった乳首を舌で舐めあげた。くちびるで挟みこみ、軽くひっぱりながら、舌で突いてやる。もう片方も指先にいらいながら、舌を搦めて優しく吸いつくと、陽一は焦ったように腰を引かせた。
「……気持ちいい?」
 表情を確認すると、陽一はくちを少し開いて、息を喘がせていた。ちらとのぞく赤い舌に誘われて、ミラは顔を近づけていき、舌を挿れながらくちびるを重ねた。
「ふぅ、ん……っ」
 くぐもった声をあげながら、陽一もキスに応えてくる。本人も無意識なのか、腰が揺れている。ミラも硬く滾る熱塊を押しつけて腰を揺らした。淫らなダンスのように。焦れったい刺激が堪らない。もっと陽一を乱れさせたくて、少し乱暴に腰を掴んで、熱を帯びた股間に顔を近づけると、
「ミラッ」
 焦ったように頭を押さえつけてくるが、なんの抵抗にもなっていない。脚を左右に割り開き、ぶるっと揺れる屹立をべろりと舐めあげた。
「っ、やばっ……でちゃいそ……っ」
「……いいよ」
 感じやすくてかわいい。快楽に弱いところも好きだ。ぷるぷるしている陽一がすごくかわいい。時間をかけて痴態を愉しみたくて、じっくり攻めることにした。性器をつぅ……と舐めおろし……蜜袋を舌であやすように揺らしてやる。
「はぅっ、ぁっ……うぅ、それっ、やめて」
「気持ちいいでしょう? ……ほら、陽一の匂いが濃くなった」
 蜜袋に鼻をぴったり押しつけ、すぅーっと息を吸いこむ。と、陽一が悲鳴をあげた。
「やめろッ! 恥ずぃ!」
 暴れる脚をぐっと掴んで固定し、会陰えいんをねっとり舐めあげ、開いたくちびる全体で吸いつく。陽一は照れて喚くが、その声は甘くて淫らだ。
「んっ、ぁ、あん……っ」
 痴態を目と耳で愉しみながら、敏感な孔の縁に指で触れると、柔らかく綻んでいた。
「……ねぇ、自分で準備したの?」
「っ、……別に……」
 ぱっと脚を閉じようとするが、逆にミラの顔を挟みこんで狼狽えている。くすくすとミラは笑いながら、両の親指で孔を広げてみた。
「ん……ソープの匂い……いい子だね、なかも綺麗にしたんだ?」
「……だって、触ると思ったし……っ」
 もじもじしている陽一がかわいい。さぁて、どんな風に啼かせてやろうか……考えながら、つん、と秘孔を舌で突く。ひくひくしている……妖しき花の蕾を連想させるそこに、むしゃぶりついた。
「くふぅぅンっ!」
 逃げようとする躰を押さえつけて、じゅるるっ、淫らな水音をたてて吸いあげる。ぬっぬっと舌を挿しいれるたびに、媚肉がうねって、濡れていく。ソープの匂い、ローションの味もするが、ちゃんと陽一の味もする。夢中になるあまり、一瞬世界中の音が消えたが、
「……ミラ……ッ!!」
 切羽詰まった声が聴こえて、ミラは顔をあげた。切なげに震えている屹立に舌を伸ばし、優しくあやしくやる。
「もぅ、や……っ」
 ちらと上目遣いで表情を確かめると、眉を寄せて、真っ赤な顔をしている。
「はぁ、かわい……」
 ご褒美をあげよう。陽一自身を、深く咥えこんだ。ゆっくり喉奥まで。突いてくれてもいいのに、陽一のおねだりは遠慮がちだ。もっと欲しがってほしい――ミラは決定打は与えずに、ねっとり舌を搦めて淫靡な水音をたてながら、しゃぶり続けた。
「っ、ん……やぁ、ミラ……っ」
 ほらもっと腰を振って、喉を突いてごらん――誘うように、ゆっくり顔を上下させていると、陽一の躰が痙攣し始めた。喘ぎ声は半分すすり泣きで、殆ど言葉になっていない。ちょっと虐め過ぎたかもしれない。
「……いいよ、イッて。陽一、イッてごらん……ッ」
 絶頂に導くための本気の口淫をする。じゅるるっと音をたてて舐めあげ、舐めおろし、指で蜜袋を柔らかく揉みしだくと、陽一は瞬く間に昇りつめた。
「ぁッ、あぁっ! ぃッ、イくッ……!」
 吐精しながら、ぴくぴくと細かく痙攣している。その間もミラは手と舌を動かし、絶頂の余韻を導いた。びゅくっびゅくっと断続的に噴きあがる熱い精液を、舌で味わいながら喉奥に流しこんでいく。蜜袋を優しく親指で擦りながら、蜜口をちゅぅっと吸いあげると、ぴくんと性器が震えた。
「ぁん……」
 ――なんて甘い声。
 今のは腰に響いた。思わず陽一の顔を見ると、気持ち良さそうに、とろとろに溶けていた。
(はあぁ……かわいい……っ)
 危うく射精しそうになったが、先ずは陽一のなかにだしたい。身を屈めて、陽一の胎に飛び散った精液を舌で舐めとっていく。全部舌で舐めて綺麗にしてから顔をあげると、弛緩した躰を引き寄せ、膝裏に腕をさしこんだ。ガチガチの勃起を押しあて、ひくつく後孔にキスをする。
「挿れるよ……っ」
 そこはしたたるほど濡れていて、あてるだけで熱塊が飲みこまれていくようだった。堪らず、一気に押し入ると、陽一はびくんッと仰け反った。
「ッ、ひっ……ミラ……ッ」
 たっぷり濡れているけれど、ハッ、ハッと陽一は犬のように息を喘がせている。繋がった躰から鼓動の強さが伝わってくる。急にだ。陽一の心臓が破裂しそうなほど動悸しているので、ミラは少し心配になった。
「大丈夫……?」
 呼吸が整うのを待とうか……じぃっと見ていると、潤んだ瞳からぽろっと涙がこぼれ落ちた。思わず舌で舐めとると、涙の味が舌の上に拡がった。澄み透った愛おしさ、淫らな官能の味がする。
「陽一っ!!」
 慰めのつもりが逆に興奮してしまい、我慢できずに腰を押しだした。
「あぅッ! ぁっ、ふッ」
 逃げないように陽一の躰を両腕で掴み、浅く深く、緩急をつけて突きあげる。陽一が感じるところに狙いを定めて、艶めかしく腰を遣った。次第に喘ぎ声も強くなっていく。
「んぁっ、ふぁン! ぁ、あ、あっ、あぁッ! ぁんんっ!」
 甘い官能の声。脳髄を揺さぶられる。聴いているだけで絶頂しそうだ。
「あぁ、陽一、気持ちいいよ……っ」
 グンッと穿つと、陽一の躰は、稲妻に貫かれたかのようにびくんッと撥ねて、波打った。吐精もせずに達したのだ。
(あぁ……陽一……っ)
 吸血衝動を堪えきれずに、ミラは悪魔の幻惑を脱ぎ捨て、汗でしっとり濡れた頸筋に牙をたてた。
「ああぁあッ!」
 陽一が悲鳴のような嬌声をあげる。
 バサッ……獲物を囲うように、ミラの悪魔の翼が拡がる。絶対に身動きできないよう、けれども傷つけないよう絶妙な加減で柔らかな躰を押さえつけたまま、血を吸った。勢いよく吸わないよう気をつけながら、深く、ゆっくり。
(美味しい……信じられないほど……)
 ようやく味わうことができた。この瞬間をずっと待っていた。
 陽一の心臓の音が聴こえる。熱い血潮の流れ、馥郁ふくいくたる香り、心地よい命の暖かさ。
 陽一の感じている官能を、ミラもまた感じていた。全器官、全皮膚を濁流のように揉む感覚、深い快楽けらく。罪深い魔性の大快楽を。
 吸血しながら、ゆっくりと腰を遣い始めた。乱暴にはせず、くんっ……くんっ……と優しく突いてやる。
「ぁ……あ、ん……はぁ……っ」
 陽一も気持ち良さそうだ。目を閉じたまま、妖しく身をくねらせ、快楽を貪っている。
 しばらくミラは、悪魔らしからぬ優しいゆっくりとした動きで陽一を揺らしていた。いつまでもそうしていたかったが、これ以上の吸血はよくないと思い、仕方がなく唇を離した。
「……はぁ、ごちそうさま」
 牙を抜いたあとも、名残おしくて、咬み痕に舌を這わせてしまう。血が滲まなくなり、傷が塞がり癒えても、しばらく舐めていた。
 ようやく顔を離すと、とろんとした目の陽一を見おろし、ほほえんだ。感謝の気持ちをこめて、陽一の鼻の頭にキスをする。
「ありがとう、陽一……美味しかった。もうちょっとだけ、つきあってね」
 身を起こしたミラは、気だるげに髪をかきあげ、陽一の腰を掴み直し、ふっ、と息をついた。それから、少しだけたがを外して腰を穿ち始めた。
「ッ!? あっ、ぁん、んッ、はぅッ、んっ!」
 悪魔が全力でセックスしたら、華奢な人間の骨格は粉々になってしまう。加減は必要だが、全身に金色こんじきを纏う陽一なら、少しくらい無理しても受けとめてくれる。
 彼は、ミラの魂の共鳴者だから。
 陽一の発する金色こんじきの声は、薔薇のように熱く感じる。信じられないような感覚。快感。金色燦然こんじきさんぜんとしていて、酩酊している感覚。
 のけぞる陽一の腰を掴み、臼挽うすひのようにぐるりと腰を回してから、グンッと突きあげる。
「あぁぅッ! はあぁ~~……っ」
 陽一は蕩けきった声をあげて、つま先をぴくぴくと痙攣させた。脳が白くけるような絶頂――ぎゅうぅっと媚肉がうねり、ミラを締めつけた。
「はぁっ、気持ちい……だすよ、陽一のなかに……っ」
 ミラは、二度、三度と腰を強く打ちつけて、陽一のなかに熱い飛沫を解き放った。