したたる雫をすくった舌が、ねっとりと幹を舐めとっていく。形の良い唇が押し広げられ、自分のものが出入りしている光景を、光希は信じられな思いで凝視していた。えもいわれぬ快感を必死に逃がそうとするが、ジュリアスに下から仰ぐように見つめられ、瞬時に身体が燃えあがった。
「ッ」
　危うく極まりかけ、光希は身を引こうとするが、そうはさせまいと強く腰を引かれた。あっけなく、背中から絨緞の上に倒れてしまう。次の瞬間、激しく口淫された。
「あぁッ！」
　押しのけようと金髪に指をさしいれるが、殆ど力はこめられていない。
「“だめっ！　でちゃ……離してっ！”　ジュリッ」
　窮状を訴えると、ジュリアスは腰を掴んでいっそう口淫を深めた。信じられないほど淫靡で濡れた音が、あらぬところから聴こえてくる。とうとう追い詰められ、絶頂の瞬間に抗おうとしたが、ジュリアスの手も唇も巧みで、とても抗えなかった。
「も、でちゃ……っ……あ、あぁ～――ッ……」
　光希の思考は真っ白だった。激しく拍動する心臓が、鼓膜の奥で煩いほど鳴り響いている。ジュリアスは断続的に痙攣する腰を掴んで離さず、性器を啜りあげて残滓までも奪いとった。
　放熱の余韻に朦朧としていると、両足を左右に開かされ、光希はようやく我に返った。
「えっ……」
　青い双眸に欲情を灯して、ジュリアスは局部を覗きこんでくる。今度こそ、光希は憤死するかと思った。
「ジュリッ」
「……私を忘れてしまっても、甘い身体はちゃんと覚えている……でしょう？」
　ジュリアスは吐精した性器をあやすように撫でながら、杯を傾けた。絨緞が濡れるのも構わずに、尻のあわいにも垂らしていく。
「な、なに？」
「大丈夫、恐がらないで……光希は、私に何度も抱かれてきたんです」
「や……っ」
　思わず光希は足を振りあげた。蹴りあげようとしたが絡め取られ、酒の雫と共に、ぬめった指先が後孔に潜りこんできた。
「“そ、それだけは無理ッ！　抜いて”」
　入浴は済ませているが、そんな風に触れられるとは思っておらず、光希は烈しく動揺した。
「痛くないでしょう……？」
　ジュリアスは宥めるように囁いた。火照った肌のあちこちを吸いながら、より一層、指を奥深くまで潜りこませた。
「“無理だって……動かさないでッ”」
　ついに、長い指のつけ根まで挿入されて、光希は涙目で震えた。怖いのに、もっとして欲しい……彼に愛されたい。入口をくつろげるように蠢く指先に、翻弄されてしまう。混乱と羞恥心で光希の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちると、ジュリアスは舌で優しく舐めとった。
「大丈夫……怖がらないで……」
　そっと囁きながら、ジュリアスは何度も指を抜き差しした。ぬぷ、と引き抜いた指を舐めて濡らし、再び後孔に宛がう。二本の指で内壁をくすぐられて、光希は官能に悶えた。
「あぁ……ッ」
　内壁の凝りを掻かれた瞬間、腰が弾けた。未知の快感に全身が慄（ふる）える。
「ここ、覚えていますか？　気持ちいい？」
　甘い疑問口調に、光希は必死に首を振って応えた。尻を弄られて、こんなにも深い快感を得られるとは知らなかった。なかを弄る指は、心得たように、敏感なそこばかりを擦りあげる。
「う、ぁ……“抜いて”」
　懇願とは裏腹に、熱くうねる内壁は、ジュリアスの指をきゅうと食い締めていた。
「大分柔らかくなりましたよ……」
　呟きの意味は判らなかったが、光希はこれから起こる展開を恐れて、恐々とジュリアスを仰いだ。すると美貌が傾いてきて、唇が重なった。
「……んぅっ」
　ねっとりと口内を舐られながら、三本に増やされた指で後ろを甘く犯される。時折、悪戯に性器も弄られて、前も後ろも、ぐずぐずに蕩けていった。
「ああっ……あっ、あぅっ！」
　凄まじい力で身体をひっくり返され、肉づきの良い尻のあわいに舌が這わされる。蕾を舌で突かれ、光希はとろんとした瞳に、僅かに理性を呼び戻した。
「ジュリッ？」
　衝撃に呼吸を止めていると、縁をなぞっていた舌は、ぐぐっとなかへ潜りこんできた。中を舐められている感覚に、光希はうつぶせたまま、絨緞にしがみついた。
「“やだ、嫌っ”」
「本当に“イヤ”？　思いだして……私に、こうして触れられていたことを……」
　低い睦言に誘われて、光希は恐る恐る振り返った。光彩を放つ青い瞳に、確かな欲情の灯を見て震えあがった。断片的な記憶が、呼び起こされる――この美しい男（ひと）から、こんな風に、蕩けるような愛撫を受けたことがあったのだろうか？
「何度抱いても、光希の初々しさは変わらないけれど、今の貴方には少し酷かな……」
　優しく髪を撫でられると、光希の緊張は少し和らいだ。身体から余計な力が抜けていくと、ジュリアスは甘くほほえんだ。くったりした身体を抱き起し、首に両腕を絡ませ、胡坐を掻いた膝を跨らせるようにして、光希の身体を垂直におろした。
「恐いなら……こうして私にしがみついていて」
　行為への恐怖が少しでも和らぐよう、ジュリアスは下履きを寛げただけで、光希の目に性器を見せずに、後孔へ猛ったものをあてがった。
「んぐっ」
　光希はジュリアスにしがみついた。ぐぐっと、熱塊が狭い入口を押し拡げて、ゆっくりと挿入（はい）ってくる。
　緊張のあまり、光希が身体を強張らせていると、ジュリアスは苦しげに呻いた。
「少し、力を抜けますか？」
　光希は小さく頷いた。こうした行為は初めてではないのかもしれないが、今の光希には知る由（よし）もない。どうしても恐怖が勝る。強張りを解けず、ごめんなさい、と口走る光希の顔を、ジュリアスは両手で挟みこんだ。
「謝らないで、光希。大丈夫だから……ね？」
　額に、頬に、目もとに、唇にキスをされると、光希の瞳から涙がぽろりと零れた。情欲を堪えて、案じるように見つめてくるジュリアス。労わるように自分を抱きすくめる彼のことが、どうしようもないほど好きだ。
　その瞬間、ぱぁっと視界が開けた気がした。
　好きだと自覚した途端に、恐怖は急速に遠ざかり、愛しさがこみあげてきた。
「そう、力を抜いて……上手に呑みこめていますよ」
　光希が落ち着くのを見て、ジュリアスは肌のあちこちに唇を落とした。
「ん……」
「なるべく、ゆっくり動きますね」
　首筋を啄まれながら、波間をたゆたうように身体を揺すられる。甘く奥を突かれ、光希は気持ち良さそうに目を細めた。艶めいた吐息が首筋にかかって、ぞくぞくする。彼も気持ちよくなってくれていることが嬉しくて、身体は増々蕩けていった。
「んぁっ」
　ふいに膨らんだ前立腺を先端で擦りあげられ、光希は目の前にいくつも星がとんだ。とてもできないと思ったが、悦楽に沈むうちに、身体は勝手に揺れ始めた。
「あぁっ、あ、んんっ……“いぃっ”」
　喘ぐ光希の唇を、ジュリアスが奪う。卑猥な音と共に身体の奥を突かれながら、性器を掌に扱かれ、逃げ惑う舌を、熱い舌に搦め捕られる。強烈な官能の渦に翻弄されて、眼裏（まなうら）に蒼い稲妻が走った。
「あ、あぅっ……“も、いっちゃ”、あぁッ……！」
　身体中の性感帯を刺激されて、光希は悦楽を駈けあがった。無意識に充溢を食いしめてしまい、ジュリアスも熱い吐息と共に、びくびくと痙攣する奥深くで放熱を遂げる。
　なかを濃厚な熱に犯されながら、光希はくたりと甘えるようにジュリアスにもたれかかった。愛おしむように、肌のあちこちにキスをされて、思わず幸せな笑みが零れる。
「愛しています、光希……いつまでもずっと、貴方だけを……」
　愛を囁かれているのだと、光希にもはっきりと判った。身体は疲労困憊しているが、好きな人に全身で愛されて、心は満たされていた。ゆっくり上体を起こすと、ジュリアスを見つめて、自分から唇を重ねた。
（彼のことが、好きだ……）
　胸にぽっかりと空いていた穴に、暖かな明かりが灯っている。金色に燃える焔は、夕陽に燃えるアッサラームにも似ていた。光希の場所は、ここだけ……彼の、ジュリアスの傍に在るのだと、今、ようやく判った。