FAの世界

4章:百花繚乱 - 2 -

 顕れた男は、黒地の綺羅錦繍きらきんしゅうに身を包み、一瞬、黄金の仮面をつけているのかと思ったが、そうではなく、肌も髪も黄金きん色なのだ。比類なき眸は、黄金に象嵌された熱い紅玉髄カーネリアンを思わせる。
 色彩のコントラストに目を奪われるが、かくも神秘的な美しいかんばせをしている。超俗の美貌。全身が武器のような、戦士を思わせるたくましい長身体躯で、威圧感がある。
「そなたが水晶領の支配者か。“千の仔を孕みし水晶子宮ファルル・アルカーン”の異称を冠するには、随分と幼い外貌をしている」
 言葉を理解できることに、虹は目を瞠った。これも水晶核の叡智のおかげだろうか?
 黄金の仮面めいた錬金術師の顔から、尊大で冷たい紅玉にひしと見つめられながら、虹はくちびるを戦慄わななかせた。
「……僕は支配者ではありません。ごく普通の、無力な一市民ですよ」
 その言葉に、錬金術師は微笑した。
「繁殖という、種族繁栄において最もよみされし能力を秘めているのであれば、そなたが支配者に違いない」
 虹は屈辱に顔を歪めた。
「余はシュバリー。貴金族の長である。また錬金術の叡智であり、求道者でもある。そなたの名は?」
 黄金の美貌のなか、まばゆく光る深紅色はふたつの星のようだ。かくも神秘的だが、いわくいいがたい邪悪さと無慈悲さを示す光が煌めいている。重厚な黒衣を身に纏い、さながら闇の皇子か。
「……こうです」
 どう名乗るべきか迷った虹は、ただ名前だけを告げた。
「コウ。水晶王ともあろう者が、震えているのか」
 虹は胸の前をかきあわせながら、怯えた眼差しで錬金術師を仰ぎ見た。
「小鳥のようだな……この甘い匂い、コウのものか?」
 長身がかがみこみ、虹は怯えて顔をそむける。いつの間にか壁際に追いつめられ、心臓は震えるような鼓動を刻んでいた。
「隠してはならぬ」
 両手首をつかまれ、強引にひろげられた。
「ゃ……っ」
 胸元がはだけて、しめりっけを帯びた乳首が露わになる。シュバリーは数秒ほどじっとそこを見つめていたが、やがて囁いた。
「愛らしいな。胸にふたつ蕾が咲いているようだ」
「僕みたいなつまらない男を、貴方のような方が、なぜ構うのですか」
 やめてくれと、心の底から思いながら虹はいった。
「そなたに興味がある」
 黄金色の指が、虹の乳首を軽くはじいた。虹がびくりと震えると、錬金術師は口角をもちあげた。
「我ら貴金族は、錬金術を極める過程で体内受胎を棄てた。我らにとって命は、魔術から錬成されるものだ。そなたが同胞とまじわり、胎に宿す胤は水晶と聞くが、真か?」
 四本の腕が妖しく蠢く。胸を撫でながら、腹を撫でまわされ、虹は身をくねらせた。
「やめて、やめてください」
「この胎には、天与の生命創造能力を秘めているのであろう? 余の黄金を孕みしとき、そなたが何を産むのか知りたい」
 うち腿のあいだに掌がさしいれられ、虹は蒼褪める。流れ堕ちる箒星ほうきぼしのように躰の血が引いていくのを感じた。
「王は蜜壺、命の霊液を垂らすと聞く。水晶族の王よ、乳首から垂らすのか?」
「やめてくださいっ」
 きゅっとつまれて、虹は戦慄する。
 黄金の王は四つ腕を伸ばし、虹の手をたやすくひとまとめにすると、手首をしばり、壁に備えつけられた黄金の輪にぶらさげた。
 虹はもはや無力だった。黄金の手が胸に這わされるのを、唇を噛み締めてこらえることしかできなかった。
「……この蕾のような胸の粒から、霊液を垂らすのか。水晶族の千年紀を養うかてとは真か?」
「ん……や、何もしないで……っ」
 きゅっと乳首をつまれて、虹は瞳を潤ませた。
 怯える水晶族の主君を、まがつ赤い瞳が見おろしている。
「宇宙に寵愛された君主は、随分と果敢はかない風情であるな。余は叡智の王。そなたの神秘を解き明かしてみせようぞ」
 妖しい笑みを浮かべて、顔を近づけると、すんと匂いをかぎ、舌を伸ばした。
「やめて! ぃや……っ」
 ねっとりと舌が絡みつき、虹はその身を震わせる。
「ン……く飲ませよ、甘い霊液を」
 シュヴァリーは探るように舌を這わせていたが、蜜を舌に感じたとたんに、大胆な舌遣いで吸いあげてきた。
「おお、甘い! 霊液とは本当なのだな」
 よこしまな笑みを浮かべ、さらにむしゃぶりついた。
「やぁ、あ、あ、あぁンッ」
 じゅっじゅっと吸われるたび、虹は声をあげた。腕を戒められた状態で、妖しく身をくねらせる。
 金色の悪魔の巧みな愛撫に、虹は息もたえだえに喘いだ。恐ろしくてたまらないのに、淫らな責め苦から逃れることはできない。
 まさか水晶族以外で、己が欲望の対象にされるとは思っていなかった。だが黄金の錬金術師はかれたように舐めしゃぶっている。
「ぁ……っ」
 腰をするりと撫でられ、虹は慄いた。両の太腿をまたぐようにしてシュヴァリーが伸しかかっているので、暴れることもままならない。
「こちらも蜜をこぼすのか……?」
 はしたなく膨らんだ股間をもみしだかれ、虹は唇を噛み締めた。
「んンッ、離して……っ」
「離すものか。そなたを手中にするために、どれほどの時間を費やしたと思うておる。この宇宙の時間と空間のあらゆる弥終いやはてに遠征して、ようやくそなたという外宇宙への秘鑰ひやくを見つけたのだ! 千年紀を癒す霊液、飲み干すまでは離さぬぞ」
 美貌の錬金術師は、雄めいた表情で口角をもちあげると、虹の下肢をくつろげた。透けた肌着を見て、手の動きを止めた。
「見るなっ!」
「よく似合っているではないか」
「……僕の趣味ではありませんよ」
 いいわけがましく虹はいった。ひらひらした絹の下着は用意されたものだ。
 錬金術師は顔を近づけて、まじまじと股間を凝視してきた。内腿に暖かな息がかかり、虹の肌は泡立つ。
「……艶めかしいな。水晶族の白蝋はくろうめいたかおは好かんが、そなたの蜂蜜を溶かしたような肌はなかなか良い。淡い黄金のようだ……」
 顔をそむけた瞬間、あたたかな息が股間にかかった。
「やめろ! イヤだ」
「厭? ……先端を透けさせて、旨味しみが染みだしているではないか。慈しんでやろう」
「ウッ!?」
 はむっと股間にむしゃぶりつかれた。絹のうえから、芯をおびた性器をくちびるで愛撫される。
「何を……っ」
 まさか、口淫されるとは思わなかった。高貴な身分であるのに、なんの躊躇いもなく咥えるなんて――
「これほど香気芬芬たる肢体とは……ここも甘いのか?」
 濡れた絹は肌に張りつき、もはや素肌と同化している。尖らせた舌の先に、蜜口をえぐられて、虹は喘いだ。
「あ、あぁ、やめて、くださいっ」
「ン……く飲ませよ」
 じゅっと吸われて、悦楽が腰に走る。
「ひっ、僕の体液は同族以外には毒なんです。股間がもげ落ちますよ」
 苦し紛れに虹がいうと、黄金の錬金術師は笑った。
「面白い嘘をつくのだな」
「本当ですから」
「乳首はたっぷり吸ったが、何ともないぞ。英気が満ちているくらいだ」
「ひっ……離して、ください……お願いします……っ」
 情けなくも哀願する虹の頬を、黄金きん色の手が撫でる。
「強烈だな。水晶王とは蟲毒こどくであったか。甘い声にこの肢体……余に隷属を囁きかける。このまま抱きたいところだが……」
「っ、やめて……」
「今は抱かぬ。そなたは蟲毒こどく、耐性を身につけなくては……まずは飲ませよ」
「あっ!」
 淫靡に濡れそぼり素肌と同化した絹を、つと横にずらされ、熱を帯びた性器がまろびでた。シュバリーは、虹の目を見つめたまま、濡れた先端に黄金きん色のくちびるをつけた。
「水晶王よ、目をそらしてはならぬ……余のくちびるで果てるがいい」
 淫らで無慈悲な宣告のあとに、大胆にむしゃぶりついた。
 どれほどの男と経験が? そう疑いたくなるほど、巧みな舌技だった。媚薬のように熱く、蛇のように絡みつく舌に溺れてしまいそうだ。
「あぁッ、あ、あ、や……っ……離して、だめ、ふぅ……っ」
 紅玉髄カーネリアンの双眸が虹を眺めている。身もだえる痴態をたのしんでいた。
 いいようにされるのが悔しくて、せめてもの矜持で達するものかと悦楽に抗おうとするが、追撃の愛撫を緩めようとしない。
「ん、やぁ」
 ついに腰がびくびくと震えて、吐精をきざした。
 黄金きん色の眸のなか、深紅の光が燃えあがる。視線は雄弁だ。射精するがいい――嗜虐的な淫らさで囁いている。
 厭、厭と虹は頸を振る。絶頂の瞬間を堪えようとしたが、容赦なく攻めたてられ、
「あぅぅ、で、ちゃぅうっ!!」
 びゅるっ!
 熱い口腔に解き放った。断続的な射精のあいだ、くちびるはぴったりと性器に吸いついて、一滴もこぼすまいと喉奥に嚥下していく。
「んっ、はァ、ン……美味……満ちるっ」
 くちびるを亀頭につけたまま、シュヴァリーは吐息のように囁いた。暖かな呼気が触れて、その刺激にまた虹は震える。
「ぁ、も、離して……っ」
 押しのけようと試みるが、シュヴァリーはふたたび顔を深く沈めた。えもいわれぬ悦楽に、虹の背が弓なりになる。じゅっ、じゅっ……絢爛な金色のくちびるに、残滓までも貪欲に吸いあげられ、全身は燃えるように熱く、汗がふきでる。
「は、ぁ……そなた媚薬か? 甘くて濃い、夢にも知らぬ液体ぞ。なんと凶悪な蟲毒こどくであることか。此の世の全ての錬金術を蘊奥うんおうせしめる余の魂を呪縛しようとするか……ありえぬ、余が隷属するなど……っ」
 顔をあげたシュヴァリーは喘ぎ、息を落ち着かせようと肩で息をしている。黄金の頬を天然の蜂蜜のように輝かせ、虹を見つめたまま、くちびるを食いしばる。ともすれば、服従と崇愛を口走ってしまいそうだというように。
 このとき、幾星霜を生きる錬金術師は、生まれて初めてともいえる、真の狼狽に襲われていたが、間もなく強靭な意思の力で抑えこんだ。
 虹は精魂尽き果て、もはや抗う気力もなく、鎖を外されても逃げることは不可能だった。豪奢な寝台に運ばれ、己を組み敷く男を仰ぎ見ることしかできない。
「そなたも余になじむのだ……」
 シュヴァリーは壮麗な黒衣を脱ぎ捨てると、黄金の裸体をさらした。弱弱しく蠢く虹をうつぶせにして、伸しかかる。閉じた大腿のあいだに、熱した黄金の棹を挟みこんだ。
 ズ、ズズッ……艶めかしい抽挿ちゅうそうが始まり、虹は慄く。
「あ、あぁっ……厭、やだ……っ」
「やめるものか。ようやく手にした夢幻の象徴ぞ!」
 四度五度六度と打ち続く突進に、虹の性器も絹のしとねに擦り擦りと、涙のごとく蜜を沁みこませる。
「いやぁッ」
 逃れたくても、たくましい四本の腕には叶わない。
「ふ、幾世紀とも知れぬ星霜にわたって、水晶族はそなたを夢想しつづけたのだろうよ……しかし、余が手にいれた。そなたはもう余のものだ!」
 金色の精液が迸り、虹の肌を濡らした。シュヴァリーは絶倫ぶりを発揮し、つづけて虹の内腿で自らをしごき、黄金の精を解き放った。
「ぃや、やだ、もう放して……」
 すすり泣く虹の尻をシュヴァリーは鷲掴み、大胆に揉みしだいた。
「やぁ……ンッ、そこは」
 蕾に指が触れて、虹は慄く。
「挿れはせぬ……だが、ここを余のもので擦ってやろう」
 尻のあわいに熱塊を挟みこみ、烈しく前後させる。虹は真珠色の絹を掴み、揺さぶりに耐えるしかない。
「は、悦い……っ」
 シュヴァリーは金色の精を放った。虹の下半身は、すっかり金色に塗れていた。すすり泣く虹の肌に、熱い掌が這いまわる。虹は逃げようと必死に身をくねらせるが、男の嗜虐を煽るだけだった。
「まことに媚薬のような躰よ。何度果てても足らぬっ!」
 荒々しく尻を揉みしだかれ、虹は背を弓なりにした。
「あ、あぁっ! あぁンッ!!」
 官能に溺れきった叫びをあげて、自らも白い蜜を噴きあげながら、黄金の精が尻から腿に流れるのを感じた。絢爛な炎にとろかされて、躰が溶けていく。
「水晶族の落魄らくはくを救うなど、およずれに過ぎぬと思っていたが、もはや疑う余地はあるまい。そなたこそ“千の仔を孕みし水晶子宮ファルル・アルカーン”である」
「……いわないで……僕は違う……違うんだ……っ」
 シュヴァリーは禍々しく微笑すると、虹の耳にくちびるを寄せた。吐息を吹きこむように、
「今夜はここまでにしてやろう。だが覚悟せよ、そなたを逃がしはしない。日毎夜毎、この乳を飲んでやろう」
「ぁン……っ」
 乳首をきゅっとつまれて、あえかな吐息をこぼした。さんざん吸われた蕾に、うっすらと蜜が滲む。
「この幼い性器も……舐め溶かしてやろう」
 陰嚢ごと柔らかく性器を握られて、虹は身をよじる。
「ぁッ、ぃや……」
「厭ではあるまい。先ほども、余のくちびるで果てたではないか……」
 虹は精一杯の抵抗を試みるが、四つの腕に翻弄される。両の乳首を弄ばれ、性器をしごかれながら、尻たぶを揉みしだかれる。一斉に攻めたてられ、息も絶え絶えに喘ぐことしかできない。
「“千の仔を孕みし水晶子宮ファルル・アルカーン”……震えて、夢にも知らぬ芬芬たる体液を流し、小鳥のように囀る……っ」
 虹は羞恥にくちびるを噛み締める。シュバリーは薄い躰を容赦なく開かせ、くちびるを奪った。
「ん、ふ……っ」
 たっぷり咥内を貪ってから、顔を離した。紅い眸のなかに、熱を孕むかのような火焔の色をきらめかせた。虹の濡れた唇を親指でぬぐいながら、
「……この身を蟲毒に慣らし終えたあかつきには、この躰を最後まで貪ってやろう……そなたのすべてを余に捧げるのだ」
 虹が弱弱しく顔をそむけると、錬金術師は酷薄な微笑を浮かべた。赤い目が輝きを増して、露わな欲望が、燧石ひうちいしからほとばしる火花のように煌めいた。
「いずれ、そなたの胎に余の黄金の活液を注いでやろう。生命の開闢かいびゃくを見せてもらうぞ」
「あ、んぁっ」
 濡れそぼった後蕾に指がもぐりこみ、金色の精を塗りたくるようにうごめいた。
「そのときは……存分に、この熱い秘奥ひおうを突きあげ……余の精を注ぎこんでやる。そなたが孕むまでやめはせぬ」
「や、ぁん、抜いてっ、ぁ……っ」
 ぐぷぅっと水音がはじけて、ゆっくりと指は抜けていき……シュヴァリーは蜜に濡れたその指を、見せつけるように舐めあげた。
「甘い……」
 虹はさっと顔を背けた。羞恥と恐れに心を満たされながら、灼けるような熱視線が肌に注がれるのを感じた。
「我が軍勢は伝説的である。全宇宙を支配し得るほどにな……そなたは余の伴侶となるのだ。水晶と黄金の華燭かしょくの典を挙げようぞ」
 無防備な背中を、黄金きん色の指がつとなぞる。虹は唇を噛み締め、ぞくぞくとした刺激に嬌声があがりそうになるのを堪えた。
「休むがいい。せいぜい蟲毒こどくを生成しておくことだ……明日もたっぷり吸ってやろう」
「っ、ぅ……」
 虹の頬を涙が伝い落ちる。哀れにか弱い姿を、錬金術師が眺めている。驚くべき不可解な優しさのこめられた微笑であったが、虹が気づくことはなかった。
「悪いようにはせぬ。そなたは、余の追い求める完璧な黄金オリハルコンを宿せるかもしれないのだから」
「……僕にそんな力はありません。これは慮辱だ……」
 虹は精一杯冷たくなじるが、錬金術師は低く笑うだけだった。
 やがて、扉のそとから施錠する音が無情に響いた。シュバリーがなにか命じて、見張りについている哨兵が、厳めしい声で返事をしている。
 靴音が遠ざかると、しんとした静けさが部屋に満ちた。
 虹は、己の無力さを呪った。両腕で頭を抱えこみ、木の葉のように身を震わせながら、ただ涙を流していた。