アッサラーム夜想曲

第4部:天球儀の指輪 - 21 -

 寝台に寝そべりながら図面に手を加えていると、

「明日からクロガネ隊でしょう? 程々にしてはいかがですか?」

 呆れを含んだ声が頭上に降ってきた。つい、生返事で応える。

「――聞いていないでしょう?」

 うん、と言いそうになり流石に自重した。
 手を休めて隣を見上げと、ジュリは上半身を背もたれに預けて、なにやら資料をめくっていた。

「ジュリこそ……まだ仕事?」

「少しだけ。陸路偵察任務の編隊をそろそろ考えたいのですが、中央とベルシアの両方と交渉中なので少々揉めていまして……」

「陸路の編隊って歩兵隊も? アージュも行くの?」

「いえ、彼には残ってもらいます。特殊部隊には行ってもらいますが」

「また? こないだ負傷したばかりなのに。特殊部隊の任期ってどれくらいなの?」

 特殊部隊所属のユニヴァースは、合同模擬演習でジュリと対戦した際に肋骨を痛めた。ジュリと一緒に見舞いに行っら、割と元気そうにしていたが怪我人である。

「開戦前には解体しますよ」

「ジュリも……また遠征するの?」

「作戦が並列しているうちは、しばらくアッサラームに留まります。陸路はナディアに任せようかと。開戦すれば当然私も前線に立つことになりますが……」

 大戦が近づいていると思うと憂鬱になる。今からこんなことで、いざ遠征となった時、耐えられるのだろうか……。
 図面に視線を落としながら埒もない思いにふけっていると、ジュリの手が伸びてきて、上から図面を取り上げられた。

「あ……」

「いつまで見ているの?」

「返して」

 取り返そうと腕を伸ばしたら、更に遠ざけられた。無言で見つめ合う。膝立ちになって奪い返そうとしたら、ジュリも応戦してきた。

「大人げない」

「光希より年下ですから」

「ふはっ、こういう時ばっかり!」

 つい笑ってしまった。つられたようにジュリも笑顔になる。笑った拍子に思考が飛び、そういえばと思い出した。

「そうそう、サリヴァンがね、今度ジュリと一緒に神官宿舎を見においでって言っていたよ。イブリフ老師に会うといいって……」

「老師に?」

「僕、行ってみたい。ジュリの都合はどう?」

「そうですね……判りました。調整しますから、少し時間をください」

 光希は笑顔で首肯する。ジュリは手にしていた書類を片付けると、光希の腕を引っ張って抱き寄せた。
 綺麗な顔が間近に迫り、思わず鼓動が跳ねる。
 急に流れ出した甘い空気にどきどきしていると、ゆっくり唇を塞がれた。
 瞳を閉じれば、唇を割って熱い舌が潜りこんでくる。舌を触れ合わせると、味わうようにからめ捕られる。
 深いキスを交わしながら、するりと腰を撫でられ……太腿の付け根をぐいっと持ち上げられた。ジュリの上にまたがる姿勢になり、下腹部は隙間なく密着する。猛りを布越しに感じて、顔は熱くなった。
 長いキスの後に、互いの吐息がかかる距離で見つめ合う。
 青い双眸に恋情を乗せて訴えてくる。ぞくりと震えるほどの深い想い……貴方は、私のもの、絶対に離さない――。
 後ろに逃げると、追い縋る唇に吐息すら奪われた。

「んっ! は……っ、ぁ……」

「――ッ、ン……」

 甘いキスをしているのに、切なさがこみあげる。ジュリとするキスが好きだ。望めばいつでも与えて欲しい。
 不安なんか、溶けてしまえばいいのに……!
 顔を傾けて、深く交差する口づけに、光希の中心もいつの間にか硬く勃ち上がっていた。
 ジュリは器用に光希の夜着をたくし上げると、胸の膨らみごと口に含んだ。唇で乳首を挟んで舌でねぶる。もう片方も指で細かくはじかれ、背中は限界まで弓なりにしなった。

「んっ、は……っ」

 快感を逃がそうと腰をよじると、下着の中に直接手を入れられた。尻臀を丸く包む大きな手に、形が変わるほど揉みしだかれる。
 長い指が割れ目をなぞり、秘めやかな窄まりを探られると、身体は逃げようとする。

「や……」

 強い腕が、逃がさないとばかりに下半身を押さえつける。乳首をしゃぶられながら窄まりを弄られ、指先が差し入れられる。

「や、ぁ……っ」

 身体のあちこちにキスをされながら、あっという間に裸に剥かれた。隠れるようにジュリの胸に顔を埋めて、夜着を握りしめていると、原始的な腰使いで下肢を刺激された。
 堪らずに身体を浮かした瞬間、反り返った屹立を優しく握り込まれた。突き抜けるような強烈な快感。

「はぅ……っ!」

 危うくきかけた。膝立ちになるよう促され、その隙にジュリも服を脱ぎ捨てる。香油を取り出すと、光希の下半身にたっぷりとかけた。
 濡らした指をつぷりと根本まで挿れると、ひだを擦り上げながら前後させ始める……。

「ん……っ」

 後孔を解されながら、屹立を扱かれた。括れをくすぐられ、袋までやんわりと揉みこまれる。
 合間に乳首を舐められて、昂りは脈打ち腹を打つほどに反り返った。孔がひくついて、食まされた指を締めつけてしまう――。

「――挿れるよ」

 欲に濡れた瞳に見つめられながら、猛りを埋め込まれる。奥まで入ったジュリの熱が、ゆっくりと動き始める。中を擦りながら限界まで引き抜いては、再びゆっくりと、奥へ奥へと挿入はいっていく。

「あっ、ン……ッ、あ……っ、ぁ……!」

 乳首を食まれ、性器を弄られながら、後ろを焦らすようにえぐられた。何度も、何度も……。
 激しい抽挿よりも、波間をたゆたうような腰の動きが好きだ。深くて淫らで甘くて……大切にされていると思わせてくれる。
 自分よりも光希を優先しようとする、ジュリの優しさ。強い愛を感じる。守られているとも。
 この瞬間だけは、あらゆる不安から遠ざかっていられる。
 与えられる熱に身を任せ、何も考えずにどこまでも二人で昇りつめてゆく。

「光希……」

 前立腺の傍を擦り上げられて、一際強く腰が跳ねた。集中的にそこを責められ、えもいわれぬ快楽に支配される。
 堪えきれず、反り返った屹立から精液が勢いよく噴きあがった。

「や……っ、あぁ――っ!」

 嵐のような放熱。中を抉るジュリを食いしめた。艶っぽい呻き声と共に、最奥を穿うがたれる。

「……ッ……!」
「あ、ぁ……っ……」

 ジュリが達すると同時に、光希もまた細切れに吐精した。
 くたりと体重を預けてもたれかかると、望むままに力強い腕で抱きしめてくれる。光希も首に両腕を回して、何も言わず、ただしがみついた。